徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

刀身を活かす柄前

2016-07-04 22:49:46 | 拵工作
しばらく付きっ切りで修復を施していた柄前が完成しました!



そもそも修復とは、一定水準以上の技術が注ぎ込まれた作品を、経年劣化などで破損した箇所を補修し、再度本来の性能を引き出す工作の事を指しますが、今回のご依頼は一筋縄ではいきませんでした。



元々工芸家の手によるものではなく、どこから手をつけて良いやら全く見当がつないことから、時間ばかりが過ぎていくという職人泣かせな作業でした。



下地から作り直した方が断然簡単な仕事でしたが、ご依頼内容がどうも判然とせず、手探り状態が続きました。



現状の柄下地を活かすには、一度染み込んだ溶剤や接着剤を完全に除去しなければなりません。
鮫皮からもラッカーを完全に除去し、強度の補強の為に漆で塗り固める方法をとりました。



柄成りは刀身のスペックを引き出せるように若干肉置きを蛤型に整え、柄糸を幅の狭めのものを用いることで補強と使用感の向上を重視しました。



今回、あまりにも雑な拵えを修復するということもあり、通常の倍ちかい時間がかかってしまいましたが、修復前の様にすぐに壊れてしまう外装では安全に武道の稽古もできませんので、じっくり腰をすえて取り組ませていただきました。

結果、何とかカタチになってくれましたので、職人としてはまずは一段落です。

刀剣外装のお直し・リメイク

2016-05-16 02:23:28 | 拵工作
拵えのリフォームが完了しました!



この度のご依頼は、近年に別の御刀のために拵えられた外装を、お客様の愛刀に着せるという変わったお仕事です。(注意:時代の上がる外装を着せることはできません。鞘の中に錆が落ちている可能性もあり、外装から刀身の破損が進行することがあるからです。)



全く別の刀身のために作られた拵えですので、偶然でもない限り無加工で取り付けることはできません。今回はご予算が限られることと、ある程度鞘の反りが合うことから、極力拵えを生かしたリフォームに挑戦します!



鞘は、この度の御刀よりも若干腰反りの体配(現存するツナギからも、このことが伺えます)であったことから、鯉口の角度を修正して新たに鯉口を作りました。



柄前は、一度バラバラに分解し、刀身に合わせて下地から作り直します。
(時々、柄の中を専用のヤスリで削ったり、詰め物をして刀身に合わせる加工をする業者や職方がいますが、居合や抜刀に用いる場合には避けたい工作です。)



この際に、刀身に合わせることはもちろんのこと、使用者や用途に合わせて仕立てることも重要です。今回は、以前の状態よりも柄下地を薄く仕立てましたので、新たに鮫皮の加工が必要です。



この手の工作では、鞘の形状がそもそも刀身の体配に合っていないことから、納めた状態で柄前と鞘の位置が若干ずれるという問題が発生します。
拵えの据わりが悪いということは、職方としては一番気になってしまいます。
当然ながら、新しい鞘をオーダーされた方が、拵え全体のバランスと言う意味で完成度が上がりますが、限られたご予算の中で極力良いものをお作りするためには、外見のスマートさよりも使用感や安全性の向上に注力します。
用は優先順位を明確にし、重要な箇所に技術を集中させる踏ん切りが必要になります。
特に鞘は消耗品ですので、今回は将来的に新しい鞘に変えることも視野に入れて柄前を製作しました。もし、現行の鞘に合わせて柄前を仕立ててしまうと、新しい鞘に変更した時に、またもや柄縁と鯉口の位置がずれて不恰好になりかねませんので、長い目で見たリペア性も加味して工作します。

あとは、納品を待つばかり!

