油屋種吉の独り言

日記や随筆をのせます。

晩秋に、伊勢を訪ねて。  (7)

2020-02-16 07:33:58 | 旅行
 「運転手さん。四十年ぶりに鳥羽に来まし
たよ」
 久しぶりの訪問に興奮したのだろう。
 運転席のすぐ後ろにすわったわたしは、初
めて逢った年配の運転手に話しかけた。
 彼は客のおしゃべりには慣れこになってい
るようで、
 「そりゃよかったですね。来てくださって
うれしいです」
 「日光のそばから来ました」
 ますます調子にのり、ふたこと目を口にし
てしまった。
 「そうですか。わたしのほうもね。つい最
近日光に行ってきましたよ。四十年ぶりです」
 と、愛想笑いをうかべて応えてくれた。
 (同い年くらいだろう)
 親しみを感じてしまったわたしは、もっと
話そうと思った。
 しかし、彼は客の命を預かる身。
 バスが、旅館やみやげ物屋が軒をつらねる
狭い路地を走り出すようになってからは、わ
たしはすぐに口を閉ざした。
 車窓に視線をうつす。
 建物の間から、漁船やフエリーが見え隠れ
する。
 それらの景色から、思い出の場面を、ひと
つでもほりおこそうとするが、なにひとつ浮
かんでこない。
 年のせい?それとも、なにやらが始まった
あかしか、と気をもんだが、四十年という月
日の永さである。
 あまり気にしないことにした。
 せがれがみっつだったろうか。
 お盆の時期。
 ふるさとの家族といっしょだった。
 バスが急坂をのぼり始めて、二三分経った
ろうか。
 ふいにバスがとまった。
 半島の突端に、ホテルが立っていた。
 「ありがとうございました。どうぞ、ごゆっ
くり、楽しんでいってください」
 下車するとき、運転手はわたしのほうを向
き、その言葉にこころをこめた。
 ふだんあまり笑わないわたしが、
「また、日光に来てくださいね」
 といった。
 チェックインには、まだ時間があった。
 ロビーは、全面ガラスばり。
 大小の島々がコバルトブルーの海に浮かん
でいるのが見えた。
 せがれとふたり、温もりのつたわってくる
コーヒーカップを手にするとし、窓辺の席に
すわった。
 下をのぞきこむ。
 海面からどれくらい離れているだろう。
 あちこちに、いかだが浮かぶ。
 その上で、人が釣り糸を垂れている。
 せわし気に、漁船が行きかう。
 彼方を見ようと、視線をあげた。
 港の先端からフエリーが船首を突き出した
かと思うと間もなく、その全容を現した。
 小島を縫うように、外洋へと走りだす。
 「きれいだね。来て良かったね。こんな景
色、うちじゃ見られないもの」
 せがれが目をまるくする。
 「ありがとう。おまえのおかげだよ」
 いつの間にか、受付に人の列ができていた。
 「さあ、部屋に行こうか」
 わたしが言っても、せがれは窓辺を見つめ
たままだった。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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MAY  その37

