徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

天正拵

2014-11-29 05:10:13 | 拵工作
天正拵が完成しました!



天正拵の写し及び天正風の拵えは、昨今特に多いご依頼の一つです。



天正拵えの最大の特徴は、何といっても武用本位の強靭さにあります。
天正拵えは、室町末期から登場し、あまり知られていませんが安土桃山時代に入ると作風がガラッと変わってしまいます。



研究者の中には、この形状の変化から、前期型・後期型と分類している人もいる程です。



今回製作した天正拵えは、上記分類から言うと室町時代末期の前期型天正様式になります。



その特徴は細部にわたりますが、簡単には立鼓を取った柄成りと鞘の形状に現れます。



詳しくは、柄縁には腰が低く若干天井の張ったものを用い、柄頭は柄縁と同程度或いは若干大きいくらいに誇張した角頭に漆を塗って仕上げます。鮫皮は一枚で包み、漆で塗り固めます。

柄前完成時の様子は、こちら!
「天正様式の柄前」(2014/10/26)

鞘は、黒漆の蝋色仕上げのものがほとんどで、くり型は武骨な大きなものを用い、肉取りは強固な中にも極力薄く仕上げた卵型です。

鞘製作時の様子は、アメブロにて公開中!
「石目鞘の仕上げ」(2014/11/27)
「鞘の炭研ぎ」(2014/11/22)
「鞘下地」(2014/11/06)



今回の工作ではお客様の意向により、柄糸の染色(限りなく黒に近い青)と鞘の石目塗りがカスタムポイントです。また、居合にお使いになることを考えて、返角は取り付けていません。
刀身は元亀年間の備前刀で、太刀の体配が美しく、外装からも刀身がイメージ出来るように、鞘をコジリに向かう程細く整形しました。
もちろん柄前の太さや長さ、鞘の帯元の形状などは、お客様のお体に合わせた特注仕様になっています。

今から納品が楽しみな一振りに仕上がりました!

古い拵えの修復

2014-11-19 01:20:22 | 拵工作
今回は、戦国の雰囲気を残す古い拵えの修復です。



古作の刀剣外装は、本当に少なくなりました。
理由は、価値のわからない人たちによって、部品だけを抜き取られたり、バラバラに分解されてしまうからです。
また、当時の雰囲気を残す時代拵えが極めて少ない最大の原因は、商売人がより利益に繋がるように、意図的に手を加えてしまうことに他なりません。

このたびの拵えは、最近拝見した外装の中では、群を抜いて当時の雰囲気を内包した健全な状態です。
如何せん、保存状態はよろしくありません。鞘は亀裂が甚だしく、柄前は下地が痩せたことで刀装具がブカブカになり、兜金にいたってはあそびが広がり、柄巻きにも影響を与えている状態でした。



柄巻きは後の時代(幕末)の物ですが、十分に骨董価値を感じますので、現状のままに修復を施しました。



また、下げ緒を追加するご依頼でしたので、柄巻きと同時期の古い下げ緒を、さらに染色して取り付けました。

下げ緒加工時の記事は、アメブロにて公開中!
「下げ緒の染色」(2014/11/05)



この手の工作は、当工房のみで解決できる場合、ついつい無料で修復をお受けしてしまいますが、材料費だけでも何とかしなければ・・・と思う今日この頃(汗)。
(修復の対価を請求し難い理由は、修復を行う職人が極端に限られるため、特に本歌の外装修復となると、モノジチを取るような文化に対する後ろめたさを感じるからです。)

陸軍刀拵

2014-11-05 17:58:26 | 拵工作
98式陸軍軍刀拵えが完成しました!



当該形式の軍刀拵えは、昭和10年代に旧帝国陸軍によって正式採用された強固で実戦的な刀剣外装です。その後の戦況の悪化に伴い、戦地へ赴く士官の装備品として多くの軍刀が製造されましたが、戦時下のひっ迫した需要に追い付かず、粗悪品が増えていきました。そのため、軍刀拵えは悪い拵えの代名詞の様に、長く嫌われてきた傾向があります。



この度の軍刀拵えは、戦時下に作刀された真面目な鍛錬刀に、軍刀拵えを着せるというご依頼でした。
ご依頼時の状態は、戦闘による破損や経年劣化により「補修を施す」という次元のものではありませんでした、結果的にご提供いただいた刀装具を用いて、拵えを新たに製作するというイメージで工作に入りました。

修復前の様子は、アメブロにて公開中!
「昭和刀(その1)」(2013/04/30)



お刀は、樋を通した2尺1寸程度の刀身であったため、使用時の操作性や行軍時の携帯感を向上させるため、若干短めの柄前としました。
特に設計上こだわった箇所は、新規に作成した軍刀としてではなく、当時の空気感の再現に重きを置いたことです。また、当時の感覚で実戦でおくれをとらない様、強靭に製作したことも最大の特徴です。



実施した工作内容は、以下の通りです。

・太刀ハバキの新規作成
・鉄鞘の入子鞘の修復
・切羽の調整
・鍔の責め金
・柄下地の新規作成
・鮫皮(江戸時代の鮫皮)一枚着せ
・柄巻き
・刀緒の補修

お祓いも終了し、全工作が完成しました!

戦争から約70年が経過し、現存する軍刀拵のほとんどが、保存状態が悪化しています。
近年、ご家族の思い出として、軍刀を大切に扱ってくださる若い方が増えてまいりました。
しかしながら、真面目な修復を施す職人が少ないことも事実です。
これからも、日本の歴史の1頁として、大戦の記憶が後世に正しく伝わることを願い、軍刀の修復にも注力していきたいと思っています。

最後まで、ご拝読ありがとうございます。