徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

たたら ~日本古来の製鉄~

2017-04-18 00:27:38 | 洋鉄と和鉄
21世紀財団様より、第一級の専門書をご寄贈頂きました!



この書籍の内容は、西洋の製鉄法が導入されるまで日本の各地で行われていた「たたら製鉄」について、江戸末期山口県に実在した「白須山たたら」を中心に周辺の自然や人々の生活の営みも含めて彩色豊かに描いた絵巻「先大津阿川村山砂鉄洗取之図」を最新のデジタル画像で紹介しながら、たたら製鉄の設備や技法を詳細にかつ分かり易く解説を加えるというもので、次世代に語り継ぐべき素晴らしい資料だと思います。



大変貴重な資料をご寄贈頂いたJFE21世紀財団様には、この場をお借りいたしまして深くお礼申し上げます。

当方が独自に行っている、製鉄文化の紹介活動などで、積極的に活用させて頂きます。ありがとうございました!

洋鉄と和鉄(その4)

2013-03-09 00:00:21 | 洋鉄と和鉄
不定期にて連載投稿しています、「洋鉄と和鉄」の続編です。

以前の投稿は以下のリンクより、ご覧いただけます。
「洋鉄と和鉄(その3)」(2012年06月19日):SK材について
「洋鉄と和鉄(その2)」(2012年04月28日):S-C材について
「洋鉄と和鉄」(2012年03月18日):現代の鉄とは何か?

前回では、工具類に用いられる洋鉄(現代の鉄)についてご紹介しました。
しばらく連載をお休みしておりましたが、今回は「合金工具鋼」についてご紹介したいと思います。

前回、工具類に用いられている鋼は、3種類に分類できるとご紹介しました。
それは、「炭素工具鋼」、「合金工具鋼」、「高速度工具鋼」です。

炭素工具鋼はSK材と紹介しましたが、今回の合金工具鋼は「SKS」、「SKD」、「SKT」などと呼ばれる分類に該当します。

今回は、SKSの中から特に耐摩擦性・耐衝撃性に絞って、一部のSKS材をご紹介したいと思います。

SKS材は、切削工具の素材として開発されました。
これは、炭素工具鋼にクロム(Cr)・タングステン(W)・バナジウム(V)を添加し、硬いカーバイト(炭化物)を形成させることで硬さを得ており、耐摩擦性も向上させることができます。
ここで登場したクロム(Cr)についてですが、クロムは耐衝撃性に優れた性能があり、焼き入れ性も向上することが知られています。

このSKS材の基本的な性能を調節することにより、様々な用途に対応できる合金工具鋼が作られています。
用途の例えとして、耐衝撃性に重きを置いて硬さより靭性を重視したものに、耐衝撃工具鋼があります。
この場合、炭素を少なくし、クロム(Cr)・タングステン(W)を加えて浸炭焼き入れを行なって製造されます。鏨やポンチに使われている素材がこれです。

逆に炭素を多めに調整し、クロム(Cr)・タングステン(W)を除いて、バナジウム(V)を添加することにより、バナジウム(V)で形成されるカーバイトを活用した素材も開発されています。
このバナジウムのカーバイトは非常に硬いのですが、鋼の結晶を細かくしてしまうという弊害も発生します。こうなると、今度は焼き入れ性が悪くなってしまいます。
このような場合には、日本刀と同じように水焼き入れを行なって表面を硬くすることで、外側は硬く内側は軟らかい構造を作り出すことができます。
この構造は、耐衝撃性に非常に優れており、削岩機のピストンなどに用いられています。

同じ鉄でも、添加する微量元素によって全く違った性質になるという、合金鋼の奥深さを感じます。
そして、熱処理という数千年前から行なわれている加工技術の神秘を感じずにはいられません。

洋鉄と和鉄(その3)

2012-06-19 18:05:56 | 洋鉄と和鉄
不定期にて連載投稿しています、「洋鉄と和鉄」の続きです。

以前の投稿は以下のリンクより、ご覧いただけます。
「洋鉄と和鉄(その2)」(2012年04月28日):S-C材について
「洋鉄と和鉄」(2012年03月18日):現代の鉄とは何か?