脇差し拵の作り替え

2016-01-24 00:24:24 | 拵工作
昨年末から取り組んでいる脇差しの修復です。



いよいよ納得のゆく仕上がりになってきました。



当初の状態は、他の職方?によって修復が施されたばかりの状態でしたが、ご依頼者様が作り替えをご希望される気持ちがよくわかる完成度でした。
既に大幅に手が加えられており、元の状態に復古することは難しいのも事実ですが、一度分解してみたところ下地はとてもよい材料を用いていました。



そのため、今回はどうしても再生させてあげたいという気持ちで、在りし日の形状に迫りたいと思います。



この度のご依頼は、以前当工房でお作りしたお刀の外装(先日鞘のみ変更しました:アメーバブログ「鞘の修復」)の対になる脇差し拵えとして作り直して欲しいという内容です。そのため、大小のバランスを考えて柄糸の色や刀装具を選択しました。柄前の詳細は、2016年1月13日の投稿「柄前の作り替え(脇差し編)」をご覧下さい!



鞘も黒蝋色に塗り直しました。とはいえ遊び心を加えて、強い日光の下では若干螺鈿の反射が現れるように、所々下地に螺鈿を残してみました。蛍光灯下では一切見えないため、落ち着いた趣が宿りました。



あともう少し手をかけたいと思っていますが、トータルバランスとしては完成です!完成といっても、工房に置いてあるとチョコチョコ弄ってしまうため、私の手元にある限り終りが無いというのも事実なのですが・・・(笑)。

柄前の作り替え(脇差し編)

2016-01-13 00:49:28 | 拵工作
調整中の脇差しです。柄前が完成しました!



元々は江戸時代の拵えですが、近年に修復が施されて、本来の設計が滅茶苦茶になっています。現状では使い難く不細工で、実用の美意識が一切感じられません。何とか本来の輝きを取り戻したいと思います。



この状態から、納得のいく外装に仕上げ直すには、全て分解し柄下地の整形から始めなければなりません。
0から作った方が早いのですが、柄下地だけは江戸時代の最高級のほうの木が用いられており捨てるのは忍びなく、時間をかけてでも修復に挑みます。



刀装具を拵え全体のバランスと合うものに変更しました。現代製の目貫から、長年保管してきた小振りのセミの図へ。偽名のある水戸の縁頭から、銀着せの腰の低い作品へ。

次は、鞘の塗り直しと鍔の責め金加工です。

拵えのアフターケアと用途変更

2015-12-21 01:28:42 | 拵工作
当工房でお作りした柄前の修理です。
以前の完成時の投稿はこちら(柄前新規作成(居合向け大刀編))



思う存分ご愛用頂き、修復で戻ってきた時のうれしさと言ったら言葉では表現できません!
アフターケアの都度、ご依頼者様の要望は増えていくのが当然ですが、私自身もご要望にお応えする度に、更新させて頂くような心持ちになります。



今回はただ修復を施すのではなく、私と持ち主にしか分からないような微妙な、それでいて重要な調整を施します。これは、使用用途が若干変更になったことに起因する些細な修正なのですが、この違いを補整できるかできないかがプロとアマチュアの境目だと思います。詳細はこちら(用途を想定した柄前の調整)

ちなみに、同時進行で白鞘の調整も実施しました。
詳細はこちら→白鞘の修復(その1)白鞘の修復(その2)



非常に短期間で、ここまで柄糸が劣化するほどの使用頻度というのは、武道家の鑑です。



過酷な条件下での使用により、鮫皮にも異変が現れていました。一度バラバラに分解して、理想のセッティングに再構成します。
修復時の鮫皮に関する投稿はこちら(鮫皮の厚み)



諸捻りから諸摘みへ。
修復中の投稿はこちら(用途変更に伴う柄前の調整)



納品時のご依頼者様の笑顔が忘れられません。
今年もあとわずか、妥協せずに最後の最後まで頑張ります!

刀剣外装の修復と再現

2015-11-27 04:52:38 | 拵工作
破損した刀剣の修復です。



まずは外装の修復を施しました!