2020-02-13 16:07:47 | 小説
 いよいよ、その石がある場所に行くことに
なった。 
 白髪の老人が先に立って歩きはじめた。
「メイや、ほらこっちだよ。このあたりにな。
こんなにたくさん」
 白髪の老人は、付近をはばかるような声で、
そう言うと、歩きながら口々になにごとかさ
さやいていた動物たちが静まりかえった。
 「う、うん。でもね。わたしなんだか怖い
わ。暗いところが大の苦手なんです」
 「あっはっは。だいじょうぶだよ」
 彼はまるで若者のようだ。
 歩くたびに、彼のころもがひるがえり、筋
肉隆々の両脚がかいま見えた。
 朝の陽ざしが、彼を応援するように斜めに
さしこみ、彼の行く手を照らし出す。
 「ほら、メイちゃん。怖がらないで、はや
くはやくおいで。ここ、ここだよ。今、話し
てた石があるのは」
 メイは素直に彼の言うことをきけない。
 なんだか、うす気味わるい。
 洞窟の内部もそうだが、老人の正体もしっ
くりしなかった。
 「ここだよ。ここ。ほら、こうやるとな」
 彼は持っていた杖で、洞窟の壁をこすったり
たたいたりした。
 そのたびに、壁をおおい隠している苔が、か
たまりとなって落ちた。
 「ほうれ、これだぞ、これ。光ってるぞ。ま
さに見事なものだわい」
 メイはその言葉にひかれ、今すぐにでも行っ
てみたい気がするが、なかなかふんぎりがつか
ない。
 「さあ、メイさん。大丈夫だから。あの人を
信じて。決してわるい人ではありません」
 幼なじみのリスが、メイのそばにやって来て、
言った。
 「そうね。あなたがそう言うなら」
 ほうれ、これじゃよ、と老人が手渡してくれ
た石を、メイは手のひらにのせた。
 リスが見せてくれた石となんら変わらない。
 (キラキラしてて、とってもきれい。透きと
おっているところは水晶に似てるけど、結晶じゃ
なさそうだし。ちょっとさわったら、すぐにこ
われちゃうんだもの。こんなもろい石、みんな
が感心するほどのすごいパワーを持っているの
かしら)
 「信じられないようだな。まあ、むりもない。
今にわかるから」
 老人はそう言うと、地面に落ちていた石のか
けらを拾い集め、腰ひもに結わえていた、小さ
な黒いきんちゃく袋に、ひとかけらも残さずに
入れた。
 「さあ、メイや。いつでもこれを身につけて
るんだよ。そうするとな」
 メイはあとずさった。
 「どうして逃げるんじゃ」
 「だって、だっておじさんが」
 「わしがどうしたというんじゃ」
 「わからない。わからないんです。あなたが
いったいどこのどなたなのか。わたしの母なん
かをご存じなんですか」
 メイはあやうく泣きだしそうになった。
 「ううん、それはじゃな」
 彼は、メイのそばにいるリスを、チラッと見
てから、ふうっとため息を吐いた。
 「実はな、あんたの母さん、わしはよく知っ
とる。森で逢ったんじゃ、むかし。たのまれた
んじゃ、彼女にな。できるだけ娘を助けてやっ
てくれって。願いを聞いてくれたらば・・・」
 「母さんの願いを聞いたらどうなるの。おじ
いさん。なんか変よ。あなたのからだ。どんど
ん若がえっていくみたいで」
 ふいに一匹のヒグマが、のっそりのっそり洞
窟のなかに入ってきた。
 驚きのあまり、ほかの動物たちがわっと叫ん
で、逃げ出しはじめた。
 老人の前までやってくると、ヒグマはすくっ
と立ち上がった。
 大きな口を開け、グワッと叫ぶなり、ぶるっ
と二三度、巨体をふるわせた。
 キィッ。
 老人があたりをつんざくような金切り声をあ
げ、牙をむいてとび上がった。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
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晩秋に、伊勢を訪ねて。  (6)