今回は、工具類に用いられる洋鉄(現代の鉄)についてご紹介します。
工具類に用いられている鋼は、3種類に分類できます。「炭素工具鋼」、「合金工具鋼」、そして「高速度工具鋼」です。

○「炭素工具鋼(SK材)」について

この鋼材と前回の構造用鋼との違いは、含有される炭素の量です。
何度もいいますが、構造用炭素鋼は炭素含有量が0.6%以下、それ以上が炭素工具鋼とされています。

工具用の鋼材に必要な性能は、「硬いこと」、「摩耗しないこと」、「粘りがあること」といったところでしょうか。これらの性能は、実は炭素の含有量と密接な関係があります。

鋼の硬さだけを考えると、炭素の含有量が0.6%であろうが1.0%であろうが、ほとんど大差ありません。

しかし、炭素工具鋼では、炭素含有量が0.6%以上です。
では、なぜ0.6%以上に炭素含有量を調整するのでしょうか?
実は、鋼の性質として、炭素含有量を増やせば、耐摩擦性に優れた鋼が出来るからなのです。
では、なぜ炭素が多いと耐摩擦性に優れるのでしょうか?
それは「カーバイド(セメンタイト)」と呼ばれる構造と、密接な関係があります。

鋼材を熱処理すると、鉄の中に多くの炭素を溶け込ませている状態から急に冷やされることで、炭素が過飽和の状態になります。
鉄の中の過飽和状態の炭素は、マルテンサイトという組織に変わります。これは鋼の中でも最も硬い構造です。
そして、その中にさらに硬い球状のカーバイドを均一に分布させることによって、例えば硬いコンクリートの中に、さらに硬い鉄球をたくさん混ぜ込んだような状態となり、耐摩擦性に優れた鋼を作リ出す事ができるのです。

このカーバイドは、炭素の含有量が多ければ多いほどたくさん構成され、耐摩擦性に優れた性能を示すのですが、同時に脆くもなります。
従って、耐摩擦性が必要な用途では炭素を多く含有させ、粘り強さが必要な用途では、炭素の量を制限することで、今日の鋼の種類が生まれました。

SK材では、炭素の量は「1種」から「7種」までに分類されています。

・1種 : 1.30% ~ 1.50% → カミソリ、ヤスリ など
・2種 : 1.10% ~ 1.30% → ドリル、バイト  など
・3種 : 1.00% ~ 1.10% → タガネ、ゼンマイ など
・4種 : 0.90% ~ 1.00% → キリ、斧、タガネ など
・5種 : 0.80% ~ 0.90% → ペン先、ノコギリ など
・6種 : 0.70% ~ 0.80% → スナップ、刻印  など
・7種 : 0.60% ~ 0.70% → プレス、ナイフ  など

用途別に見るとSK材はかなり硬く、切削にも十分使用できそうな気もするのですが、切削となるとノコギリ程度が精一杯です。その理由は、鋼が熱に弱いからです。
炭素工具鋼は、200℃程度で焼き戻し処理をしているため、使用中にこの温度を超えると、急激に焼き戻ってしまいます。

さらに、炭素工具鋼は、球状に分布するカーバイドが結晶の中でひも状に生成してしまい、脆くなったり変形したりしてしまい、商業的には商品化できないという問題点がありました。

そのため、カーバイドをひも状から球状にする技術が開発されました。
これにはひも状になったカーバイドを細かく砕くために、素材を叩いたりしごいたりすることなのですが、刀匠は作刀過程で球状カーバイド加工を行っていることになります。
そして、その後に熱処理を行うことで、カーバイドは球状化されます。これを「球状化焼き鈍し」といいます。
球状化焼き鈍し処理の後、工具鋼の焼き入れを行うわけですが、これも前回の構造用炭素鋼のそれとは違い、カーバイドを母材に溶け込ませる必要があります。

鋼の焼き入れは、加熱する事により組織がオーステナイトに変わります。
これを急冷することで焼きが入りますが、炭素工具鋼では、このオーステナイトの中にカーバイドを溶け込ませなければなりません。
このためには、オーステナイト組織を保つために、熱的な保持時間が必要になります。これにより、母材がより硬くなるわけです。

焼き入れが終わると、150℃~200℃くらいで焼き戻しを行います。
このような複雑な工程は、すべてがカーバイドの球状化処理のために行われているのです。

鋼にとって重要なカーバイドですが、その大きさや量などは、JIS規格で厳密な規定があるわけではありません。そのため、同じ工具でも、製造国やメーカーが違えば製法も違うため、物の良し悪しがでてしまいます。
良く斬れて長切れする刀を作る刀匠。鑑賞的価値を優先する刀匠。これらの違いがはっきりと出てしまう要因の一つに、カーバイドの存在があるのかもしれません。

洋鉄と和鉄(その2)

2012-04-28 14:05:00 | 洋鉄と和鉄
以前投稿しました「洋鉄と和鉄」(2012年03月18日)の続きです。

今回は、和鉄に関する投稿か?とご想像いただいた方には大変恐縮ですが、洋鉄の第二回として「S-C材」について掘り下げてみたいと思います。
S-C材は、機械構造用炭素鋼と呼ばれています。SS材(一般構造用圧延鋼材)とは違い、キルド鋼から作られる高価な鋼です。

