徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

サナダ鍔

2016-07-18 02:26:22 | ブレイク
今年の大河ドラマは「真田丸」、言わずと知れた真田幸村らの活躍をドラマ化したTV番組です。史実とは若干違う部分もありますが、面白可笑しく歴史に触れられることで大変人気があるようです。
真田幸村と言えば、日の本一の武士(もののふ)などと評され、最も人気のある戦国武将の一人だと思います。

そんな真田一族の歴史は古く?、成和源氏の末裔とも、百済王家の子孫とも言われています(新宿高島屋での講演会でも少しだけお話しました。)とはいえ、史実上最も早い時期に活躍した真田氏と言えば、三浦氏から派生した岡崎義実の嫡子真田義忠ではないでしょうか?

真田義忠の所領は、現在の神奈川県平塚市真田周辺といわれています。
つまり、戦国時代に活躍した真田一族の発祥の地は、神奈川県平塚市真田の一帯かもしれません。



上記平塚市真田周辺の地図を見ると、近隣には神奈川の語源ともいわれる金目川や岡崎の地名(相州伝の名工、岡崎五郎正宗との関係は?)、川上には大陸からの帰化人が入植したといわれる秦野があり、足柄山から見て東側(坂東)であることは言うまでもありません。立地条件から考えて当初のサナダ氏は製鉄氏族であったことがうかがえます。

そんなサナダ氏ですが、江戸時代には大名家としてばかりか様々な分野にも活躍の場を広げています。

高級品ではありませんが、私の好きな鍔の一つに佐名田鍔があります。別名天法鍔とも言いますが、在銘にて佐名田天法と刻まれた作品を目にします。



焼き手腐らし技法というのでしょうか、無骨な肌合いがいかにも朴訥として武人の息遣いが聞こえるような面白さを感じます。



表面には、上下写真の如く「金」の槌目が全体に見られることも特徴の一つです。この「金」の刻印の意味ですが、「金」の語源を調べると一説には「か」を「堅く」(古語で焼く意味)、「ね」を「練る」とするものがあるので、よく練った強靭な鍔だよ!といった意味を含む意匠と考えられます。



見慣れてくると、「あぁ、同じ手だな!」と分かってくるのですが、他にも特徴的な共通点があります。



こちらの写真は別の鍔ですが、共通する部分がお解りになりますでしょうか?



笄櫃の歪な形状が共通しています。鍔の下工として、半製品を鍔職人に卸していた国広鍔ですら笄櫃の形状はもう一つ上品です。あまりに不自然なのでかっこ悪さすら感じますが、実際に笄を用いるような高級な拵えに用いることは当初から想定していなかったため、あくまで形だけ誂えたといった感じがします。

ちなみに、佐名田鍔を研究されている方を存じ上げないのですが、真田家とも関係があるのでしょうか?ご存知の方がいらっしゃいましたらご一報ください!「あり」となれば、私の想像力に火がつきます(笑)。

ここからは私の行き過ぎた空想?妄想?なのですが、隠れキリシタンとの関係を疑っています。銘に天法と切ることについて、隠しメッセージとしてTemple(英)・Temple(仏)・Tempio(伊)・Tempel(独)・Templum(ラテン)を意味しているのではないでしょうか?また、隠れキリシタンの墓標には「天」の一字を用いることも良く知られています。
さらに、真田幸村は洗礼を受けていたとする説もあることから、江戸初期に大量に作られた事と当時の史実などを照らし合わせて、大阪での軍資金調達に一役かったのではないか?と睨んでいます。

その後も、例えば1636年に長崎で捕らえられたアウグスチノ会のトマス次兵衛神父は金鍔次兵衛と呼ばれており、「金鍔」は次兵衛が金の鍔の差料を帯びていたことからそう呼ばれていたとされていますが、当時ゴールドの鍔を用いていたとする時点でかなり怪しいことから、「金」の刻印が散りばめられた鍔を用いていたと解釈した方が理解がスムーズです。つまり佐名田鍔を用いていた或いは隠れキリシタンの証として信者や協力者に渡していたなど、定説よりも様々な解釈ができます。

いずれにしても、よく練れた武骨な鍔ですので、実用には大変重宝します。

刀身を活かす柄前

2016-07-04 22:49:46 | 拵工作
しばらく付きっ切りで修復を施していた柄前が完成しました!



そもそも修復とは、一定水準以上の技術が注ぎ込まれた作品を、経年劣化などで破損した箇所を補修し、再度本来の性能を引き出す工作の事を指しますが、今回のご依頼は一筋縄ではいきませんでした。



元々工芸家の手によるものではなく、どこから手をつけて良いやら全く見当がつないことから、時間ばかりが過ぎていくという職人泣かせな作業でした。



下地から作り直した方が断然簡単な仕事でしたが、ご依頼内容がどうも判然とせず、手探り状態が続きました。



現状の柄下地を活かすには、一度染み込んだ溶剤や接着剤を完全に除去しなければなりません。
鮫皮からもラッカーを完全に除去し、強度の補強の為に漆で塗り固める方法をとりました。



柄成りは刀身のスペックを引き出せるように若干肉置きを蛤型に整え、柄糸を幅の狭めのものを用いることで補強と使用感の向上を重視しました。



今回、あまりにも雑な拵えを修復するということもあり、通常の倍ちかい時間がかかってしまいましたが、修復前の様にすぐに壊れてしまう外装では安全に武道の稽古もできませんので、じっくり腰をすえて取り組ませていただきました。

結果、何とかカタチになってくれましたので、職人としてはまずは一段落です。