徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

肥後拵

2012-02-21 20:24:42 | 拵工作
柄前が完成しました。



当該お刀には、時代拵の柄が付属しておりますが、お客様が武道の稽古にお使いになることから、柄前を新たに制作することをご提案しました。

江戸期の本歌拵は、保存が危ぶまれており、昨今著しく数が減っています。
そのため時代拵の武道用途への使用はお控えいただき、新しい拵えを新調するのが定石です。
ちなみに、新しい柄前を作成することで、文化財の保護に貢献できると共に、自分だけの愛刀に生まれ変わらせることができるので、特にお勧めします。

この度のご依頼では、お客様のご予算内でできる最高の技術で工作いたしました。
毎度の事ですが、実際には毎回予算オーバーです。(オーバー分はサービス工作(涙))
勿論、刀身との相性、実用性、芸術性、付属の時代拵えとの関係、オーナー様との相性といった、様々な要素を勘案して工作に挑みます。

タイトルは「肥後拵」ですが、正確には肥後金具を用いた打刀拵です。
刀身が室町期の実用刀ですので、ウブの頃の戦国時代の拵えを再現すべく、復古調の拵えを意識して制作しました。



刀身の反りが深いお刀です。意匠は、付属の時代拵を踏襲しました。



初期の打刀拵は、鮫皮を漆で塗り固めて、強靭性と実用性を加味しています。



柄の長さ、柄成、刀装具、柄糸にいたるまで、付属の時代拵に合わせました。



今回の柄前では、付属の拵えを踏襲すべく、ほぼ同じカタチの柄前を制作しました。



付属の拵では、柄巻きは諸捻り巻きですが、今回は片摘み巻きを施しました。



菱の数も、目貫の位置も、付属の柄前と同一に設定しました。
最後に、お祓いを済ませて納品です。

途中経過は以下のリンクより:
「鮫皮」(2012年02月13日)
「柄下地作成中」(2012年02月09日)

鮫皮

2012-02-13 00:31:53 | 拵工作
鮫皮には、いろいろな種類があります。また、各種類ごとにも個々の違いがあります。
通常の?親鮫が一つの鮫皮では、サイズが大きければ大きいほど珍重されることは言うまでもありませんが、必ずしも大きいばかりが重要ではありません。
粒の配置や並び方なども重要な鑑賞ポイントなのです。



今回用いた鮫皮は、親鮫こそさほど大きなものではありませんが、粒が親鮫の周りを九曜紋のように取り囲んでおり、見れば見るほど美しいカタチをしています。
鮫皮の美しさは、自然の産物であり、まさに偶然が生み出した『天然の美』と言えます。

当該柄前では、実用を考えて鮫皮の補強を施す予定です。
鮫皮に黒漆を塗りこみ、強度を強めます。
これは、武道に使われるお刀ですので、実用を考えた工作です。

ちなみに、鮫皮は白が基本と思われがちですが、初期の打刀拵では、ほとんどの鮫皮を漆で固めています。
白い鮫皮にこだわるのは、江戸期に入り武士階級が戦いを知らなくなってからなのです。

過去の鮫皮関連記事
「鮫着せ」(2012年01月20日)
「制作中の拵え」(2010年12月25日)

柄下地作成中

2012-02-09 00:06:53 | 拵工作
柄下地の荒削り作業です。

柄下地制作には、約10年間乾燥させたホウの木を用います。
白鞘とは違って、多少癖のあるホウノキを用います。これは、力の分散を狙ったチョイスですが、木の目が読み難くなることで加工が難しくなります。



写真下の柄前は、幕末期の本歌です。ご依頼時に付属していました。
塗鞘は、素人工作による物で、見るべき価値はありません。
当該柄前を見ると、肥後金具を用いており、程よく立鼓をとった体配には感動すら覚えます。このような柄前は、当時の高い技術力をうかがい知ることができる、数少ない生き証人です。古美術的な価値と資料的価値が、共に共存している見本のような作品です。

今回は、付属の柄前と同じ体配の柄前を制作します。これだけ反りの深い刀身ですと、柄も諸反り気味の物を工作した方がバランスも美しく仕上がるのですが、元のカタチで制作します。

昨今、本歌拵えが急速に姿を消しています。特に江戸後期の平常差しが危機的状況です。
これは、武道家によって安易に使用され、消耗されてしまうことが主な理由です。
恐らく、本歌拵の真の価値を理解しないまま、道具として使用してしまうことが理由でしょう。

当該お刀も武道家の方の指料ですが、安易に修復するのではなく、本歌は現状維持で保存し、柄前一式を新規作成されることになりました。
非常に好ましいご判断かと存じます。

ここで、日本刀所有者としての心構えをご紹介します。
日本刀を愛好するには、現所有者が「次の世代へ残すために、一時的に預かっているのだ」という認識を持つことがもっとも重要です。
日本刀を所有する又は所有しようとする方は、美術品保護者としての心構えを再認識していただき、適切な取り扱いにつとめてください。