2020-02-11 22:48:10 | 旅行
心にたまったおりを吐きだすように、一度息
を吐きだす。 
 それから軽く会釈し、鳥居をくぐった。
 すうっと空気を吸い込むと、かすかに森の
匂いがした。
 玉砂利をザクッザクッとふみ鳴らす。
 「お父さん、道に玉っこの石が敷きつめて
あるよ。どうしてだろね。静かだし。うどん
を食べたときのいやな気分が、どこかにふっ
とんじゃうみたい」
 せがれも、何か、喜べない気持ちをいだい
たのだろう。
 ぼそりと言った。
 「ここはもう、世知がらい人の世じゃない
のさ。とおとい神さまがいらっしゃるところ
だからね。つまんないことはみんな忘れる忘
れる」
 「うんわかった。でもおいしかったね。伊
勢うどん」
 「ああ、おいしかったとも。お父さんも初
めて食べたんだ。お客さんが少ないと誰だっ
てぼやきたくなるし。きげんもわるくなる」
 「うん」
 友人Wはずっと寡黙をつらぬいている。
 長年愛知県で教員をしてきたせいか、学生
とつれだっての伊勢観光はかぞえきれない。
 だから神さまにお会いする心がまえが、お
のずとそなわっているのだろう。
 ここは外宮。
 天照大御神の食事をつかさどる、豊受大御
神が支配する領域である。
 神宮の森の木、一本一本が、神さまに許さ
れる範囲で、天にむかってまっすぐに伸びて
いこうとするように思えた。
 ふいに、森林浴という言葉が脳裏に浮かん
だが、すぐに打ち消された。
 そんな俗っぽさが通らないほど、神々しさ
が満ちあふれている。
 「お父さん、どうしたの。暗いよ。あんま
りうれしそうじゃない」
 せがれに自分の気持ちを読まれたようだ。
 とかく陰湿な思いに陥りがちな自分である。
 わたしはしゃんと背筋をのばし、神域にふ
さわしい態度をとろうと試みた。
 森林は、人類にふさわしい。
 その発生期より、すいぶん長い間、森で暮
らした。
 手足をもちい、幹によじのぼる。
 小枝をたよりに、木々の間をつたう。
 これらの行為はすべて、危険な動物から身
を守るためだった。
 猿も木から落ちる?
 そんなことも多々あったろう。
 丸めたしっぽで、しっかり枝をつかみ、転
落をふせいだに違いない。
 「手を洗ったり、口をゆすいだりするとこ
ろがここにもあるよ」
 「ああ、そうだね。よく気がついたね」
 わたしがひしゃくを右手で持ち、左手を洗っ
ているとき、ふいに、さっきのうどん屋さん
の接客のまずさを思い出した。
 心なしか唇がゆがむ。
 こんなところで、ぐちをこぼすようなこと
をしてはなるまい、と。右手の中指と人差し
指をこすり合わせ、パチンと鳴らした。
 「お父さん、うるさいよ。神さまに叱られ
るから」
 「ああ、ごめん」
 ふたりの話は、それっきり。
 三人それぞれが、周囲の人々のふるまいに
目を凝らした。
 平日にもかかわらず、人出がおおい。
 外宮の境内には、一切、立ち入らず、門の
前で両手をあわせるだけにした。
 豊受大御神は、衣食住、産業の守り神とし
ても崇敬されている。
 お礼まいりをすませた、とせがれが嬉しそ
うだ。
 「いよいよホテルへ行くんだね」
 「そうだ。ごちそうが待ってるぞ」
 「うん」
 伊勢市駅で鳥羽方面行きの列車にのりこむ。
 途中まででもいいからいっしょに行く、と
友人Wが言う。
 じゃあ早いほうがいいだろう、と、行先も
見ず、入線してきた列車に飛びのった。
 だが、各駅停車だったようで、。一駅ごと
にとまった。
 これでは鳥羽までどれくらいの時間がかか
るか見当がつかない。
 おかげ参りをやり終えたという達成感に酔っ
てしまっていた。
 車窓を流れる風景をぼんやりながめた。
 最後に鳥羽に来たのは、せがれがみっつの
ときだから、もう四十年経っている。
 辺りの様子がすっかり変わってしまった。
 あの時は、近鉄をつかった。
 JRを利用するのは、初めてである。
 乗っているのが、五十鈴川駅どまりの列車
だと気づくのに、かなり時間がかかった。
 途中一度も、車掌さんが車内を歩かなった。
 また、他人のせいにしてしまいそうな自分
を発見し、またかとみじめな気持ちになった。
 結局、五十鈴川駅で二十分ちかく足止め。
 「Kさんさあ、こんなんじゃ、おれ帰りが
遅くなってしまうからな。引き返すよ」
 「ああそれがいい。島根は遠いんだ。ほん
とにありがとう」
 この駅からおよそ二時間以上かかる大阪に、
彼は宿をとっていた。
 「わるかったね。わざわざこんなに遠いと
ころまで来てもらって」
 「ああ、いいんだ。おれ、旅行、なんだっ
て大好きだから。また機会があったら、いっ
しょに行こうな」
 「うん、そうしよう」
 反対側のホームに列車が入ってきた時には
彼はもう階段をのぼっていた。
 せがれの機転で、たまたまホームの反対側
に入ってきた特急にすばやく乗った。
 鳥羽駅に到着すると、ホテルの名が描かれ
た小さなバスがすでにわたしたちを待ち受け
ていた。
 
  
 
