徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

長巻直しの拵え完成!

2011-03-17 20:25:02 | 拵工作
拵えが完成しました。



当該拵えは、ご依頼者様のご要望により、試し斬り重視の外装として作成いたしました。

試し斬り用の拵というのは、最も重要な箇所=柄の強度であろうと思います。
そこで今回の柄前には、厳選したほうの木(10年乾燥させた物)を用いて柄下地を作成し、鮫皮を極力すかずに厚手のまま一枚巻きに加工しました。
「鮫皮の裏地を極力すかない」というのは言葉で言うのは簡単なのですが、水分を含んだ時と乾燥時の伸縮率の開きが大きいため、鮫皮着せ作業が非常に難しいのです。
短時間で加工を急いでしまうと、小さすぎたり大きすぎたりと時間が立つほどに欠点が目立つ結果となり、結局やり直す羽目になります。今回は、この鮫皮着せに実に1ヶ月近い時間をかけて入念に仕上げました。



柄糸は、正絹の淡い鶯色の紐を選びました。これは、前回巻き直しをおこなったお客様と同じ柄糸です。

以前の巻き直しの様子はこちらから。
http://blog.goo.ne.jp/kosiraeshi/e/42eedad33bca743c9c2967e58a967c34

この柄糸を選択した理由は、ご依頼者様が女性剣士ということもあり、武骨さの中にも気高い美しさを表現したいと考えた結果です。
巻き方は、諸摘み巻きです。試斬刀や居合刀といった実戦重視の柄巻きは、手溜まりの良い諸摘み巻きをお勧めします。

鞘は、抜き差しによる鯉口周辺の破損をできるだけ抑えるような作り込みを考えてほしい旨の追加ご指示を後日いただいたこともあり、鞘下地の鯉口周辺及びコジリ周辺の刃方に特に目の詰まったほうの木を継ぎ手し、さらに鯉口から栗型までの刃方を紫檀で継ぎ手するという念の入れようで下地を完成させました。



さらに、鯉口周辺を鮫皮で覆って研ぎ出すことで、ご要望通り強靭な鞘に仕上げました。
なお、鮫皮の研ぎ出し加工の意匠にもこだわり、ウロコ状に鮫皮を配し有機的なデザインを狙いました。この研ぎ出しパターンは、江戸時代までさかのぼっても、ほとんど見かけることがありません。私自身今まで一度も目にしたことがございません。
理由は、青海波という意匠はあるものの、青海波の場合は縦方向に表現するものなので、今回のような横方向への配置は考え難いからだと勝手に想像しております。
また、このデザインを思いついたきっかけは、ハリウッド映画「ラストサムライ」の中で氏尾こと真田広之さんが着用していた日本の鎧にあるまじきバイキングスタイル?の鎧を刀剣で表現したかったからでもあります(笑)。



写真ではわかり難いのですが、コジリ周辺のみ塗り方を変えて、鮫皮のうろこ状の配置と同一のパターンを闇蒔絵の如くに表現してみました。



今回のお客様は、当工房に遊びにいらっしゃった際に、当時手がけていた短刀拵えの塗りに非常に興味をお持ちいただいておりましたので、サプライズの意味も込めて同一の荒い黒石目にて塗装し、栗型も同一の塗りを施しました。



以前の短刀拵え工作の様子はこちらから。
http://blog.goo.ne.jp/kosiraeshi/e/db1250eb5bff4702e7e474ffaf62cbc8

ちなみに、もっともポピュラーな石目塗りは、当該塗装をさらに研ぎだした物です。

この刀身は、私からお客様へのプレゼントであると同時に、私が大阪での修行時代に金銭的余裕がない中、生活を切り詰めてやっとの思いで手に入れた刀身です。幕末期、時節柄各藩は武器の備蓄に積極的でした。中には、刀匠に命じて大量の刀剣製作を指示する藩もありました。当該刀剣も城備えとして作刀された一振りでしょう。南蛮鉄を用いた長巻きを後に刀に直した物で、新々刀期の水心子系の刀身です。刃縁がしまった直刃に、無地肌風のつまった鉄が実に流派の特徴を示しています。
私の思いがつまったお刀ですので、ついつい拵えに妥協できずズルズルと3ヶ月近い歳月を工作に費やしてしまいました。

気に入っていただけることを祈りつつ、拵え工作の最後の工程、お祓いの儀に入りたいと思います。

東北地方太平洋沖地震お見舞い

2011-03-17 20:15:22 | 拵工作
東北地方太平洋沖地震により、亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様、そのご家族の方々に対しまして、心よりお見舞い申し上げます。

なお、該当地方のお客様やお取引先様、どうぞお気を強く持ってがんばってください。何かお力になれることがあればご連絡くださいませ。当ブログでも、被災地へのサポートを呼び掛けていきたいと思っております。

一日も早い復旧復興をお祈り申し上げます。