S-C材の「C」は炭素のCで、他の特殊鋼と違って「-」の部分に数字が入ります。「S45C」とか「S35C」などと表記されています。
この数字は、含有される炭素の量を表すもので、例えばS45Cであれば、炭素が「0.45%含まれている」ということを示します。
前回もご紹介しましたとおり、炭素鋼の炭素含有量は、最小0.08%~最高1.5%までが技術的に可能です。
ところが、S-C材の炭素量の上限は0.6%までです。もちろんそれ以上の炭素を含有させることも可能ですが、0.6%よりも多くなると「SK材」と呼ばれ「工具鋼」に分類されています。このように炭素鋼の分類には、炭素の含有量が強く関わっているわけです。
炭素鋼は、炭素の含有率が増えるに従って硬くなり、より強靭になります。また、炭素の含有量が増えると、熱処理で大きな効果が得られることも知られています。
しかしながら、その効果も0.6%が上限で、それ以上では焼き入れ硬さはほとんど変化しません。それ以上に炭素を加えていくことで何が得られるのかというと、耐摩擦性が向上することが知られています。(刀剣研摩において、研ぎ易い刀・研ぎ悪い刀の違いが生じるのは、この辺に原因がありそうです。)

工業製品の製造現場では、このS-C材が多く用いられています。
S-C材は炭素鋼ですから、熱処理をおこなって初めてその性能を発揮することができます。必ず、熱処理と対になる技術なのです。

拡大解釈ですが、日本の伝統工芸の最高峰「日本刀」の正体も、この炭素鋼です。
製法は、「玉鋼」と呼ばれ、炭素を多く含んだ原材料を熱し、叩き伸ばして不純物を取り除き、それを折り畳んでまた熱して叩く・・・という工程を幾度も繰り返します。
すると、素材がいかに不均質であっても、積層を繰り返すことで均質に近い構造になります。
この「熱して、折り曲げて、叩く」という工程の中で、脱炭がおこなわれていくことから、刀匠は鉄を鍛える手応えから、好みの炭素量を決定しているのです。
日本刀は、折れず曲がらずと比喩される条件を満たすために、内側に柔らかい鉄を入れて粘りをもたせ、刃となる部分には炭素量の多い鋼を用いています。この刃の部分は、現代刀の場合、炭素含有量が0.7%以上あると言われています。
また、日本刀の熱処理は、「水焼き入れ」です。焼刃となる部分には薄く、焼きを入れたくない部分には厚く焼刃土を塗り、熱して焼き入れの最適温度になったところを見計らって水に浸して急冷することで、焼き入れを行います。
そして、その後「焼き戻し」をします。これは、焼き入れをしただけでは、刀身は硬すぎて刃こぼれや刃切れといった破損の原因になるため、ある程度の温度まで熱して適度な柔らかさを加味する作業です。

熱処理は、その材質に最適な焼き入れ温度まで温度を上げて、一気に急冷します。前記の日本刀の場合は、熱した刀を水につけて急冷する「水焼き入れ」ですが、ほかにもオイルにつけて熱処理をおこなう「オイル焼き入れ」や、零度以下にした条件下で急冷する「サブゼロ」と呼ばれる焼き入れ方法もあります。
また、熱した材料をそのままゆっくり冷却し、柔らかくしたり、残留応力を取り除いたりする作業を「焼き鈍し」といいます。

洋鉄に関するメモは、まだまだ続きそうです…。

洋鉄と和鉄

2012-03-18 10:56:46 | 洋鉄と和鉄
普通、鉄への理解というと、『現代の鉄』に関するものが一般的です。
では、『現代の鉄』とは何でしょうか?

刀剣愛好家の中には、日本刀の有意性について科学的な根拠を披露してくださる方がいます。
たとえば、「材料が洋鉄ではなく和鉄だからよい」とか、「折り返し鍛錬がよい」とか、まことしやかにご披露くださるわけですが、では『洋鉄』とは何か?『和鉄』とは何か?折り返し鍛錬の何がよいのか?と突きつめていくと、じつのところ付け焼刃の知識であったり、他の愛刀家の受け売りであったりします。
先日も、「鋳物と鉄は違う!」と教えてくださった愛刀家の方がいらっしゃいましたが、どうも的を得ない考察のように感じられました。

そこで、『現代の鉄』について、メモ程度にまとめてみました。

鉄は、言わずと知れた元素記号「Fe」です。
このFeは、純粋な単元素としては、引っ張り強度が30kg/m㎡と低く、このままで使用されることはまず考えられません。
そもそも、鉄を純粋なFeとして製造することは、現在の科学力では非常に難しい作業なのです。
では、私たちの身の回りにあり、一般的に鉄と呼んでいる物体は何なのでしょうか?

