徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

金具持込の柄前完成

2011-05-19 22:13:44 | 拵工作
先々月の地震以来、計画停電やら不安定な食料品の供給状況やら、さらには家庭の事情などなど様々な要因が重なって、なかなか拵え工作に専念できませんでした。
現在は、全て正常に戻っていますが、事業計画だけがメチャクチャです。

と言うわけでお客様、お待たせしてしまい申し訳ありません!

ちなみに、今は鍛冶押し状態の新々刀長巻直しの研磨に追われており、他のご依頼がペースダウン気味です。どうも水心子系の刀身は、相性が悪いのか砥石のノリが悪いのか、やけに時間ばかりが過ぎていきます。

まずは一振り、ご依頼いただいていた柄前が完成しました!



ユニーク鞘に合わせての工作のため、かなり入念な作り込みになってしまいました。
一振一振にこんなに時間をかけていていいのか?と、私事ながら不安になります(笑)



ご依頼者様は、試斬にお使いになりますので、入念に強度を検討させていただきました。また、ご依頼時に手形もいただいていたため、何度も何度も手形を見ながら柄成を調整。ちなみに、拵えのご依頼時に握手をさせていただくことがありますが、けして私が馴れ馴れしいのではなく、手の形や握力、汗の量などを調べさせていただいているのでした。



当該お刀は、前回ブログに書いた通りの刀身ですが、反りが深く平肉が落ちているため試し斬りには持って来いの一振りと感じます。ただ、平肉を落としたお刀は、刀身の故障が多いことも事実、そこで腰反り気味の柄前として、試斬体への入射角を深くしました。
もちろん、鯉口の角度との兼ね合いもありましたので、一石二鳥という寸法です。



刀装具は、持ち込まれた現代金具を用いました。
縁頭は大森英秀の写しで、銀一作。量産品ですがとても好ましい金具です。
目貫は、これまた銀の勝ち虫です。勝ち虫というのは、武勇の象徴として武具に多く用いられる意匠ですが、19世紀末から20世紀初頭にかけてヨーロッパを中心に開花した美術運動「アール・ヌーヴォー」に通づるデザインの奇抜さを感じます。
蜻蛉の目貫は、なぜか現代の柄巻師のミスで、逃げ目抜きになっている場合を良く見かけます。逃げ目抜きは、刀剣の拵えで最も恥ずかしいミスと言えるでしょう。