徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

柄前巻き直し

2010-04-15 17:38:15 | 拵工作
先週末、柄前の納品で新百合ヶ丘へ出かけました。
新百合ヶ丘という街は、新しい町並みの雰囲気がよく、とても好印象です。

このたびの柄は、以前ご依頼をいただきこだわって工作したもので、私自身思い入れのある柄前です。
大切にお使いいただけていることを拝見するたびに、なんとも言えないうれしさがこみ上げてきます。

下記記事参照。
「拵え工作を終えて思うこと」 2008-08-18

昨年末、柄前の状態を確認したところ、柄糸が一部ささくれ立って指表の目貫付近の消耗が進んでいたことから、巻き直しを行うことになりました。

柄巻きを外し状態を確認すると、下地や鮫皮は作成時と変らず機能しており、問題は柄糸だけだと分かり、早速巻き直しの下準備を実施!

まずは柄糸の選択です。
柄糸は前回同様ご指定の物を用いることになり、ご要望の色を出すため、染色から始めます。
前回の紐を参考に、記録しておいたレシピを調合(これが曲者、記録通りの調合ではなかなか目的の色が現れないため、前回の紐を参考にします)。
草木染で重要なポイントは、触媒の選択です。
これを誤ると、全く違う色に仕上がってしまい、時間も紐も台無しになってしまいます。
茶色を出すには数回に分けて染色を行います(一度だけでは深みのある色合いが出ないため)。
目指す色が出たら、次は菱紙の選択。
柄糸と下地の間に入れる紙なのですが、紐の強度や種類によって数種類の和紙を使い分けています(この辺りはカンの勝負)。

そして、柄糸と下地が滑らないように用いる自然由来の樹脂を調合します。
これまた職人のカンに頼ることになりますが、柄の状態を見ると、前回の調合では不十分であったことが分かります。
そこで今回は少し多めにヤニを混ぜました。

なんやかんやと、準備が整い、完成したのがこちら。



納品当日、車で保土ヶ谷バイパスをぬけて新百合ヶ丘へ、ちょうど桜が咲き乱れる季節。
天気も絶好調!
246の渋滞もさほど苦にならず、楽しく納品に向かうことができました。

巨星おつ

2010-04-05 16:06:20 | 拵工作
週末、昨年よりご依頼いただいている短刀の拵製作中(お客様へ:毎回お待たせしてしまい申し訳ございません!別件の大刀の柄巻きは完了しています・・・)、偶然にも大磯郷土資料館にて永山光幹先生の企画展が開催されていることを知り、居ても立ってもいられず、早速車を走らせた。

お客様ごめんなさい!

当該企画展は、今年の2月から継続的に行っていたらしく、私が知った日はなんと最終日だったのです。

私が大阪で刀剣修行をしていた時、何から何までお世話になった研師の藤城先生からは、何度も永山光幹先生のことを伺っていたので、もしかしたらご本人にお会いできるのではないか?という淡い期待に胸躍らせながら、高速をひた走った。

藤城先生がご存命であったなら、どれほどうらやましがることだろうか。

渋滞の影響もさほど受けずに、大磯郷土資料館へ到着。
閉館まで後2時間。
焦る気持ちを抑えながら、企画展示室へと急ぐ。

駐車場の管理人からは、研ぎの実演は終わっている旨を伺っていたものの、私が会場に足を踏み入れた時には、数名の研師さんが舟にのって作業を行っていた。

久しぶりに目にする研師の研ぎ姿、ふとした仕草に先生の姿が重なり、目頭が熱くなる。

一通り展示品を拝見し、記帳コーナーに目を向けると、永山光幹先生訃報の掲示に目がとまった。

結局、永山先生にお会いすることは出来なかった。

きっと素晴らしい人格者だったのでしょう。
お弟子さんたちの礼儀正しさや仕事の進め方から、その人徳が忍ばれます。

そんな中、恐らく同年代の職人さんお二人と、お話しする機会がありました。
お一人はお名刺をいただく機会に恵まれず、名前を記憶できなかったのが非常に残念!
どこかでお会いしたら、今度こそ捕まえてゆっくり話をしたいと思います。
もう一方は、なんと人間国宝の某先生のお孫さんでした。

よくよく見れば、観覧者と思っていた人々のほとんど全てが門弟の研師さんでした。
尊敬する先生方とお会いできる機会に恵まれ、大満足の一日でした。

永山光幹先生のご冥福をお祈りいたします。
なお、この期に、私の師匠の様に一切表に出ず、仕事に徹した職人たちが居ることも、皆様に知っていただけましたら幸いです。