引き続き「珠光一紙目録」より。
天下三名物茶入れの項目をご紹介しましょう。
一 新田肩衝 珠光が所持する。天下一である。 関白様
一 初花(はつはな) 同
一 楢柴(ならしば) 同
引拙は、茄子茶入を手放した後も、この一品をなおさら楽しんだものである。ただし、自分は見ていない。宗易が話すのをよく聞いて記憶した。壺の形、尻のふくらみ具合がよい。釉薬は飴色だがひときわ濃く、釉が濃いという意味でならしばと名をつけたのである。「なれはまさらで恋のまさらん」という歌からとったものか。数寄の目からは、これぞ天下一といおうか。天下に三つの名物の一である。
一 抛頭巾(なげずきん)
元珠光所持。へら目が四つある。向かい合って二つ、上下一文字に押し込んだへら目である。なだれ状の釉がかかるが、全体としては濃い飴色である。珠光が初めの茶の湯に用いたのが新田肩衝である。次が宗久文琳 、その後小茄子 を所持した。これを手放し代わりに、圓悟一軸とこの抛頭巾を入手した。
珠光末期に宗珠へ譲り、
「忌日には、圓悟墨蹟を掛け、抛頭巾に簸屑(ひくず) を入れて、茶の湯を手向けよ」
と遺言した。楢柴、抛頭巾は数寄の眼目といえよう。なお口伝あり。
宗二が“数奇の眼目”とした、楢柴、抛頭巾。むろん、利休も賞賛したであろうことは想像に難くありません。
「楢柴」は、鳥居引拙の道具。もとは足利義政の東山御物と伝えられ、引拙のあと、博多の商人島井宗室、秋月種実とわたり、秀吉の手中に転がり込む。当時の値は今日換算で「数億円」ともいわれ、戦国武将の茶器争奪熱ここに極まれり、と思われます。
そしてさらに数奇道具として興味をひかれるのが、珠光名物「抛頭巾」。利休ら後の茶人の「宗匠頭巾」姿にくらべ、珠光の抛頭巾姿の画は、いっそう侘びて風格を感じます。
さて抛頭巾、珠光より宗珠へ伝わり、のちに利休女婿、万代屋宗安が所持します。利休切腹に前だって、とかく仲のしっくりいかない義父利休の助命のため、宗安より秀吉へ抛頭巾が差し出されたという。しかし結果は皆様ご承知の通り。頭巾はいうまでもなく、利休はわが宝剣を天に“なげうつ”のでした。
利休は切腹の折、最後の茶会で用いた「おりすじの茶碗」、「自作茶杓」を形見として茶堂少厳に与え、
「思ひ出さるる折ふし、一服一会為すべし。本望にて候」
と遺言します。(『千利休由緒書』表千家)
粗末な「ひくず」で一服回向すべし、と言付けた珠光。一本の竹茶杓に後日の一服一会を託す利休。
珠光と利休が末期に伝えようとしたものは何か。今一度、思いをめぐらしてみたいものです。
いにしへを思い出ずれば今になり
今も昔にまた成ぬべし
天下三名物茶入れの項目をご紹介しましょう。
一 新田肩衝 珠光が所持する。天下一である。 関白様
一 初花(はつはな) 同
一 楢柴(ならしば) 同
引拙は、茄子茶入を手放した後も、この一品をなおさら楽しんだものである。ただし、自分は見ていない。宗易が話すのをよく聞いて記憶した。壺の形、尻のふくらみ具合がよい。釉薬は飴色だがひときわ濃く、釉が濃いという意味でならしばと名をつけたのである。「なれはまさらで恋のまさらん」という歌からとったものか。数寄の目からは、これぞ天下一といおうか。天下に三つの名物の一である。
一 抛頭巾(なげずきん)
元珠光所持。へら目が四つある。向かい合って二つ、上下一文字に押し込んだへら目である。なだれ状の釉がかかるが、全体としては濃い飴色である。珠光が初めの茶の湯に用いたのが新田肩衝である。次が宗久文琳 、その後小茄子 を所持した。これを手放し代わりに、圓悟一軸とこの抛頭巾を入手した。
珠光末期に宗珠へ譲り、
「忌日には、圓悟墨蹟を掛け、抛頭巾に簸屑(ひくず) を入れて、茶の湯を手向けよ」
と遺言した。楢柴、抛頭巾は数寄の眼目といえよう。なお口伝あり。
宗二が“数奇の眼目”とした、楢柴、抛頭巾。むろん、利休も賞賛したであろうことは想像に難くありません。
「楢柴」は、鳥居引拙の道具。もとは足利義政の東山御物と伝えられ、引拙のあと、博多の商人島井宗室、秋月種実とわたり、秀吉の手中に転がり込む。当時の値は今日換算で「数億円」ともいわれ、戦国武将の茶器争奪熱ここに極まれり、と思われます。
そしてさらに数奇道具として興味をひかれるのが、珠光名物「抛頭巾」。利休ら後の茶人の「宗匠頭巾」姿にくらべ、珠光の抛頭巾姿の画は、いっそう侘びて風格を感じます。
さて抛頭巾、珠光より宗珠へ伝わり、のちに利休女婿、万代屋宗安が所持します。利休切腹に前だって、とかく仲のしっくりいかない義父利休の助命のため、宗安より秀吉へ抛頭巾が差し出されたという。しかし結果は皆様ご承知の通り。頭巾はいうまでもなく、利休はわが宝剣を天に“なげうつ”のでした。
利休は切腹の折、最後の茶会で用いた「おりすじの茶碗」、「自作茶杓」を形見として茶堂少厳に与え、
「思ひ出さるる折ふし、一服一会為すべし。本望にて候」
と遺言します。(『千利休由緒書』表千家)
粗末な「ひくず」で一服回向すべし、と言付けた珠光。一本の竹茶杓に後日の一服一会を託す利休。
珠光と利休が末期に伝えようとしたものは何か。今一度、思いをめぐらしてみたいものです。
いにしへを思い出ずれば今になり
今も昔にまた成ぬべし