徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

肥後拵

2011-07-25 01:18:10 | 拵工作
肥後拵の柄前が完成しました。



肥後拵は、昨今特に写しの人気が高い拵えと言えます。

ここで肥後拵について、簡単に紹介したいと思います。

肥後拵とは、肥後藩初代藩主細川忠興(以下、三斎公)が創作した拵様式の総称です。
三斎公は、当時一級の教養人とされ、茶人としても利休七哲の一人に数えられるばかりか、三斎流の開祖としても有名な人物です。
肥後拵は、この三斎公が愛用した拵えを本歌とする、茶道の美意識と伯耆流の実用性が影響した堅牢かつ優美な平常指です。簡素な中にも、侘び・寂びに通じ、武骨に傾かずに一抹の華やかさと品格を留めていることが特徴です。

ちなみに、伯耆流の流祖は片山伯耆守久安(慶安三年没)という剣客で、彼は豊臣秀次の武術指南役として参内した際、従五位下伯耆守を受領しました。
三斎公とは、馬が合ったと見えて、その後も伯耆流は肥後細川藩に広まりました。

肥後拵は、居合に適する様に二尺二寸前後の刀身が多く、柄も短めで両立鼓をとり鮫皮を一枚巻きに黒漆で塗り固めます。柄巻きは、主に鹿皮を用いて巻き上げます。柄糸を用いる場合には、茶系統を用います。巻き方に掟はありませんが、摘み巻きが一般的です。

このたびの肥後拵写しでは、柄下地から新規で拵えました。掟に従い柄成を整え、鮫皮を一枚巻きにし、黒漆で塗り固めました。柄糸は正絹の焦げ茶色を選択し、片捻片摘巻きという巻き方を施しました。
これは、居合に用いることが前提であったため、諸摘巻きよりも強度を重視したための選択です。

ご依頼者様の要望により、柄の形状(切断面)をできるだけ丸く仕上げました。ナカゴの身幅が広い刀身であったため、ゴロンとした柄前になりましたが、こういったオーナー様のご要望に合わせたカスタマイズを施せることも、オーダーメイドの醍醐味です。

柄前作成のビフォアー・アフター写真です。


beforeの柄前は、摸造刀に良く見られる形状です(逃げ目貫が悲しい)。


afterの柄前では、掟に従い柄の長さを調整。


beforeの刀装具は、全て現代金具です。


このたびの柄前調整では、鍔、縁頭の変更を行いました(目貫のみ流用)。
鍔は赤坂鍔、柄縁は身幅の広い合うものを選びました。共に江戸時代。



次は、後日追加依頼をいただいた鞘の作成に移ります。







完成後の拵えはこちら!↓


本歌拵の修復

2011-07-14 20:40:54 | 拵工作
観賞用の時代拵の修復が終わりました。



このたびのご依頼は、江戸時代の拵えの修復です。
鞘は、印籠風の蝋鞘、コジリと鯉口は銀の磨地。鍔は室町時代の作。切羽は金着せ。柄縁と目貫は江戸時代の作。
全ての刀装具が、古美術品としての価値を有する最高級の拵えです。
ご依頼時には、柄巻きがなく、柄頭が欠損していました。

注目すべきは、一枚巻きに施された鮫皮です。



これだけ大きな親鮫ですと、大名クラスの所有品でなければまず考えられません。どのようなお刀のために仕立てられたのでしょうか?刀身が離れてしまっているのが残念です。

このたびの工作は、『柄下地の調整、柄巻き、柄頭の新規作成』です。



今回は観賞用ということもあり、諸摘み巻きという巻き方を実施しました。柄糸には、深みのある茶色の物を選択しました。



これだけ大きな親鮫ですと、鮫皮が出来るだけ見えるように、菱の部分を大きく取らなければなりません。



目釘穴の上に来る柄糸のみ、諸捻り巻きという丈夫な巻き方をしました。



柄頭を水牛の角から削りだし、漆を塗ります。今回漆が硬化するまで時間がかかってしまいました。



後は納品を待つばかり!

番指風寸伸び短刀拵え(パート2)

2011-07-02 14:24:31 | 拵工作
2ヶ月前に「番指風寸伸び短刀拵え」(2011年4月11日)にてご紹介した鞘の塗りが完了しました!

前回の様子↓
http://blog.goo.ne.jp/kosiraeshi/e/8881386ef42f3805a7358bfd881d38f6

当該お刀は、寸伸びの平造り、典型的な末備前刀です。
相当働いたと見えて、大分痩せていますが糸直刃調の焼刃はしっかりと残っており、武士でしたら「ご一代は大丈夫」と表現するでしょうか?まだまだ美術品としても武器としても価値あるお刀です。
また、長船らしくザックリとした地肌には、古研ぎながら映りも見え、鑑賞の魅力ある一振りと感じます。

今回、長らくお時間をいただき、鞘の塗りを実施いたしました。



ご依頼内容は、黒の蝋鞘でしたので、特に研ぎだした時に黒が際立つ様に漆を調合しました。(職方用に調合されて発売されている黒漆では、少し赤が強い気がします。)

鞘の形状は、居合の添え差しとしてお使いになることを想定し、長時間脇に指しても身体に負担が無いよう、できるだけ細重ねに仕上げました。
鯉口には水牛を用い、くり型は使用時の強度を考えて銘木を用いました。コジリは丸。



ついに完成です!



この拵えの工作期間には、いろいろな出来事がありました。
結果、工作がかなり遅くなってしまいましたが、首を長くしてお待ちいただいているお客様には、毎度ながらご迷惑をお掛けいたします。
一日でも早い工作を心がけていきたいと思います。