徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

拵制作技法を用いた傘

2012-04-30 23:03:10 | ブレイク
オーダーメイドの傘が完成しました!

昨今、傘を刀に見立てた刀型傘(オモシログッズ?)が販売されていますが、どれを見ても芸術性に欠ける作り込みです。
そこで、刀剣職人が本気で拵工作技法を用いたらどうなるか?という試みに挑戦しました。



柄巻きの巻き出し部と留め部に用いた胴金制作時の投稿は、以下のリンクより:
アメーバブログ「槍金具」(2012年04月18日)

柄巻き部は、一枚巻きに施した鮫皮に漆を塗り、鉄紺に染色した正絹で柄巻きを施しました。
巻き方は、諸摘み巻きという、特に鑑賞用途の拵えに用いられる技法です。



柄(え)の湾曲部には、鮫皮の研ぎ出し加工を施しました。
傘の場合、どの部分に鮫皮の合わせ目を持ってくるべきか、非常に悩みました。内側だともっとも接触する箇所です。かといって、外側だと外見上不自然。そこで横につなぎ目をもってきました。
ご依頼者様の利き腕が、右利きであることから、ご使用時にできるだけ目立たない箇所につなぎ目が来るよう調整しました。



湾曲が強いので、鮫皮を数枚に切り分けて少しずつ皮を引き延ばしながら加工しました。
現在制作中の肥後拵写しにも同じ技法を用いる予定です。

持ち手の最後尾?には、銘木を用いて丸コジリ調の加工を施しました。



武士工芸にて販売している「番傘風モダン傘」の24本の骨組みとマッチしています。

世界に一張だけの特別仕様の傘が出来上がりました!

洋鉄と和鉄(その2)

2012-04-28 14:05:00 | 洋鉄と和鉄
以前投稿しました「洋鉄と和鉄」(2012年03月18日)の続きです。

今回は、和鉄に関する投稿か?とご想像いただいた方には大変恐縮ですが、洋鉄の第二回として「S-C材」について掘り下げてみたいと思います。
S-C材は、機械構造用炭素鋼と呼ばれています。SS材(一般構造用圧延鋼材)とは違い、キルド鋼から作られる高価な鋼です。

S-C材の「C」は炭素のCで、他の特殊鋼と違って「-」の部分に数字が入ります。「S45C」とか「S35C」などと表記されています。
この数字は、含有される炭素の量を表すもので、例えばS45Cであれば、炭素が「0.45%含まれている」ということを示します。
前回もご紹介しましたとおり、炭素鋼の炭素含有量は、最小0.08%~最高1.5%までが技術的に可能です。
ところが、S-C材の炭素量の上限は0.6%までです。もちろんそれ以上の炭素を含有させることも可能ですが、0.6%よりも多くなると「SK材」と呼ばれ「工具鋼」に分類されています。このように炭素鋼の分類には、炭素の含有量が強く関わっているわけです。
炭素鋼は、炭素の含有率が増えるに従って硬くなり、より強靭になります。また、炭素の含有量が増えると、熱処理で大きな効果が得られることも知られています。
しかしながら、その効果も0.6%が上限で、それ以上では焼き入れ硬さはほとんど変化しません。それ以上に炭素を加えていくことで何が得られるのかというと、耐摩擦性が向上することが知られています。(刀剣研摩において、研ぎ易い刀・研ぎ悪い刀の違いが生じるのは、この辺に原因がありそうです。)

工業製品の製造現場では、このS-C材が多く用いられています。
S-C材は炭素鋼ですから、熱処理をおこなって初めてその性能を発揮することができます。必ず、熱処理と対になる技術なのです。

拡大解釈ですが、日本の伝統工芸の最高峰「日本刀」の正体も、この炭素鋼です。
製法は、「玉鋼」と呼ばれ、炭素を多く含んだ原材料を熱し、叩き伸ばして不純物を取り除き、それを折り畳んでまた熱して叩く・・・という工程を幾度も繰り返します。
すると、素材がいかに不均質であっても、積層を繰り返すことで均質に近い構造になります。
この「熱して、折り曲げて、叩く」という工程の中で、脱炭がおこなわれていくことから、刀匠は鉄を鍛える手応えから、好みの炭素量を決定しているのです。
日本刀は、折れず曲がらずと比喩される条件を満たすために、内側に柔らかい鉄を入れて粘りをもたせ、刃となる部分には炭素量の多い鋼を用いています。この刃の部分は、現代刀の場合、炭素含有量が0.7%以上あると言われています。
また、日本刀の熱処理は、「水焼き入れ」です。焼刃となる部分には薄く、焼きを入れたくない部分には厚く焼刃土を塗り、熱して焼き入れの最適温度になったところを見計らって水に浸して急冷することで、焼き入れを行います。
そして、その後「焼き戻し」をします。これは、焼き入れをしただけでは、刀身は硬すぎて刃こぼれや刃切れといった破損の原因になるため、ある程度の温度まで熱して適度な柔らかさを加味する作業です。

熱処理は、その材質に最適な焼き入れ温度まで温度を上げて、一気に急冷します。前記の日本刀の場合は、熱した刀を水につけて急冷する「水焼き入れ」ですが、ほかにもオイルにつけて熱処理をおこなう「オイル焼き入れ」や、零度以下にした条件下で急冷する「サブゼロ」と呼ばれる焼き入れ方法もあります。
また、熱した材料をそのままゆっくり冷却し、柔らかくしたり、残留応力を取り除いたりする作業を「焼き鈍し」といいます。

洋鉄に関するメモは、まだまだ続きそうです…。

九八式軍刀拵の修理

2012-04-23 01:27:37 | 拵工作
軍刀の修理が終わりました。

柄下地修理中の投稿は、以下のリンクより:
「軍刀拵の修復中」(2012年04月19日)

軍刀拵えというと、愛刀家の中には拒否反応を示す方もいらっしゃいますが、改めて見ていると実に美しい形をしています。


修復完了!