今回の拵えは、幕末期から明治にかけて流行した突兵拵です。
突兵拵は、慶応二年に幕府によって開設された陸軍所で盛んに用いられました。陸軍所は、前身の講武所を吸収して開設されたものの講武所の因習を引き継ぐことなく西洋式(フランス軍式)の教練を採用しました。
兵隊は、格式ある武家の出身者が大半で、教養と武術に優れた最後の幕臣で構成されていました。彼等は洋服を着用し、刀をバンドに吊り下げ皮サックに落とし差しにするよう指導されたこともあり、講武所時代に流行した新々刀をそのまま用いると教練にも支障を来たすため、やむなく愛刀を磨り上げて二尺程度に加工しました。その時に考案された外装が突兵拵なのです。洋服での着こなしが楽なようにコジリの先端を尖らせ、くり型の変わりに丸環をつけるなどが鞘の特徴です。西洋式の教練では、日本刀を用いる機会が極めて少ないことから、講武所時代には大変強固に作られた柄前は姿を潜め、柄前は非常に簡単な作りこみになっていることも突兵拵の特徴の一つです。

そんな突兵拵の中でも、群を抜いて高級将校が用いたであろう格式の高い拵えが今回のご依頼です。



しかも、状態は完璧に近いカタチで、当時の空気を宿しています。
残念な事に柄前は破損が著しく、修復は断念せざるを得ません。そのため、当時の空気感を失わせずに、柄前を全く新しく作成します。



これは簡単な様で、最も難しいご依頼の一つです。

まずは状態の確認です。



ほうの木の柄下地に印籠刻みを施し、縁頭には銀を着せて、全体を呂漆で仕上げています。形状の美しさに暫し見惚れました。



柄は亀裂が入り、もはや機能を失っています。
残念な事に、柄側の切羽が合わせ物のため、全体のバランスが崩れています。
ここまで緻密に完成された外装になると、切羽一枚でもトータルバランスに影響を及ぼします。

今回は、依頼者様ご提供の柄頭と目貫のみ採用させて頂き、柄縁は当方にて新規で作成しました。合わせ物の切羽もやむなく使い回します。
ご提供頂いた柄頭が一回り大きい事と合わせ物の切羽が若干大きめな事で、全体のバランスに与える影響が甚だしく、柄成の調整と柄縁の微調整で何とか美的センスと強度を保ちたいと思います。

ここからは、幕末の職方との知恵比べです。
突兵拵の最大の弱点は、柄前の脆弱性にあります、トータルバランスを崩さないように刀剣を生かす柄前を作りこんでいかなければなりません。
設計上の完成イメージは、突兵拵の欠点を補いつつも幕末の空気感を失わず、気品と武家の最後の輝きを宿した外装に仕立て直すことです。

そして出来上がったのが、以下の突兵拵です。



柄の長さをより実戦的に仕上げるため、若干長めに作り替えました。



柄糸を鮮やかな茶系統に染色し、青貝散しの鞘との相性を微調整しました。



柄縁は、他の刀装具との調和を図るため鑢目仕上げとし、色揚げでは光沢感を調整しました。



日本刀が最後に行き着いた一つの終着点である突兵拵を、新たな視野を吹き込むことによって再現してみました。



Before & After の柄前、指し表側。



Before & After の柄前、指し裏側。



作業開始時の記事。
柄下地(サブブログ「伝統工芸職人って」より)



作業中に鞘について思ったこと・・・。
青貝散し(サブブログ「伝統工芸職人って」より)



テラーメイドの刀装具の記事。
銅(サブブログ「伝統工芸職人って」より)
柄下地ありきの柄縁(サブブログ「伝統工芸職人って」より)



鮫着せ工作時の記事。
鮫着せ(サブブログ「伝統工芸職人って」より)
柄下地の厚み(サブブログ「伝統工芸職人って」より)



最大の特徴は、柄成です。
柄成というのは刃方峰方の形状だけをいうのではありません!
下地の重ねの平肉置きにも最大の注意を払い、使用時の力のかかり方、刀身の殺傷力を最大化するバランスの取り方などなど、「実用の美」を具現化する装置としての機能を持たせることがポイントです。
左側の柄前が今回のお刀です。右側の短くて太い柄前が、他の現代作家さんがお作りになった一般的な柄前です。

次は、刀身の修復に取り掛かります。
南北朝期の名刀ですので、刀身の研磨にも大変な慎重さが要求されます!

