花追い放浪記

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クロムヨウラン コウの花図鑑

2021-08-02 | コウの花図鑑

7月に見つけた野草の花(大分県)

 

クロムヨウラン(黒無葉蘭)

 Lecanorchis nigricans Honda var. nigricans

 

ラン科 ムヨウラン属 
花期 : 6~8月
生育地 : 照葉樹林の林床
分布 : 不明(明らかになっているのは、高知県、宮崎県)
RDB指定 : 環境省カテゴリ:なし 大分県:なし

なんだ、花が咲いてないじゃないか! とお怒りの声が聞こえてきそうですが、これは閉鎖花なのです
クロムヨウランは開花する事なく、自家受粉し結実する
開花するクロムヨウランは、トサノクロムヨウランとして区別されたのだ

トサノクロムヨウランは開花するとはいっても、他殖ではなく、あくまで自殖という事なので、開花の為のエネルギーを無駄に消費している事になる
その点クロムヨウランは、どうせ自殖なんだから花を開く必要なんてないさ、という実に賢い選択をした

クロムヨウランは菌従属栄養植物で、ベニタケ科の菌(外生菌)から栄養を摂取している事がわかっている
これは、クロムヨウランに限った事ではなく、すべてのムヨウラン属がそうであるとの事
つまりクロムヨウラン(ムヨウラン属)は、腐生菌ではなく、外生菌根菌及び木本と3者共生系を形成し、菌を通して間接的に樹木から栄養を摂取している事になる
今年(2021年)観察した際、クロムヨウランの根本に菌類の担子器果が出現していた
クロムヨウランの共生菌かな? と思ったのだが、落ち枝に生えているシロホウライタケ(腐生菌)のようだ

ちなみに、私が以前から観察していたホンゴウソウはアーバスキュラー菌根菌から栄養を得ている
この菌類は、外生菌とは異なり、寄生した植物の根の細胞内に侵入し、樹枝状体を形成して栄養を摂取する
マイフィールドのホンゴウソウは、ヤブコウジが刈り取られて以来、衰退する一方である
結局、菌根菌を通してヤブコウジから栄養を摂取していたホンゴウソウは、栄養源が刈り取られ衰退していったのだ
以前、ホンゴウソウがヤブコウジから栄養を得ているとの記述をブログに記載したところ意見をいただいた
正確には、アーバスキュラー菌根菌を通して、間接的にヤブコウジから栄養を得ていると記すべきだったのだ

トサノクロムヨウランは、開花するとはいえ、それは非常に短時間だそうなので、クロムヨウランとの判別が難しいようである
トサノクロムヨウランとクロムヨウランの区別点は以下のように記されている
①クロムヨウランは一度も開花せず、つぼみのまま落下する
②クロムヨウランは、トサノクロムヨウランより花が小さい
③クロムヨウランはトサノクロムヨウランよりも唇弁の紫色部の面積が広い
④クロムヨウランの唇弁先端の毛は短く密でよく分枝するのに対し、トサノクロムヨウランは長く疎であまり分枝しない
⑤クロムヨウランはトサノクロムヨウランよりも花弁の付け根が太い

花が咲かないクロムヨウランよりトサノクロムヨウランの方が山野草ファンの心をつかむのだろうが、私はクロムヨウランのように合理的な進化を遂げた植物に興味をいだく

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