徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

脇差拵の柄巻き(片摘み巻き)

2012-07-31 03:07:44 | 拵工作
柄前新規作成の脇差しが完成しました!



今回の工作内容は、柄下地の作成・鮫着せ・柄巻きの一連の作業を実施いたしました。

鮫着せ時の投稿は、下記のリンクより:
「脇差の鮫着せ」(2012年07月27日)



ご依頼は、実用も考えて少々ゴロンとした形状の柄前ということでした。また、柄糸は緑系ということでお伺いしておりましたが、付属の鞘との相性などを考えて、極限まで黒に近い緑(黒緑)にまで染色を施しました。

柄糸染色時の投稿は、下記のリンクより:
「緑色の柄糸」(2012年07月27日)



当該柄巻きの技法は、片摘み片捻り巻きといいますが、一般的には片摘み巻きと呼ばれる実用的な巻き方です。



日本刀は、柄巻きを施すことによって、グッと信頼感が増すように感じます。

短刀の鮫着せ

2012-07-28 22:16:35 | 拵工作
短刀の柄前を新規作成中です。
鮫着せの工程が終了しました。



この度の短刀拵は、鑑賞を目的としているため、鮫粒の大きさにもこだわりました。
鑑賞用であろうと、実用であろうと、柄前を刀身に合わせて作ること、しかも強固に作ることは、とても重要です。



差し裏の合わせ目です。ピッタリと合わせることで、柄下地への外部からの悪影響を防ぐことができます。



前回も言いましたが、柄前の良し悪しは、握った時の持ちやすさに尽きます。
短刀拵の柄成は、大刀よりも極端な立鼓になりますので、柄下地の入念な微調整が必要です。

脇差の鮫着せ

2012-07-27 21:45:24 | 拵工作
脇差しの柄前を新規作成中です。
鮫着せの工程が終了しました。



当工房では、出来るだけ裏をすかない厚手の状態のまま鮫皮を用いています。
鮫皮には、粒の形や親鮫の大きさなど様々な形状があり、良い鮫皮は高額で取引されています。そのため、お客様のご予算に応じて鮫皮を選択しなければなりません。
なぜ厚手の鮫皮を用いるかというと、日本刀の本来の姿である「実用の美」を考えた結果です。



差し裏の合わせ目です。ピッタリと合わせるには、熟練を要します。



柄前の良し悪しは、握った時の持ちやすさに尽きると思います。
柄の形状を「柄成」といいますが、柄成は刃方峰方の形状だけを言うのではありません。
差し表、差し裏の肉置きも柄前の良し悪しの重要なポイントなのです。

先日、外国の柄前師さんの作品を拝見しましたが、ゴロンとした肉置きに絶句してしまいました。国内ではクレームの嵐が起こりそうな柄前でも、海外では高級品なのかもしれません。

逆に、この段階で「薄すぎるのでは?」と聞かれることがありますが、これぐらいの薄さが本来の柄下地であり、柄成です。

幕末様式の柄前の再現

2012-07-11 11:03:45 | 拵工作
今月に入ってずっと取り組んできた柄前が完成しました。


(写真は、巻き上がった直後の写真です。納品前には、柄糸の微調整をしています。)



柄下地には、状態の良い本歌の下地を一度バラバラに分解し、刀身に合わせて再加工するという非常に贅沢な方法を用いました。
鮫は、江戸期の大名クラスの鮫皮を、これまたゴージャスに一枚に巻きました。



鞘とのバランスを考えて、柄成・柄糸の色・巻き方を調整しました。

今回特に力を入れたのが、幕末期の粋な鞘にあわせるため、柄巻きの菱の大きさを極限まで狭くしたことです。
これは、新々刀期の流行を取り入れることで、拵え全体の雰囲気を引き締める効果を狙っています。



写真の取り方を変えた方が、拵え全体の存在感が伝わりますでしょうか?
どうも写真が下手なので、ぶれたり、焦点が合わなかったり、中途半端になってしまいます。



ちなみに、刀身は重要刀剣審査に合格しているお刀ですので、工作時には細心の注意を図ってヒケ一つつけないように努めなければなりません。
毎回、研ぎあがりの刀身への工作には、とても気を使います。

柄巻師(柄巻に見る日本の美と技)

2012-07-09 13:51:17 | ブレイク
ヤマハ発動機株式会社様の会報誌『 Y.T.S.ジャーナル 2012 No.74 』にて、柄巻師(柄巻に見る日本の美と技) と題し、当工房をご紹介頂きました。



柄巻師 TSUKAMAKISI

柄巻に見る日本の美と技

柄の部分に柄巻がされている傘を見たとき「カッコいい!」と思ってしまった。
衝動買いをして歩いていると外国人に「KATANA?」と聞かれ
ニヤニヤしながら「アンブレラ!」と答えた。それほど柄巻と日本刀はイメージが重なっている。
柄巻は世界に通用する日本オリジナルのデザインではないだろうか。
そんな思いから今回柄巻師大塚さんに柄巻についてお話を聞きにいった。