刀剣外装のテイラーメイド

2015-11-05 20:41:33 | 拵工作
柄前の調整です。



この度のご依頼は、「長年使っている愛刀なれど、身体に合わず、何とかしたい。」というものです。

日本刀というと、刀身ばかりに意識が向いてしまいますが、実際の使用感を決定づけるのは外装です。特に、刀身と使用者を結ぶ唯一の装置“柄前”で使用感が決まる!といっても過言ではありません。



というわけで、今回はオーナー様のお身体に合わせて、柄前のみ作り替えます。



ご要望は細部にまで亘り、現状の柄前を基準に柄の長さ、目貫の位置、柄成り、柄の幅・重ねに至るまでミリ単位でのご指定です。(詳細なご指示は、よほど自信のある方意外にはお勧めしません。ご要望通りにお作りしますが、使用感までは責任が持てません!)



刀装具も変更されることから、安全性を考えれば下地から起こさなければなりませんが、諸事情により柄下地は再利用します。一度分解し、補強を施して再度組み直しました。



黒尽くめの拵えの場合、どうしても表情が沈みますので、鮫皮の漆には若干赤みを持たせて鉄鍔との色味を調節します。これにより、グッと引き締まる効果を期待します。

これから年末にかけて、仕事が忙しくなります。
体調管理を徹底して、一振り一振り心を込めて仕上げたいと思います。

武道用刀剣外装の修復

2015-09-28 02:07:16 | 拵工作
新しい創作拵えが完成しました!題して、江戸肥後風突兵鞘創作拵えです。



大変難しいご依頼?工作?でしたが、コンセプトを持った思い通りの外装に仕上げることができたと思います。



当初、柄巻きのご相談でご持参頂いたお刀でしたが、見るからにくたびれた印象の外装で、案の定、状態は危険信号。切羽はハバキ側一枚のみ。柄巻きは、一目で素人工作とわかる武骨なもので、縁頭も器用な方がご自分でお作りになったような味のある作域。柄糸を外すと、鮫皮の加工には努力が見られるもののお世辞にも機能を有しているとは言い難い状態で、柄下地にいたっては古い下地を再利用して延長加工?途中から別の木材でつないで作られているといった状態でした。今までよくお怪我をされなかったなあ~と変な感心をしてしまった程です。



とは言え、刀身は現代刀匠最高峰の刀工の作品で、上の出来は素晴らしいの一言!鞘は、幕末~明治頃の突兵拵を流用し、鍔も当時の物が使われています。部分的にパーツだけを見ると良いものも用いているだけに、チグハグ感が益々ジャンク的な残念さをかもし出しています。



さあ困りました。柄前は、命に関わる危険性を感じますので下地から作り直さなければなりませんが、現状で使える部品は鞘と鍔のみです。
ご依頼者様の真摯なお人柄から、この方が一生持つに相応しい品格と安全性を加味して、最善のお刀にリフォームして差し上げなければなりません。



ご依頼者様は、拵え工作の依頼に不慣れなご様子でしたので、ある程度当方にて設計から完成まで、主導的に対応させていただく事といたしました。
そうと決まれば、ご予算の中で出来ること出来ないことをじっくり練る必要があります。



