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第九夜 怪談 通りすがりを待つ男

2009-08-14 08:04:47 | 不思議夜話
 おはようございます。


 第9話の「不思議夜話」(もう朝だけど・・・)は、第6話の「待つ女」の逆バージョンのような話。


 幼い時はよく親に連れられて田舎へ帰ったのですが、その折に親戚のオッチャンから聞かされた話の1つ。


 オッチャンが子供の頃、道はまだ舗装されていなかったので、村から町に出るのに車でも2時間近くかかった。


 そんな村で病気したり怪我をすると大変なので、家々の一軒ごとに置き薬の箱が常備してあった。
数ヶ月に1度、置き薬の行商人が村を回って、薬を補充していくのだった。


 ただ、すべての家を回るので、1日仕事になってしまい、その日は村に泊まっていく。
村ではオッチャンの家が庄屋だったこともあって、いつも泊まっていったという。


 行商人は全国津々浦々と旅をしていたので、様々なことを体験していた。
そんな体験談を晩飯後に話してくれたというのだ。



 ある村を回り終った後、夕暮れ迫る1本道を、その日泊まる家を目指して歩いていると、20~30メートル後から女が歩いて来るのに気がついた。


 着物姿で日よけの唐傘を差している。
日が暮れているので傘など必要ないので
「変だな~」
とも思ったが、それよりも結構な美人らしい。ただ、よく顔が見えない。


 行商人はスケベ心が涌いてきて
「顔を拝んでやろう」
と思って、歩く速度を緩めたのだ。
「こうすれば、女が追いついてくるだろう」
と考えてのことだった。


 しかし、いくら歩く速度を落としても、女が追いついてこない。
最初に見たときと同じ距離をたもっている。
 首を傾げながらも
「靴紐を直すふりをしよう」
と考えて、その場に立ち止まり、道の脇にしゃがんだのだ。


 「これなら確実に拝めるぞ」
と思って待っていたが、いっこうに女はやって来ない。


 不思議に思って辺りを見渡すと、女に抜かれた覚えなどないのになんと自分の20~30メートル前を歩いていたのだ。


 行商人は慌てて立ち上がり、女を追いかけた。
しかし、いくら歩いても追いつかない。足を速めたがダメだった。


 仕舞いには走り出すくらいの勢いなのだが、前を歩く女は初めに見たように普通に歩いている。
とうとう息が切れて、行商人は立ち止まってしまった。汗が額から流れ落ちるほどだった。


 すると、女も立ち止まって、こちらに振り返ったのだが・・・。
その瞬間――。意識がとんだ!!


 気がつくと、どっぷりと日が暮れて、辺りは暗闇・・・。
セミがうるさく鳴いて、1本道の土手下の田んぼの稲穂が、涼しい風にたなびいている。
「これは狐だ、狐に化かされた」
と思ったそうである。


 旅の行商人が、子供の頃のオッチャンに語った不思議な話でした。