徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

武道用刀剣外装の修復

2015-09-28 02:07:16 | 拵工作
新しい創作拵えが完成しました!題して、江戸肥後風突兵鞘創作拵えです。



大変難しいご依頼?工作?でしたが、コンセプトを持った思い通りの外装に仕上げることができたと思います。



当初、柄巻きのご相談でご持参頂いたお刀でしたが、見るからにくたびれた印象の外装で、案の定、状態は危険信号。切羽はハバキ側一枚のみ。柄巻きは、一目で素人工作とわかる武骨なもので、縁頭も器用な方がご自分でお作りになったような味のある作域。柄糸を外すと、鮫皮の加工には努力が見られるもののお世辞にも機能を有しているとは言い難い状態で、柄下地にいたっては古い下地を再利用して延長加工?途中から別の木材でつないで作られているといった状態でした。今までよくお怪我をされなかったなあ~と変な感心をしてしまった程です。



とは言え、刀身は現代刀匠最高峰の刀工の作品で、上の出来は素晴らしいの一言!鞘は、幕末~明治頃の突兵拵を流用し、鍔も当時の物が使われています。部分的にパーツだけを見ると良いものも用いているだけに、チグハグ感が益々ジャンク的な残念さをかもし出しています。



さあ困りました。柄前は、命に関わる危険性を感じますので下地から作り直さなければなりませんが、現状で使える部品は鞘と鍔のみです。
ご依頼者様の真摯なお人柄から、この方が一生持つに相応しい品格と安全性を加味して、最善のお刀にリフォームして差し上げなければなりません。



ご依頼者様は、拵え工作の依頼に不慣れなご様子でしたので、ある程度当方にて設計から完成まで、主導的に対応させていただく事といたしました。
そうと決まれば、ご予算の中で出来ること出来ないことをじっくり練る必要があります。



ご依頼者様のご要望を取り入れながら、設計を詰めていきます。この設計のために連日徹夜してしまいました(笑)。
そして、決定したコンセプトは、「自分が欲しいと思う拵え」です!
創作拵えの製作では、写し拵えや時代拵えの修復とは全く違った、難しさがあります。もはや、伝統工芸家としての立ち位置よりも、コーディネーターの様なセンスが要求されるため、生半可な気持ちでは逆に不恰好な外装に仕上がってしまいます。



そして、出来上がったのが今回の創作拵えです!
縁頭は、この度のプロジェクトのために入手した肥後金具です。鮫皮は、腹合わせの総巻きで拭き漆仕上げとし、目貫は流用、柄巻きは正絹で諸摘み巻きを施しました。切羽を2枚作成し、あそびのある鍔に責金加工、鞘の破損部を修復して完成です。
もちろん、居合や試し切りにも耐える強靭さと、ご依頼者様の身体に合わせた調整には余念がありません。

後は、納品を待つばかり!お疲れ様でした!

武蔵拵

2015-09-18 23:09:43 | 拵工作
伝説の剣豪が考案したとされる刀剣外装が完成しました。



この度のご依頼は、戦時中(昭和十年代)に作刀されたお刀の略式軍刀外装を保存し、新たに拵えを製作するというものです。



ご依頼内容を吟味した結果、武蔵拵様式の外装をお作りすることになりましたが、オーナー様のご要望により、目貫は逆に配置することといたします。



武蔵拵とは、剣豪として名高い宮本武蔵の差料とされる外装様式です。
武蔵は剣術修行の傍ら、武器にも細心の注意を払っており、刀身の長さや体配、バランス、重さ、外装の形状や使用感、刀装具のデザインや実用性を入念に調整していたことが知られています。特に、刀装具などは自作に努め、今日最高位の肥後金具として愛好家の間で取引されているほどです。



そんな、計算尽くされた拵様式の復古となると、ちょっとやそっとの気持ちでは作れませんので、研究に研究を重ねて何とかそれらしい物が完成しました!
ご予算が限られる中での調整ではありますが、刀装具は縁頭・鯉口・栗型に至るまで現存する本歌と同じ素材、ほぼ同じ形状の物にこだわりました。

今回のお刀は、鑑賞の魅力たっぷりの美術刀剣ですが、戦時中の刀剣類の中には、量産兵器として殺傷能力のみに特化したものもあり、銃砲刀剣類等所持取締法(以下、銃刀法)の定めにより存在すら許されていないものが多く含まれています。

ここで銃刀法についてちょっと触れたいと思いますのでお付合い下さい。

美術刀剣類を合法的に所持するために、教育委員会への登録制度があることは皆さんもご存知かと存じます。では、いざ登録という場合、合否の鑑定基準が設けられているのですが、その「鑑定の基準」によると不合格になるものは以下の様なものとされています。

(イ) 全体的に甚だしい錆、傷、疲れ等のあるもの、又は製作が著しく劣っているもの。
(ロ) 昭和刀、満鉄刀、造兵刀等の名称で呼ばれる素延べ刀、半鍛錬刀、特殊鋼刀等であって、日本刀に類似する刀剣類で製作工程が日本刀としての工程を経ていないもの。
(ハ) 外国製の刀剣類。

ここで気になるのが、(イ)の甚だしい錆、傷、疲れです。出土刀や上古刀などの時代を経た刀剣は不合格の可能性があります。
次に(ロ)の満鉄刀ですが、満鉄刀にはランク?のようなものがあり、古式鍛錬が施されて鑑賞にも堪えうる刀身を含んでおり、一概に不合格とするには惜しい気がします。
更に(ハ)の外国製ですが、現代刀匠が海外で作刀した刀剣類を輸入する場合はどうなるのでしょうか?