ご依頼者様のご要望を取り入れながら、設計を詰めていきます。この設計のために連日徹夜してしまいました(笑)。
そして、決定したコンセプトは、「自分が欲しいと思う拵え」です!
創作拵えの製作では、写し拵えや時代拵えの修復とは全く違った、難しさがあります。もはや、伝統工芸家としての立ち位置よりも、コーディネーターの様なセンスが要求されるため、生半可な気持ちでは逆に不恰好な外装に仕上がってしまいます。



そして、出来上がったのが今回の創作拵えです!
縁頭は、この度のプロジェクトのために入手した肥後金具です。鮫皮は、腹合わせの総巻きで拭き漆仕上げとし、目貫は流用、柄巻きは正絹で諸摘み巻きを施しました。切羽を2枚作成し、あそびのある鍔に責金加工、鞘の破損部を修復して完成です。
もちろん、居合や試し切りにも耐える強靭さと、ご依頼者様の身体に合わせた調整には余念がありません。

後は、納品を待つばかり!お疲れ様でした!

武蔵拵

2015-09-18 23:09:43 | 拵工作
伝説の剣豪が考案したとされる刀剣外装が完成しました。



この度のご依頼は、戦時中(昭和十年代)に作刀されたお刀の略式軍刀外装を保存し、新たに拵えを製作するというものです。



ご依頼内容を吟味した結果、武蔵拵様式の外装をお作りすることになりましたが、オーナー様のご要望により、目貫は逆に配置することといたします。



武蔵拵とは、剣豪として名高い宮本武蔵の差料とされる外装様式です。
武蔵は剣術修行の傍ら、武器にも細心の注意を払っており、刀身の長さや体配、バランス、重さ、外装の形状や使用感、刀装具のデザインや実用性を入念に調整していたことが知られています。特に、刀装具などは自作に努め、今日最高位の肥後金具として愛好家の間で取引されているほどです。



そんな、計算尽くされた拵様式の復古となると、ちょっとやそっとの気持ちでは作れませんので、研究に研究を重ねて何とかそれらしい物が完成しました!
ご予算が限られる中での調整ではありますが、刀装具は縁頭・鯉口・栗型に至るまで現存する本歌と同じ素材、ほぼ同じ形状の物にこだわりました。

今回のお刀は、鑑賞の魅力たっぷりの美術刀剣ですが、戦時中の刀剣類の中には、量産兵器として殺傷能力のみに特化したものもあり、銃砲刀剣類等所持取締法(以下、銃刀法)の定めにより存在すら許されていないものが多く含まれています。

ここで銃刀法についてちょっと触れたいと思いますのでお付合い下さい。

美術刀剣類を合法的に所持するために、教育委員会への登録制度があることは皆さんもご存知かと存じます。では、いざ登録という場合、合否の鑑定基準が設けられているのですが、その「鑑定の基準」によると不合格になるものは以下の様なものとされています。

(イ) 全体的に甚だしい錆、傷、疲れ等のあるもの、又は製作が著しく劣っているもの。
(ロ) 昭和刀、満鉄刀、造兵刀等の名称で呼ばれる素延べ刀、半鍛錬刀、特殊鋼刀等であって、日本刀に類似する刀剣類で製作工程が日本刀としての工程を経ていないもの。
(ハ) 外国製の刀剣類。

ここで気になるのが、(イ)の甚だしい錆、傷、疲れです。出土刀や上古刀などの時代を経た刀剣は不合格の可能性があります。
次に(ロ)の満鉄刀ですが、満鉄刀にはランク?のようなものがあり、古式鍛錬が施されて鑑賞にも堪えうる刀身を含んでおり、一概に不合格とするには惜しい気がします。
更に(ハ)の外国製ですが、現代刀匠が海外で作刀した刀剣類を輸入する場合はどうなるのでしょうか?

上記の様な判断が難しい場合には、個別に警察が所持の許可・不許可を判断してくれます。ただし、所持の許可が認められた場合でも、これは登録とは異なるそうですので、十分にご注意が必要です。

話がそれましたが、後はお祓いを済ませて納品です!

