生まれつきにぎやかなことが好きなのだろう。
私はもよりの公園で催される盆踊りに参加した。
新型コロナがこのところ猛威をふるっていた
から、実に六年ぶりの開催である。
踊り始めが、午後七時。
およそ一時間前に会場に到着していた。
開会にはまだ間がある。
あちこちぶらぶらしながら、見知った顔にでく
わさないかと目線をさまよわす。
空気はねっとりして、肌にまとわりついてくる
がそれほど気にならない。
会場まで歩いて片道十五分かかった。
病上がりだが、体調はいたって良く、しゃん
しゃん歩けた。
(自在に歩けることがこんなに嬉しく、しあわ
せに感じるなんて……)
何だって、神さまのおはからい。
そう思うようになったのは、歳のせいで信仰心
があつくなったからではないだろう。
何だっておのれの思うようにいくと思い、しゃ
にむに突進した頃がなつかしい。
次第に空が暗くなり、黄昏となった。
だが、ひとりとして、なじみの人にめぐりあわ
なかった。
北の空、黒雲の動きばかりが気がかりになる。
夕立の心配である。
ときおり稲妻が走った。
降るとなったらゲリラ豪雨。
傘は持参したが、よこなぐりでは仕方ない。
ずぶぬれ覚悟で来た。
「第十三回鹿沼市A地区盆踊りの開催を宣言いた
します」
やっとアナウンスがあった。
しかし、すぐには踊りが始まらない。
来賓連中の祝辞やらがつづいた。
(早く始めればいいのに……、雨が……)
心中、まことに穏やかならず。
寄せ太鼓につづいて、本番となった。
踊るは、和楽おどり。
今までに二三度参加していたが、手と足のうごき
がなめらかとはいかない。
どちらかに気をとられると、一方がお留守になっ
てしまう。
笛や太鼓がそれぞれの音を、ボリュウムアップ
しだした。
さいわいなことに、目の前にお手本になる方が
おられた。
同じ組内で歳も近い。
五分くらい体を動かしたところで、どこも痛かっ
たりだるかったりしない。
「よしっ、これなら大丈夫」
私は全力で踊りだした。
一時間以上、ほとんど休みなしで踊ったろう。
両足がふらついていた。
かろうじて立っている。
「せんせいっ」
ふいに女の子の声がして、わたしの体を支えた。
突然の出来事だった。
わたしはわけがわからない。
「ピースして、ピース」
目の前に中学生くらいの女の子がふたり、こちら
を向いてスマホをかまえている。
ちらっと首をまわし、その子が塾生だったことを
確かめた。
今度は状況がはっきりした。
彼女が入塾したのは小学一年生、今は早や、中三
になっていた。
胸がジンとした。
「なんや、写真撮るんんだね」
「そう」
「じゃあ素顔のままがいいね。ピースもひとつじゃ
なく、ふたつだ」
私はかけっぱなしの老眼鏡をはずした。
私の畑わきの小道が登下校に利用されている。
野良仕事をしているのを見つけると、いま、わたし
を支えてくれている子が必ず、「先生」と手を振った。
しばらく体調がすぐれず、畑が草のジャングルになっ
ているのが気がかりだったのだろう。
写真を撮り終えてから、
「先生、元気でね」
彼女が耳もとでささやいた。
「わかった。ありがとう。あなたもね」
「はい」
教師冥利につきる。
(神さまありがとうございます)
こころの中で言った。
私はもよりの公園で催される盆踊りに参加した。
新型コロナがこのところ猛威をふるっていた
から、実に六年ぶりの開催である。
踊り始めが、午後七時。
およそ一時間前に会場に到着していた。
開会にはまだ間がある。
あちこちぶらぶらしながら、見知った顔にでく
わさないかと目線をさまよわす。
空気はねっとりして、肌にまとわりついてくる
がそれほど気にならない。
会場まで歩いて片道十五分かかった。
病上がりだが、体調はいたって良く、しゃん
しゃん歩けた。
(自在に歩けることがこんなに嬉しく、しあわ
せに感じるなんて……)
何だって、神さまのおはからい。
そう思うようになったのは、歳のせいで信仰心
があつくなったからではないだろう。
何だっておのれの思うようにいくと思い、しゃ
にむに突進した頃がなつかしい。
次第に空が暗くなり、黄昏となった。
だが、ひとりとして、なじみの人にめぐりあわ
なかった。
北の空、黒雲の動きばかりが気がかりになる。
夕立の心配である。
ときおり稲妻が走った。
降るとなったらゲリラ豪雨。
傘は持参したが、よこなぐりでは仕方ない。
ずぶぬれ覚悟で来た。
「第十三回鹿沼市A地区盆踊りの開催を宣言いた
します」
やっとアナウンスがあった。
しかし、すぐには踊りが始まらない。
来賓連中の祝辞やらがつづいた。
(早く始めればいいのに……、雨が……)
心中、まことに穏やかならず。
寄せ太鼓につづいて、本番となった。
踊るは、和楽おどり。
今までに二三度参加していたが、手と足のうごき
がなめらかとはいかない。
どちらかに気をとられると、一方がお留守になっ
てしまう。
笛や太鼓がそれぞれの音を、ボリュウムアップ
しだした。
さいわいなことに、目の前にお手本になる方が
おられた。
同じ組内で歳も近い。
五分くらい体を動かしたところで、どこも痛かっ
たりだるかったりしない。
「よしっ、これなら大丈夫」
私は全力で踊りだした。
一時間以上、ほとんど休みなしで踊ったろう。
両足がふらついていた。
かろうじて立っている。
「せんせいっ」
ふいに女の子の声がして、わたしの体を支えた。
突然の出来事だった。
わたしはわけがわからない。
「ピースして、ピース」
目の前に中学生くらいの女の子がふたり、こちら
を向いてスマホをかまえている。
ちらっと首をまわし、その子が塾生だったことを
確かめた。
今度は状況がはっきりした。
彼女が入塾したのは小学一年生、今は早や、中三
になっていた。
胸がジンとした。
「なんや、写真撮るんんだね」
「そう」
「じゃあ素顔のままがいいね。ピースもひとつじゃ
なく、ふたつだ」
私はかけっぱなしの老眼鏡をはずした。
私の畑わきの小道が登下校に利用されている。
野良仕事をしているのを見つけると、いま、わたし
を支えてくれている子が必ず、「先生」と手を振った。
しばらく体調がすぐれず、畑が草のジャングルになっ
ているのが気がかりだったのだろう。
写真を撮り終えてから、
「先生、元気でね」
彼女が耳もとでささやいた。
「わかった。ありがとう。あなたもね」
「はい」
教師冥利につきる。
(神さまありがとうございます)
こころの中で言った。
おはようございます🌞
盆踊り、
日本の夏の風物詩ですよね☺️
小説も素晴らしくて。
お互いステキな一日に
なりますように☆★☆
テル