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寒さも世の中も、そしてわが作品も。

2020-02-10 11:45:45 | 随筆
 わが町にもようやく本格的な冬将軍が来た
らしい。
朝早く散歩すると、五六センチもある霜柱を
見つけたりする。
 最低気温がマイナス五、六度にもなる。
 しばれる、という言葉を聞いたことがある
が、まさにその通り。
 東は春日山、西は生駒山、北はなだらかな
平城の山々、南は奥ふかい吉野の山々。
 四方を山に囲まれた大和盆地もけっこう寒
いが、こことは緯度がちがった。
 比較的、温暖である。
 そんな土地で生まれ育ったわたしなど、こ
こに慣れるまで困った。
 初めのころは、日光連山を眺望できるとこ
ろにいたから、山おろしが吹いた。
 「また風邪をひいたのか」
 かかりつけのお医者さまに、気の毒そうな
顔で言われたことがある。
 寒さがきびしいわりに雪があまりふらない。
 夜は青天井だから、地面の熱が大空に拡散
してしまう。
 キラリと光る星々を、手に取るように見る
幸運に恵まれる。
 どてらを着こんで、よし行くぞ、と自分自
身に声をかけ、玄関をでる。
 これが北斗七星、あれがさそり座とやる。
 しかし、長くとどまることはできない。
 空気までもが凍りつくような、冬の楽しみ
のひとつである。
 
 墓地が近い。
 昼間そこに入りこみ、あちこち歩きまわる。
 風が強く吹くときは、卒塔婆がカタカタ鳴
りひびく。
 今、執筆中の「苔むす墓石」
 実は、苦戦している。
 宇一をどのようにして、平安の世に送りと
どけるか。
 その表し方がむずかしい。
 先ごろお亡くなりになった高橋たか子さん
の随筆を、折に触れ、読んでいる。
 泉鏡花賞を受賞された著名な小説家。
 昔、若者に人気のあった高橋和己さんの夫
人だった。
 彼女のおっしゃることが、たびたびわたし
を感動させる。
 「記憶の冥さ」・幻想的なもの。
 その中で、高橋さんはこう言われている。
 「幻想的なものは境目に成立するのだが、境
目とは、正確にいえば、夢と現実との境目、非
現実と現実との境目、非合理と合理との境目
ということである。夢自体、非現実自体、非
合理自体は、幻想的なものではない。
 夢でみたことを長々と描いても幻想小説に
はならないし、現実にはありえないユートピ
ア国らしきものだけをいくら描写しても、幻
想小説にはならないし、亡霊の出てくる話を
すべては亡霊のせいなのだという見地から作っ
てみても、幻想小説にはならない。
 境目ということは二義性ということである。
 ふたつの世界にまたがっているということ
である。どちらの世界にも通じているという
ことである。夢とか非現実とか非合理とかの
世界が、現実とか理性的秩序とか合理とかの
世界と、重なり合っている領域、その双方が
たがいに交渉し合っている、曖昧な領域、そ
こに幻想的なものの場があるのだ」
 引用が長くなってしまった。
 だが、もうひと言、彼女の言葉を聞いてみ
よう。
 「幻想小説とは、いいかえれば、安心でき
ないものを呼びさます小説である。この安心
できないものとは、人間のなかの、理性の枠
のむこうにある膨大な真実に関係があること
らしいのである」
 わたしの描くものは、みな習作と呼んでい
いものばかりです。
 でも、いつか彼女が描こうとされた、幻想
小説のような物語を生み出したい。
 そう思っています。
 新型コロナウイルスによって、人類が苦し
められている。
 あまりに小さく、正体が正確にとらえられ
ない新手の敵だ。
 早く、治療可能なクスリが欲しい。
 そのウイルスが何に弱いのか、少しでも早
く知りたいものである。
 理性の枠のむこうにある広大無辺な領域。
 それを無意識界と呼んでもいい。
 例えれば、大海原の中で小石をひろうよう
なものかもしれない。
 その世界を、さぐりさぐりしてでも、必ず
発見したいもの。
 敵はてごわく、この闘いは、戦争のような
ものだが、人類の英知を結集しましょう。
 ともあれ、お話のなかで、いつ墓地が出て
くるか。
 楽しみにしていてください。
 今、自分ができる最大限の力。
 それを、今、ふりしぼりふりしぼり、描い
ているところです。
 

  

