低線量被ばくの子どもたちへの影響と、これから福島の子どもたちに出てくるいろいろな病気についてお話ししたいと思います。それは、一つには外部被ばくであり、高度に汚染された地域に未だに住んでいるからで、そして二つ目は、飲食物による内部被ばくです。それらが長い時間をかけて、子どもたちの体を蝕んでいきます。今まだ子どもたちに大きな症状は出ていません。チェルノブイリからの経験で明らかなのは、まず甲状腺がん、白血病や脳腫瘍も出ますし、がん以外のいろいろな病気、特に疲れやすいとか、病気にかかりやすい子どもが増えていきます。
最近チェルノブイリで生まれている被曝二世の先天性の骨の異常が注目されています。子どもたちには、甲状腺がん、白血病の他に脳腫瘍が増えて来ています。その他機能的な障害は、がんや骨の異常と違って異常率を数値化できないのですが、現地の小児科医たちは、90%の子どもたちは病んでいると言っています。
広河隆一さんとチェルノブイリ子ども基金が現地の人の協力を得て行なった調査があります。原発事故の時にチェルノブイリ原発から3キロメートルのプリピャチ市に住んでいた住民と、17キロメートルのチェルノブイリ市に住んでいた住民と、非汚染地のモスクワ市の住民の、事故後10年後の健康状態を調査したのです。放射能被害を受けたプリピャチ市とチェルノブイリ市のデータは一致し、モスクワだけが大きく低いのでした。多かった症状は、頭痛、めまい、疲れやすい、風邪をひきやすい、手足など骨が痛む、甲状腺異常などでモスクワに比べ非常に多く、モスクワの住民は半分以上が健康と回答しているのに、プリピャチ市とチェルノブイリ市の住民で健康と回答したのは5%以下でした。これらから見ると、明らかに放射線による健康障害としてしか考えられません。
現実にチェルノブイリで被曝した子どもたちや、未だに汚染地に住んでいる子どもたちは、様々な症状を訴え、脳神経系、免疫系、内分泌(ホルモン)系、筋骨格系など多種の病気になっています。
これまで放射線の影響は、「発がん性(がん、白血病)と寿命短縮、老化現象の促進」が言われて来ましたが、それ以外の障害があることが、チェルノブイリ事故後の健康調査や現地の医師たちの話からわかってきました。特に晩発性障害として前記の他に「白内障、不妊、慢性皮膚炎、加齢現象」があると言われて来ましたが、チェルノブイリの現地の医師たちの間では、それまでは知られていなかった様々な症状が見つかったのです。しかし、そのことを臨床医が発表しても、疫学的な裏付けがないために、なかなか取り上げられませんでした。せいぜいマスコミに取り上げられるだけで、医学界からは問題にされていませんでした。
またチェルノブイリで見つかる子どもの甲状腺がんの四分の一以上(75%と言う説もありますが)は転移を起こしていて、転移の症状で見つかりました。甲状腺がんはそれ自体は致死率は低いのですが、他の臓器に転移、再発すると大変危険なものになります。致死率は高いのです。早期に発見すれば致死率は2~3%です。チェルノブイリでも早期に発見され、手術し、成長して子どもを産んだ女性も少なくありません。しかし、その場合でも甲状腺が無いために、一生甲状腺ホルモンを飲み続けなければなりません。過剰に飲まない限り副作用はないので、心配はありません。見つかるのが遅いのは、甲状腺がんそのものはしこりとして腫れてくるだけで、痛くもかゆくもなく、見過ごされてしまうからです。それで肺や骨や脳、頸部リンパ節などに転移してみつかることが多いのです。
崎山比早子氏によると、1986年を一として1993年の倍率を、チェルノブイリの原発事故処理者に急増した疾患を多い順に見ると、消化器、内分泌、脳神経、感覚器、泌尿器、循環器、良性腫瘍、悪性腫瘍となり、特徴的なことは、一人で同時に四~五種類の病気を抱えていることです。さらに血液や造血系の病気の増加、白内障、動脈硬化、糖尿病、知的能力の障害なども出ています。
ベラルーシのバンダジェフスキーによると、1999年までの調査では、ベラルーシの死亡原因は第一は心臓病で、ついで悪性腫瘍で、それ以外は少なくなり、消化器系、呼吸器系、感染症、泌尿器系でした。