柄前のオーダーメイドと研磨

2015-09-02 03:24:21 | 拵工作
最高級の拵えが完成しました!



反りの深い美しい体配のお刀です。鞘だけは現状の物を用います。



刀身の魅力を邪魔しないよう、自然なフォルムで柄前を作りました!
この拵え様式は、最も格式の高い打刀拵で、江戸期を通して武家がお城に昇る時や冠婚葬祭の時など、特別な行事の時に用いました。



棒柄状の柄前を外して、新たに柄前を作成。



形状(柄成り)の違いが、使用感に影響を与えます。



ご依頼者様のお身体に合わせたオーダーメイドです。
刀剣と使用者を結ぶ装置は、外装以外にありません。
外装を身体にあわせて製作することは、本来あたり前のことなのですが、昨今刀身にばかり気が向いてしまって外装を疎かにしている武道家をよく見かけます。いざという時に後れを取らないために、外装にもこだわる事が江戸時代の常識でした。



柄前の新規作成に伴い、鍔も交換するご依頼です。鍔には刀身に合うように責金を施しました。鍔と縁頭を変更するため、柄前側の切羽も交換。



柄の長さから形状に至るまで、使用者の為だけに作ります。
オーダーメイドとはいえ、刀身とのバランスも重要です。刀身の本来持っている性能を最大限に引き出せる外装でなければ意味がありません。



柄成りは、若干刃方を深めに取った立鼓型です。刀身の形状から、天正風の柄成りに仕上げました。



柄糸は、若干細めの正絹を諸摘み巻きに施し、全体のバランスを調整しました。



柄縁は、私のコレクションの中から、腰の低い物を選択。頭は水牛の角を削り出して漆で仕上げます。



ご依頼当初、刀身に大きな歪みが見られたため、若干肉置きを調整しました。
完全には刃むらを取りきれていませんが、極力痩せないように心掛けることも研師の大切な責務です。

後はお祓いを済ませて、納品です!

拵えの修理

2015-07-27 05:30:16 | 拵工作
武道用の刀剣外装の修復が終わりました!



この度のご依頼は、大変持ち難い柄前の全面調整と一部破損した鞘の修復・・・つまり拵え全体の修理です。



ご要望により、柄前をお身体に合わせて作り直します。
刀剣のスペックを最大化して使用するには、外装(特に柄前)の調整も重要です。



より良い柄成り(柄の形状)に仕上げるため、柄縁から新規に作成しました。
銅地の燻し仕上げです。

柄縁作成時の投稿はこちら(アメーバブログ)より!
白銀工作(その1)
白銀工作(その2)
白銀工作(その3)



鮫皮を塗り固めますが、新たに作った柄縁との相性を考えて、色合いを調整します。

鮫皮の補強塗装時の投稿はこちら(アメーバブログ)より!
塗り鮫



柄巻きは、正絹の諸捻り巻きから、鹿皮の片摘み巻きに変更。



柄巻き完成直後の投稿はこちら(アメーバブログ)より!
柄前の機能

鞘の破損部を補修して、刀装具の微調整を終えたら、作業終了です!

柄前の作成

2015-05-30 04:02:36 | 拵工作
刀剣外装で、意外と軽視できないのが柄の形状です。
柄成りなどと呼びますが、刀剣を生かすも殺すも柄成りにあるといっても過言ではないでしょう。



今回は、特に入念に柄下地の整形をおこないました。
もう何度もご依頼を頂いている方からのご注文ですので、ミリ単位での指示でも対応できる自信があるのですが、念のため使用者様の手形をお預りしました。

柄前師の本領を発揮するには、注文主様の依頼熟練度?も大きく関わってくるということになります。



そのため、オーダーメイドに不慣れな方の場合には、直接お会いしてお話しをお伺いすること・現在お使いのお刀を拝見すること・武道を拝見させていただくこと・何度もメールや電話でのやり取りを続けることで、潜在的なポテンシャルを引き出す努力をします。

さらに、そこに刀身との相性、拵えとしてのバランス、刀装具の選択、写し拵えの場合には掟との兼ね合いなども、関わってきます。



ただ使い易いだけでは、美的センスを疑ってしまいますので、微妙なラインを作り出すことも重要です。
それらは全て、実用の美の上に成り立っています。

江戸肥後拵

2015-02-03 23:27:32 | 拵工作
肥後様式の外装が完成しました!