柄巻は日本刀の顔

 柄巻は日本刀を持つ柄(グリップ)の部分に柄糸(平織りのひも)を巻いたものである。日本刀のほとんどは柄巻をしているが、柄巻をせず白木や鮫皮を貼った状態の刀もある。日本刀の顔といってよい柄巻きは滑り止めと装飾を兼ねていて時代や流派により様々な巻き方がある。その柄巻を作るのが柄巻師であり、日本刀の外装(拵)をつくる職業の1つである。そのほかにも、鞘を作る鞘師や鞘に収めたとき刀身を固定させるハバキという部品を作る白銀師・鍔を作る鍔師などに分業化されている。

柄巻師という仕事

 柄巻師大塚さんの工房は北鎌倉に近い横浜市にある。なぜ柄巻師になったのかうかがった。子供の頃から海外環境に多く接してきた経験上、自分のアイデンティティーの根幹である日本文化に興味を持ったそうだ。剣道を始め居合道へ進み、そこから日本の伝統を伝える仕事に就きたいと大学に通いながら柄巻の修行をしていた。その後就職もしたが柄巻の修行を5年続け、砥師の修行も5年間したのち独立した。拵と砥ぎを一人でおこなうことができるのは唯一大塚さんだけである。修復のための漆塗りや柄糸の染色もおこなっているため拵師という名称も使っている。高学歴で海外経験が豊富という、私が思っていたイメージからはかなり違っていた職人さんだった。今はそのような職人の方も多いそうである。大塚さんの工房には現代の刀匠が打った刀や鎌倉時代の歴史的に重要な刀まで持ち込まれ依頼者の意向に沿うように拵が制作される。中には刃こぼれがあり実際に使用されたものもあるそうだ。
 実際に何本かの日本刀を持たせてもらった。落としてはいけないし、やはり緊張する。ズシリとした重さの中にも軽快感がある不思議な感覚だ。手を滑らしてはいけないので柄巻の重要性はよくわかった。また、日本刀によって重さもかなり違うことが発見である。とても錆びやすいので慎重に扱う必要があるとのことでした。

日本刀を文化として考える

 大塚さんは「日本刀を文化として広く認知してもらいたい」という話をされていた。世界で一番と言ってよい厳しい銃刀類の規制がある日本で刀が作り続けられている理由は、危険物としての一面はありながらも美術品としての価値が日本のみならず世界に認められているからである。
 外装の美しさばかりでなく鈍く光る刀身を鑑賞の対象とする刀剣は少ない。(刃紋のあるダマスカス鋼で作られたカスタムナイフなどは存在する。)
 歴史的にも日本独自の折返し鍛錬方法で鍛えられた日本刀は「折れず曲がらずよく切れる」ことで知られ優れた武器として明時代の中国へ輸出されていた。
 文化遺産としての日本刀の価値もある。平安時代前期までの真っすぐな両刃の剣から後期には片刃で反りのある日本刀の形に変わり、以降800年間基本的な姿は変えず作り続けられている。現在、日本には500万振りあまり現存しているそうである。その中には平安時代や鎌倉時代から引き継がれた刀も少なからず存在する。これほど刀剣が人の手により受け継がれ残っている国は世界に類を見ない。多くの国で不要になった刀剣は打ち棄てられまた死者とともに葬られ、出土という形で発掘されるため考古学の対象となっている。たしかに台湾の故宮博物院の目録を見ても武器はない。西洋でも教会に武器を奉納する習慣はないのではないだろうか。ヨーロッパや中国などと違い武官と文官が明確に分けられていなかったことや、平和な江戸時代になり武士の仕事のほとんどが行政にかかわるものとなっても「武士の本分」が刀を持って戦うことであることを忘れず受け継がれた。また、ヨーロッパで銃器の発達した17~18世紀に鎖国政策ときびしい銃器の管理により刀から銃器への移行が起きなかったなどが理由ではないだろうか。
 現在日本刀を作っている刀匠の数は350人しかいない、また一人の刀匠が作る事を許可されている本数は年24本に制限されている。伝統工芸品である日本刀の需要は根強いが職人の数は減っていて高齢かも進んでいる。その中で大塚さんは歴史を踏まえながら技術の継承のため新しいことに挑戦している。柄巻をした自動車のステアリングホイールやサイドブレーキまたバイクのグリップ(濡れると水を吸い評判はよくなかった)を作ったことがあるそうです。さらに、職人としての技術の向上と日本刀を文化として広めるため日本刀文化振興協会の幹事として活動して日本刀のファンを増やそうと活動している。

(松尾、仁志)