ベラルーシの元ゴメリ医科大学長で病理学者のバンダジェフスキーによる研究で、その実情が明らかにされました。ゴメリ医科大学での死亡者の病理解剖により、放射線の蓄積は、甲状腺、骨格筋、小腸、心筋、脾臓、脳、肝臓、腎臓の順でした。障害は心臓血管系に強く表れ、心臓の弁や血管の不調、心筋代謝不全、子どもの高血圧など。腎臓の内部の変化と機能の変化。肝臓の不調、脂肪肝、肝硬変。免疫系では感染への抵抗力の低下で結核、ウイルス性肝炎、呼吸器疾患への感染。造血系への低下。女性の生殖系では、受精卵の胎盤への着床前の死亡。胎児の骨格系の形成不全。様々な先天異常の増加。女性のホルモン系の乱れ、甲状腺の異常と甲状腺がんの増加。神経系では胎児期の影響で子どもの学習能力の低下。白内障、硝子体異常、屈折異常など、人体のほとんどの器官の障害や機能異常が起きていることが判りました。
チェルノブイリ子ども基金の佐々木真理事務局長が、毎年現地へ行って現地の医師たちからの要望を聞いてきていましたが、放射性ヨウ素が無くなっているのに甲状腺がんが増え続けていること、若い人の心臓疾患での急死の増加や、異常が見つからないのに妊娠しないこと、骨の異常を持つ子の出産が増えていることが、現地で訴えられ、これまで理解できなかったことが、この研究の発表で判ったと言われました。
現実にチェルノブイリ事故後、旧ソ連圏で結核、ジフテリア、百日咳などの感染症が流行しました。
晩発性障害による大人のがんの発病率は、ICRPによると1ミリシーベルトの被ばくで1万人に0.5~1人と言われていますが、子どもでは、藤岡独協医大放射線科名誉教授によると、1ミリシーベルトの被ばくで1万人に発がんは6.5人で、その内、致死がんは5人と言います。甲状腺がんなどは早期発見すれば死亡率が低いからです。しかし、おとなに比べれば極めて高いのではないでしょうか。
福島の現状は、チェルノブイリでは、強制避難区域、計画的避難区域に当たる放射線量の土地にも未だに一部避難させただけで済ませ、全部にはしていません。しかも、それ以下のウクライナでは「放射線管理区域」と言われる区域は、福島では広範囲におよび、ウクライナでは現在多くの健康被害を生じています。福島ではこれからでてくると予想されます。
また除染はチェルノブイリでは、無効で意味がないとしていません。現実に一部除染しても帰宅できませんし、除染してもまた汚染されていってしまうのが現実です。
さらに原発事故処理は未だに行われていますし、無意味な除染も行われています。
これらの作業に従事している人々は、放射線を浴びていますから、今後さまざまな放射線障害が出てくることが予想されます。しかし、その人たちの放射線被曝管理はずさんになされていると報道されていることが心配です。
また、チェルノブイリでは、避難できない放射線管理区域などの低線量被ばく地に住む子どもたちを、学校サナトリウムを作って年一回24日間、非汚染地で汚染されていない食べ物を食べ、汚染されていない土地で勉強し、クラブ活動をしています。これによって、体内の内部被曝しているセシウムは、25~30%この期間だけで減少しています。
それでDAYS JAPANの「DAYS被災児童支援募金」と私たちの「未来の福島こども基金」では、沖縄県久米島に球美の里(くみのさと)という子どもたちのための保養所を作り、昨年7月から保養を開始しています。まだ小さな施設なので、学童受け入れはなかなか難しい面がありますが、今年から始める予定です。
最後に、保養によって得られる効果の一つに「希望」があります。子どもたちを不安や絶望から救いだし、希望を持たせ、それによって免疫の働きを活性化することです。
どんなに効果があるかという話を一つしましょう。
チェルノブイリ原発事故で、消火作業に当たった人の重症者たちは、ロシア人はモスクワの病院へ、ウクライナ人はキエフの病院へ運ばれました。モスクワへ運ばれた重症者には、アメリカから派遣された専門医が骨髄移植などの治療を行いましたが、救命できませんでした。キエフの病院では、高度の医療ができず、仕方なく、過去にソ連の国内の核処理場での事故で重傷を負いながら助かった人たちを呼んで、「俺たちも助かったのだから、お前たちも頑張れ」と励ましてもらったのです。すると結果的に救命できた人が出たのです。いかに希望を持つことが大切かを教えてくれました。これは、1996年に私がウクライナに行った時に、キエフのチェルノブイリ博物館で聞いた話です。
私は、以前から、精神神経免疫学によって、こころが免疫と連動することを知っていましたから、なおさら感動しました。子どもたちに希望を持たせることが大切で、それに保養が効果があることが、ベラルーシの保養所でも証明されているのです。