この答えを得るには、まず鉄の製造法を知る必要があります。

鉄は、製鉄所で作られます。
製鉄所と聞くと、グツグツと煮えたぎる溶鉱炉を想像しますが、この溶鉱炉の中では前処理された鉄鉱石・石灰石を入れて、高温の空気を送り込みながらコークスを燃やしています。この時、炉の底では温度が2000℃以上に達っするといいます。

高温で燃焼すると、一酸化炭素(CO)が発生するのですが、この一酸化炭素が鉄鉱石(酸化鉄)から酸素を取り除きます(還元)。すると、残った鉄が炉の底にたまります(溶銑)。この溶鉄を取り出したものが銑鉄です。
この一連の技術を「製銑」といいます。

銑鉄は、その製造法上、炭素の含有量が非常に多く(3~4%)、硬くてもろいため、鋳物材料としてしか使えません。
次に、この銑鉄から炭素や不純物を取り除いて、粘り、強度がある鋼にするのが「製鋼」です。
この製鋼によく使われている装置が、転炉です。
転炉での製鋼は、高炉から出た溶鉄・少量のくず鉄・鉄鉱石・石炭石を炉の中に入れて、高純度の酸素を吹き付けることによって、溶銑中の炭素や他の不純物を酸化燃焼させます。
この作業を「精錬」と呼んでいます。

精錬が終わった溶鋼中には、酸素や窒素などのガスが含まれているので、フェロシリコン、フェロマンガン、アルミ二ウムなどを入れて脱酸します。こうして製鋼された鉄が「鋼」です。

そうです!私たちが鉄と言っている物質の正体は、この鋼なのです。
さらに、鋼には2種類あり、リムド鋼とキルド鋼と呼ばれています。

製鋼では、最終工程で残った酸素や窒素などのガスを脱酸剤を入れて除去しますが、このガスをきれいに除去したものがキルド(killed)鋼です。キルド鋼の製作には、強力な脱酸剤を使用します。
キルド鋼は、高級な鋼材に使用されています。

リムド(rimmed)鋼の場合は、若干の脱酸剤を使うものの、溶鋼中の炭素が脱酸剤として働きながら固まっていくため含有炭素量が少なくなる特徴があります。
そのためリムド鋼は、「低炭素鋼」用の素材として使用されています。その代表格が「SS材」です。
SS材は、正式には一般構造用圧延鋼材(rolled steel for general structure)と呼ばれ、Steel Structureの頭文字をとってSS材と呼ばれています。
先ほど、鉄=鋼と言いましたが、さらに突っ込んで言うと一般的な鉄のほとんどがこのSS鋼材なのです。
用途としては、コンクリートの鉄筋や建物の柱等、建築構造物となるH型鋼、I型鋼が代表格です。
また、建築現場で見かける足場用の鉄パイプや自動車の鉄ホイールもこのSS材由来です。
SS材の特徴のひとつに、熱処理をしないで使うことが挙げられます。

次にS-C材という鋼材があります。これは機械構造用炭素鋼と呼ばれ、SS材とは違ってキルド鋼から作られる高級は鋼です。
S-C材の「C」は炭素のCです。
炭素鋼の含有炭素は、最小0.08%から最高1.5%までが技術的には可能ですが、S-C材のくくりでは0.6%までという規定があります。
それ以上は「SK材」と呼ばれ、「工具鋼」に分類されます。

炭素鋼の分類については、実を言うとJIS規格には、炭素鋼という分類がありません。

炭素鋼は、炭素の含有率が増えるに従って硬くなり、より強靭になります。
また、炭素の含有量が増えると、熱処理で大きな効果が得られます。
しかしながら、その効果も0.6%が上限で、それ以上では焼き入れ硬さはほとんど変化しません。
では、なぜ工具鋼がそれ以上に炭素の量を増やしているのか?というと、耐摩擦性の向上を狙っているのです。

炭素鋼は、炭素(C)以外に、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、イオウ(S)を含んでいます。
こうして組成を見ると、前出のSS材も、実は炭素鋼の一種であることが分かります。
そして、この5元素を含む炭素鋼にさらに元素を加えて、特殊な性能を加味した鋼を「特殊鋼」と呼んでいます。
一般的な鋼は「普通鋼」といい、「特殊鋼」と区別しています。

特殊鋼は、S-C材を含めた「合金鋼」と、「工具鋼」、「特殊用途鋼」の3種類に大分類されています。
特殊用途鋼には、ステンレスや耐熱合金などがあります。

ちなみに、鉄鋼の使用量を調べると、特殊鋼が最も多く使われています。
その理由は特殊鋼の分類の中にS-C材が含まれているからです。

以上が、「現代の鉄」に関する自分メモですが、多少は洋鉄の正体が見えてきたのではないでしょうか?