徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

工作を終えて

2009-08-31 14:04:36 | 拵工作
居合をお使いになる方から、御刀の柄前製作依頼をいただいてから随分時間が経ってしまいました。他の依頼がいっぱいで、期間のご指定をいただいていない修復がなかなかこなせていない現状には、我ながらなんとも情けない有様です。
とは言え、一つずつこなしていく他ないので、泣き言は言ってられませんね。
8月中に終わらせるつもりでいた拵を、ギリギリセーフで今日終わらせることができたため、休憩を込めてブログ更新、画像をアップ!



今回は大摺上げ新刀。見た所、一見現代刀?と思うほど地金が綺麗な御刀です。刃中の働きが面白く、鑑賞研ぎをかけてみたい!と思う一振りです。
体配は新刀然とした寛文体配、新刀と見るのが掟通りでしょうか、大きく揚げられていることから判断が分かれるところですが・・・、新古さかいといったところが無難でしょうか。
私は、毎回拵えが完成してから上をゆっくり拝見させていただくことにしているのですが、個人的にこの御刀の様な直刃の刀が大好きですので、この鑑賞の時間がたまりません。
拵え工作前にみる時と、拵え完成後にみる時とでは、見方が不思議と違う気がします。
よくよく見てみると、匂い出来の刃縁が幾多の働きを見せていて、打ちのけやら足やらもはいっています。地の鍛えは古研ぎながら若干柾がかっていて大和を感じます。
この手の御刀は、三原か仁王かと考えるも鎬が低いところがむずかしいところです。



何にしても、長さも重さも居合には丁度よく、バランスが取れていて持ち主のセンスの良さがうかがえる一振りでした。

刀と脇差

2009-08-02 18:07:02 | 拵工作
刀剣関連の書物を見ると、刀や脇差の鑑定手法が必ず載っています。
これは有名な刀匠が作った刀に人気があって、それだけ贋作が出回っていることを示唆します。

しかし、どの鑑定本を見ても、統計学的な日本刀の掟を紹介しているばかりで、掟外れの刀の見分け方が載っていません。そもそも掟外れ=偽物と思いがちです。
特に、刀と脇差で掟が違う流派などでは、長すぎる脇差、短すぎる刀が物議を呼ぶことがしばしあります。

初歩的なことですが、日本刀の種類には、刀・脇差・短刀など数種類がございます。刀と脇差の違いは?と言われると、正直判りにくいですね。
しかし、これが実に簡単なのです。
刃渡りが、60.6cm以上の日本刀を刀、60.6cm未満の日本刀を脇差といいます。
これは規制当局の登録上のルールです。
しかしながら、侍が活躍していた時代に教育委員会も警察庁もありませんでしたので、当然二尺以上だから刀、二尺未満だから脇差という考え方もありませんでした。
たまに、江戸時代の武家諸法度に刀と脇差のサイズが規定されているという方がいらっしゃいますが、そのような事実はなかったかと記憶しています。

交通機関の発達していない当時の知識や概念を統一化することは難しかったでしょう、ましてや数センチ違うからといって問題にもならなかったのではないでしょうか。今ほど長さにこだわりがなかったことが、安易に想像できます。
特に文化庁などへの作刀申請もない時代ですから、依頼主に二尺二寸の脇差を作ってくれと言われたら、刀匠は「二尺以上は刀なので脇差は作りません」とは言わなかったはずです。つまり、二尺を超えた脇差もあれば二尺未満の刀もありました。

いつの時代も、後に出来たルールの方が正しいと思いがちですが、こと形のある物に関しては、新しいこと=正しいとは一概には言えませんね。