油屋種吉の独り言

日記や随筆をのせます。

MAY  その36

2020-02-06 16:10:36 | 小説
 リスだけではない。
 たぬきやきつね、それに森の中のありとあ
らゆる動物たちが洞窟の入り口付近に集まっ
ていた。
 「これはいったい、なんてことでしょう」
 メイは眼をみはり、そう言ったきり。
 「ありがとう、みなさん」
 やっとのことで、そう口にすると、動物た
ちにむかって、何度も何度も頭をさげた。
 太陽が昇り始めたのだろう。
 差しこむ陽射しがまぶしさを増してきた。
 動物たちがざわつき始める。
 「日の出じゃからな。いつまでもこうしちゃ
おれんて。そろそろ、わしの正体を明かすと
きが来たようじゃの。実はな、メイ。わしは
ある人に頼まれてな」
 白髪の老人がそう言ったとき、メイと大の
仲良しのリスが彼のもとに近づき、後足で立
ち上がり、前足をすりあわせた。
 「なんだい。どうしたんじゃ。何か言いた
いのか」
 彼は腰をかがめ、リスの話に耳をかたむけ
てから、ううっとひと声うなり、
 「そうじゃな。どこであいつらが聞き耳を
立てているやもしれぬ」
 とつぶやいた。
 彼の顔が見る間に紅く染まり、しわっぽく
なった。
 まるで赤ちゃんが今にも泣きだすようだ。
 顔といわず首といわず、彼の白い毛が逆立
ち、波立つように動く。
 ひょっとして思ったより年が若いのかもと、
メイはこころの中でつぶやいた。
 「なるほど。そうじゃな。もう少しこのま
までいたほうが良さそうじゃ。そんなことよ
り、この森をどうやってもとに戻すか。それ
が一番の問題じゃな。はてさてこれからどう
したものか」
 陽射しが苦手なものたちは、三々五々、立
ち去っていく。
 メイと長い間付き合っていた連中は、老人
を中心にして、一つの円を描くように、寄り
集まり、何ごとか相談しはじめた。
 メイのなじみのリスの意見が、一番みんな
の賛同をえたらしい。
 「よし、それじゃ、おまえが話したものを
ここにいるみんなに見せてやってくれ」
 老人が指示すると、リスは洞窟のなかに跳
びこんでいった。
  
 ひとつの透明な石のかけらが、老人の眼の
前に置かれている。
 差しこんでくるかすかな陽射しにも、それ
はキラキラ輝く。
 洞窟の外に話し声がもれたら困るのだろう。
 全員、洞窟ふかく立ち入っている。
 「おまえがメイに話してやるがいい」
 老人の言葉にリスは深くうなずき、後ろを
ふりかえった。
 「なんなのリスさん、わたしに話って。聞
かせて。あなたの声を」
 リスはいつものように立ち上がり、小さな
口をゆっくり動かしはじめた。
 キイキイが、次第に意味をもって、メイの
耳にとどいてくる。
 「メイさん。いよいよあなたの出番がやっ
てきたのです」
 「出番って?ステージに立つわけでもない
のに。何を言うの」
 「これを使って、やることがあります」
 「わたしが?へえっ、いったい何をやるん
でしょうね。そこらへんに転がっているのよ。
こんな石」
 「そんなはずはありません。この石はこの
洞窟にしか存在しません。特殊なんです。こ
の石の力を借りましょう。そうすればなんと
かなります。今ここにある危機を克服するこ
とが可能です。森の平和を、さらには地球全
体をもとの姿にもどすことができるでしょう」
 リスの話が壮大すぎ、メイはおいそれとう
なずくことができない。
 こんなちっぽけな石のどこに、そんな偉大
なパワーがひそんでいるのか、理解すること
ができないでいる。
 (スーパーマンって、青っぽい石に触れる
と、彼の力が減退したわ。これは、そのお話
とは逆みたい。ひょっとして、これって、わ
たしのママらしい人が、小学校の運動場の土
手でわたしに告げた役割なんだろうか)
 メイが考えたことが解ったのでしょう。
 リスは、小さく、ふふっと笑い、
 「そうです。まるでさかさまです。この石
が、まさにあなたに勇気と希望を与えてくれ
ます」
 と言った。
 
 
 
 
 
 
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