柄前修復前と比べると、その差は歴然。


Under restoration(修復中の写真)


After restoration:正絹(焦茶)にて、諸捻りを基調に目貫上部のみ諸摘みを施しました。

修復のお仕事では、拵えの時代背景を最大限理解する必要があります。
今回の場合は、諸捻り巻きを基調とすることで、当時最も実戦的と言われていた柄前工作を考慮しました。特注の場合、目貫上部のみ摘み巻きにするなど嗜好を凝らしていました。今日の鑑賞巻きの様な、諸摘みで仕上げた軍刀拵えは当時あまり一般的ではなかった様です。


Before tsukamaki(柄下地及び鮫皮修復時)の写真

太刀拵えの柄巻きでは、平巻きや諸摘みで巻いて猿手に柄糸を絡める方法が一般的ですが、軍刀拵えの柄巻きでは、一定の規格がありました。


After:写真の留め方が、大戦中軍事用に採用されていました。

後は納品を待つばかりです。

軍刀拵の修復中

2012-04-19 23:22:05 | 拵工作
軍刀の修復です。

今まで骨董的価値が低かった軍刀拵えですが、昨今、修復して保存に努めている愛刀家の方もいらっしゃいます。
将来的には、しっかりした軍刀拵えならば、骨董的価値が負荷されることが予想されます。


お預りした時の状態(柄下地目釘穴部破損、兜金外れ、猿手なし、ストッパー欠落、鮫皮目釘穴部脱落)


柄前修復後


刀装具を微調整し、柄下地を修復後、脱落した鮫皮を復元しました。


修復前:目釘穴の破損甚だしく、目釘が3本入るほど。


修復後:外見だけでなく機能も回復します。行軍にも?無問題。


修復後:兜金を着せて、猿手を装着するための筒状のパーツを組み込みました。


修復後:紛失していたストッパーを、新たに設置。軍刀パーツの故障で、一番多いのがこのストッパーです。98式のストッパーには、何種類か規格?があるようです。何度か調べましたが、設置できない形状のものもあり、最悪の場合当工房にて自作します。

次は柄巻きです。

信長拵写しの鞘下地

2012-04-09 22:41:02 | 拵工作
鞘の下地が完成しました!
収まる刀身は、写真下のお刀です。



柄前制作時の投稿は、以下のリンクより:
「肥後拵」(2011年07月25日)

ちなみに現状の鞘は、規格鞘などと呼ばれる既製品です。
特徴は、均等な反り具合のため、納刀時に鳥居反りの刀身のように見えることです。
また、鯉口部の径とコジリ部の径が一定のため、ノッペリとした外観になります。
そして、これが一番問題ですが、鞘の形状が使用時の配慮に欠けています。

上記の特徴は、規格鞘に限らず現代拵えのほとんどに共通する特徴です。



本来は、刀身にあった工作、外装だけを見ても刀身がイメージできるような拵え、が理想です。
無理に、写し拵えを着せることが良いとは限りませんし、刀身のための拵えでなければオーダーメイドの意味がないのです。

短刀拵のコーディネート

2012-04-04 19:37:53 | 拵工作
古名刀に短刀拵を着せるべく、作業を開始しました。
ご依頼内容は、井出正信著「江戸の短刀拵」の表紙の拵えを黒鮫、黒呂塗とし、返角をつけて制作するというものです。

さっそく本屋へ直行。ありました!「江戸の短刀拵」を購入。問題の表紙の拵えは、見開きのページに!
解説によると、この金襴豪華な拵えは、和歌山藩ゆかりの短刀拵とか…。
そして、全長38.4cm、重量145gという記載が!



写真では、縮小されており、全長26.4cmと18.5cmです。
ということは、大体の柄前の長さは、
{7.3cm×(38.4cm÷26.4cm)+5.1cm×(38.4cm÷18.5cm)}÷2≒10.6cm
後は、黄金比に当てはめて妥当な鞘の長さを導き出すだけ…と、ここで大きな落とし穴が!
そうです。この写真の短刀拵には返角がありません。

返角のある拵えの場合、使用感を考えると最低限の長さの鞘が必要です。
そこで、鞘の長さを決めてから、拵え全体の長さを所載物と同じ比率で作成します。



現状は荒削り状態、柄成も未調整です。これから、拵下地の制作に入ります。

白鞘とやけに長さが違うのでは?と思われた方もいらっしゃると思いますが、白鞘はあくまで休鞘ですので、必要最低限の長さしかありません。

当工房では、ただ意匠を本歌に合わせるのではなく、ご依頼者様が使用することを前提としたオーダーメイドを心がけています。
また、刀身に合った外装工作にも注力しています。