上記の様な判断が難しい場合には、個別に警察が所持の許可・不許可を判断してくれます。ただし、所持の許可が認められた場合でも、これは登録とは異なるそうですので、十分にご注意が必要です。

話がそれましたが、後はお祓いを済ませて納品です!

日本刀に関する講演

2015-09-09 11:29:12 | ブレイク
9月6日(日)、新宿高島屋さんで講演会を開催しました。



当日は午前中に会場入りし、会場の設営(展示用刀剣3振、解説用刀剣1振、解説用模造刀1振、研磨道具の設置)を行いました。



午後から刀剣に関する講演を行います。席に限りがあり、午前中から観覧希望者数名がお待ち頂いているという状態で、会場は立ち見の方がいらっしゃるほど、皆さん真剣に聴講くださいました。



内容は、来年の大河ドラマにちなんで「真田家と刀剣」について、話をさせて頂きました。

真田家は、俗にいう六文銭の家紋で知られ、幕末まで続く大名家です。その発祥は清和源氏とも百済王の子孫ともいいます。そんな真田氏が歴史の表舞台に登場するのは16世紀以降、上杉→武田→織田→豊臣→徳川と名だたる武将に仕え、文武に優れた人材を輩出しました。刀剣においても、有名刀工と少なからず関係があり、日本刀の話題に事欠きません。

来月も別の会場にて、同一内容の講演を行う予定です。



講演終了後も、刀剣研磨体験などを通して、刀剣文化の面白さをご紹介できるよう努めさせて頂きました。



ご来訪くださいました皆様、ご尽力くださいましたスタッフの皆様、この場をお借りしまして、お力添えの程御礼申し上げます。誠にありがとうございました!

染色体験

2015-09-05 18:12:13 | ブレイク
地元の某幼稚園で、染色の体験会を開催しました!



14家族計50名が、藍染めを体験します。



各自持ち寄った白無地のタオルやTシャツを使って藍染めに挑戦します!



はじめに、簡単な解説と方法をご紹介。



下準備を開始。



今回は、簡単な絞り染めに挑戦です!



通常はタコ糸などで確り留めますが、どの家庭にでもある材料を使いたかったので、輪ゴムを代用します。



子供たちが、おもいおもいに布地を結わいていきます。



今回の体験会は、流しそうめんの茹で汁で何かできないか?というご相談から出発しました。そうめんを茹でると大量の塩分を含んだ汁が余ります。全く利用価値がなくて捨てる事になるのが一般的ですが、茹で汁を触媒にして染色液を吸着させる実験的な試みでもあるのです。



どの程度のpHで最も反応が加速するのか?ということを、事前に研究しておいたため、ある程度の分析はできています。



この期に及んでも、まだピンと来ない・・・といった皆さんの面持ちが印象的です。



この度用いた染色液は、誰でも手に入る市販の液状タイプです。



匂いなどから合成染料の類いですが、気軽に扱えるので体験には十分だと思います。



お父さんたちのご協力の元、煮立った染色液を30分程撹拌します。
力任せだと、せっかく結わいた箇所が弛んだり、色のグラデーションが汚らしくなるので注意が必要です。



水洗いをして余分な染料を落としていきます。
染料はしばらく色が落ちるので、色落ちがなくなるまで根気よく洗います。



輪ゴムを外して広げてみると、途端に皆さんが笑顔になります。
出来上がった作品を拝見すると、皆さん個性的な仕上がりで、センスの良い方は商品として売れそうな完成度でした!

明日は、新宿高島屋での講演があります。頭を切り替えて、シナリオを作らないと間に合いません(汗)。

柄前のオーダーメイドと研磨

2015-09-02 03:24:21 | 拵工作
最高級の拵えが完成しました!



反りの深い美しい体配のお刀です。鞘だけは現状の物を用います。



刀身の魅力を邪魔しないよう、自然なフォルムで柄前を作りました!
この拵え様式は、最も格式の高い打刀拵で、江戸期を通して武家がお城に昇る時や冠婚葬祭の時など、特別な行事の時に用いました。



棒柄状の柄前を外して、新たに柄前を作成。



形状(柄成り)の違いが、使用感に影響を与えます。



ご依頼者様のお身体に合わせたオーダーメイドです。
刀剣と使用者を結ぶ装置は、外装以外にありません。
外装を身体にあわせて製作することは、本来あたり前のことなのですが、昨今刀身にばかり気が向いてしまって外装を疎かにしている武道家をよく見かけます。いざという時に後れを取らないために、外装にもこだわる事が江戸時代の常識でした。



柄前の新規作成に伴い、鍔も交換するご依頼です。鍔には刀身に合うように責金を施しました。鍔と縁頭を変更するため、柄前側の切羽も交換。



柄の長さから形状に至るまで、使用者の為だけに作ります。
オーダーメイドとはいえ、刀身とのバランスも重要です。刀身の本来持っている性能を最大限に引き出せる外装でなければ意味がありません。



柄成りは、若干刃方を深めに取った立鼓型です。刀身の形状から、天正風の柄成りに仕上げました。



柄糸は、若干細めの正絹を諸摘み巻きに施し、全体のバランスを調整しました。



柄縁は、私のコレクションの中から、腰の低い物を選択。頭は水牛の角を削り出して漆で仕上げます。



ご依頼当初、刀身に大きな歪みが見られたため、若干肉置きを調整しました。
完全には刃むらを取りきれていませんが、極力痩せないように心掛けることも研師の大切な責務です。

後はお祓いを済ませて、納品です!