当該拵えは、江戸肥後拵えと称する幕末期に流行した様式です。



肥後拵と江戸肥後拵の違いについては、違いが判りにくいと思います。
本家肥後拵が実用一辺倒な作りこみで、居合の理念などが反映されていることから、必要最低限の柄の長さ・鞘の長さ・各部形状であるのに対し、江戸肥後拵は強靭さの中にも粋な遊び心があり、新々刀などの長大な刀身に合わせた存在感のある外装様式になっています。



肥後拵を本歌と捉えるならば、江戸肥後拵は肥後風の拵えということになりますが、上記のように江戸のデザインセンスが反映されていることにより、一つの拵え様式として今日も定着しています。



この度の工作では、武道にお使いになることから、様々な工夫を凝らしました。



拵え下地作成時の様子は、こちら!
「江戸肥後の拵え下地」(2014/12/04)

柄前の形状には、最善の注意を払いました。元々付属されていた外装と比べて、使用感の向上と使用時のバランス調整に力を注ぎ、断面図が卵型になるように製作しました。以下参照。




鮫着せ時の様子は、こちら!
「鮫着せ」(2014/12/25)

黒鮫加工時の様子は、こちら!
「黒鮫加工」(2014/12/25)

柄巻き時の様子は、こちら!
「柄巻き」(2015/01/23)

柄前完成時の様子は、こちら!
「柄前完成!」(2015/01/25)

鞘の形状は、こちらも使用時の身体への負担を軽減させるため、ご依頼者様のお体に合わせた無理の無い形状にて製作しました。以下参照。

この度の拵工作にて特に注力した箇所は、武道用途としての強靭さと観賞用としての美しさを併せ持った、使って良し飾って良しの外装に仕上げたことです。

ちなみに、刀身は南北朝時代の典型的な形状で、慶長期に磨り上げられた後も、長らく大切に扱われてきたことがうかがえる古名刀でした。おそらく、大名家などに伝わってきた由緒正しいお刀であろうことが推察されます。

  

鞘塗り時の様子は、こちら!
「鞘塗り」(2015/02/04)



この度の工作内容は以下の通りです。

○柄前の部
・柄下地の新規作成
・刀装具の入手(縁頭:銀無垢現代製を一部加工、切羽:銀無垢にて新規作成、目貫・鍔:ご依頼者様による持ち込み)
・鮫皮の加工(大名家伝来外装より流用、漆加工)
・柄巻き(正絹柄糸にて諸摘み巻き)

刀装具加工の様子は、こちら!
「銀無垢刀装具のイブシ」(2015/01/14)

○鞘の部
・鞘下地の新規作成
・塗り(人工漆?支那漆?にて、黒蝋色研ぎ出し加工)



前回製作の天正拵とこの度の江戸肥後拵では、本来の「刀剣外装の美」つまり実用の美しさに重点を置いて製作しました。



代表的な写し拵えの違いについては、こちら!
「柄成りについて」(2015/01/27)

最後にお祓いを済ませて、納品です。

柄成りについて

2015-01-27 06:18:19 | 拵工作
刀剣外装のオーダーメイド時に、最も多いご相談の一つが「どのような外装を依頼すればよいのだろうか?」といった、根本的な質問です。