 
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MAY  その36

2020-02-06 16:10:36 | 小説
 リスだけではない。
 たぬきやきつね、それに森の中のありとあ
らゆる動物たちが洞窟の入り口付近に集まっ
ていた。
 「これはいったい、なんてことでしょう」
 メイは眼をみはり、そう言ったきり。
 「ありがとう、みなさん」
 やっとのことで、そう口にすると、動物た
ちにむかって、何度も何度も頭をさげた。
 太陽が昇り始めたのだろう。
 差しこむ陽射しがまぶしさを増してきた。
 動物たちがざわつき始める。
 「日の出じゃからな。いつまでもこうしちゃ
おれんて。そろそろ、わしの正体を明かすと
きが来たようじゃの。実はな、メイ。わしは
ある人に頼まれてな」
 白髪の老人がそう言ったとき、メイと大の
仲良しのリスが彼のもとに近づき、後足で立
ち上がり、前足をすりあわせた。
 「なんだい。どうしたんじゃ。何か言いた
いのか」
 彼は腰をかがめ、リスの話に耳をかたむけ
てから、ううっとひと声うなり、
 「そうじゃな。どこであいつらが聞き耳を
立てているやもしれぬ」
 とつぶやいた。
 彼の顔が見る間に紅く染まり、しわっぽく
なった。
 まるで赤ちゃんが今にも泣きだすようだ。
 顔といわず首といわず、彼の白い毛が逆立
ち、波立つように動く。
 ひょっとして思ったより年が若いのかもと、
メイはこころの中でつぶやいた。
 「なるほど。そうじゃな。もう少しこのま
までいたほうが良さそうじゃ。そんなことよ
り、この森をどうやってもとに戻すか。それ
が一番の問題じゃな。はてさてこれからどう
したものか」
 陽射しが苦手なものたちは、三々五々、立
ち去っていく。
 メイと長い間付き合っていた連中は、老人
を中心にして、一つの円を描くように、寄り
集まり、何ごとか相談しはじめた。
 メイのなじみのリスの意見が、一番みんな
の賛同をえたらしい。
 「よし、それじゃ、おまえが話したものを
ここにいるみんなに見せてやってくれ」
 老人が指示すると、リスは洞窟のなかに跳
びこんでいった。
  
 ひとつの透明な石のかけらが、老人の眼の
前に置かれている。
 差しこんでくるかすかな陽射しにも、それ
はキラキラ輝く。
 洞窟の外に話し声がもれたら困るのだろう。
 全員、洞窟ふかく立ち入っている。
 「おまえがメイに話してやるがいい」
 老人の言葉にリスは深くうなずき、後ろを
ふりかえった。
 「なんなのリスさん、わたしに話って。聞
かせて。あなたの声を」
 リスはいつものように立ち上がり、小さな
口をゆっくり動かしはじめた。
 キイキイが、次第に意味をもって、メイの
耳にとどいてくる。
 「メイさん。いよいよあなたの出番がやっ
てきたのです」
 「出番って?ステージに立つわけでもない
のに。何を言うの」
 「これを使って、やることがあります」
 「わたしが?へえっ、いったい何をやるん
でしょうね。そこらへんに転がっているのよ。
こんな石」
 「そんなはずはありません。この石はこの
洞窟にしか存在しません。特殊なんです。こ
の石の力を借りましょう。そうすればなんと
かなります。今ここにある危機を克服するこ
とが可能です。森の平和を、さらには地球全
体をもとの姿にもどすことができるでしょう」
 リスの話が壮大すぎ、メイはおいそれとう
なずくことができない。
 こんなちっぽけな石のどこに、そんな偉大
なパワーがひそんでいるのか、理解すること
ができないでいる。
 (スーパーマンって、青っぽい石に触れる
と、彼の力が減退したわ。これは、そのお話
とは逆みたい。ひょっとして、これって、わ
たしのママらしい人が、小学校の運動場の土
手でわたしに告げた役割なんだろうか)
 メイが考えたことが解ったのでしょう。
 リスは、小さく、ふふっと笑い、
 「そうです。まるでさかさまです。この石
が、まさにあなたに勇気と希望を与えてくれ
ます」
 と言った。
 
 
 
 
 
 
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