確かに、刀剣外装のオキテは多岐に亘り、地域ごと時代ごとに細分化されるばかりか、刀身や刀装具との相性といったトータルバランスも重要です。
さらには、ご依頼者様の身体に合わせた調整、使用用途に合わせた工作が加味され、ご予算の都合や納期との兼ね合いも影響してきますので、一般の方の中には一体自分が何をしたいのか?すら分からずに、ただただ時間だけが過ぎてしまう場合もあります。

そこで私の場合は、ご依頼にいらっしゃった方との対話を重視し、ご依頼者様を知る事から始めています。中には、当方の価値観と著しく異なることから、やむなくご依頼を遠慮させて頂く場合もございますが、全てのご要望を満たすことは難しいことから必要なステップであると考えています。

そこで、刀剣外装のオーダーメイドをお考えの方に、まず知って頂きたい打刀拵えの大分類があります。使用感に最も直結する二種類の柄前形状です。



写真は、肥後系の柄前と天正系の柄前です。
上段の肥後拵写しは、江戸肥後拵えなどと称される肥後拵えの掟を踏襲した江戸期の常備指しの写し外装(鞘は現在製作中)。下段の天正拵写しは、室町時代末期の天正様式を再現した外装(アフターケアにて里帰り中)です。

それぞれに大きな特徴があり、その最たる違いは刀装具と柄成りに現れます。刀装具は、ご覧のとおり柄頭の形状をみると一目瞭然です。

柄成りに関しては、写真の撮り方を変えてご紹介します。



露光を抑えて、シルエットを強調しました!
両者とも立鼓(リュウゴ)と呼ばれる刃方と峰方が湾曲した形状をしています。
肥後系の柄前では、気持ち立鼓が穏やかで柄頭に向けて細くなっていく傾向が見られますが、天正系の柄前では、極端な放物線を描きながら柄頭が張る様に誇張しています。

肥後拵えは、天正拵えの変形とする見方もあるようですが、写し拵えの使用感からみた大分類として、特に個性的な存在感を放つ2種類の柄前をご紹介しました。

天正拵

2014-11-29 05:10:13 | 拵工作
天正拵が完成しました!



天正拵の写し及び天正風の拵えは、昨今特に多いご依頼の一つです。



天正拵えの最大の特徴は、何といっても武用本位の強靭さにあります。
天正拵えは、室町末期から登場し、あまり知られていませんが安土桃山時代に入ると作風がガラッと変わってしまいます。



研究者の中には、この形状の変化から、前期型・後期型と分類している人もいる程です。



今回製作した天正拵えは、上記分類から言うと室町時代末期の前期型天正様式になります。



その特徴は細部にわたりますが、簡単には立鼓を取った柄成りと鞘の形状に現れます。



詳しくは、柄縁には腰が低く若干天井の張ったものを用い、柄頭は柄縁と同程度或いは若干大きいくらいに誇張した角頭に漆を塗って仕上げます。鮫皮は一枚で包み、漆で塗り固めます。

柄前完成時の様子は、こちら!
「天正様式の柄前」(2014/10/26)

鞘は、黒漆の蝋色仕上げのものがほとんどで、くり型は武骨な大きなものを用い、肉取りは強固な中にも極力薄く仕上げた卵型です。

鞘製作時の様子は、アメブロにて公開中!
「石目鞘の仕上げ」(2014/11/27)
「鞘の炭研ぎ」(2014/11/22)
「鞘下地」(2014/11/06)



今回の工作ではお客様の意向により、柄糸の染色(限りなく黒に近い青)と鞘の石目塗りがカスタムポイントです。また、居合にお使いになることを考えて、返角は取り付けていません。
刀身は元亀年間の備前刀で、太刀の体配が美しく、外装からも刀身がイメージ出来るように、鞘をコジリに向かう程細く整形しました。
もちろん柄前の太さや長さ、鞘の帯元の形状などは、お客様のお体に合わせた特注仕様になっています。

今から納品が楽しみな一振りに仕上がりました!