読書日記 嘉壽家堂 アネックス

読んだ本の感想を中心に、ひごろ思っていることをあれこれと綴っています。

人間の剣 昭和動乱編1~4 森村誠一 中公文庫

2005-06-14 23:53:09 | 読んだ
森村通史「人間の剣」の最終シリーズ、昭和動乱編である。
4巻を読み終えて、実は、もっとも興味深く読んだのが最終巻の、下里正樹の書いた解説であった。

下里は松本清張の秘書と森村誠一の秘書をつとめ、その関係から二人のMについてエピソードを紹介し、比較している。

それを読んで気づいたのである。
森村誠一の小説にでてくる「悪役」特にチンピラはみな一つの形で描かれている。しかも非常に薄っぺらな人間である。
つまりは悪事を働くが、それはその人物のどういう心根から湧き上がってきているのか、ということがよくわからない、兎も角、そういうヤツはそういうヤツなのだ、ということが感じられる。

しかし、松本清張や池波正太郎が描く人物は、たとえチョイ役であっても「重い」。
その背景がうかがえる人間なのである。

多分松本清張や池波正太郎は、本当の悪党を知っているのではないだろうか。しかし森村誠一は本当の悪党にあったことがないのだ、と思う。

だが、だから森村作品は薄っぺらで内容がないのだ、なんてことは思わない。悪党の薄っぺらさを補って余りある、愚直なというか真っすぐな「正義」がドーンと中心にあるのだ。
悪は絶対に許せない、という気持が伝わってくるのだ。

松本清張や池波正太郎の作品では「悪」もまた「人」なり、なので、それはそれでいいのだ。
が、森村作品のように「正義」を押し出してくる作品も悪くはないと私は思っている。だから森村作品を無性に読みたいときがある。それは、周りの社会と自分の心を押さえつけてまでも折り合いをつける必要があるときだ。
そんなときに、悪も人なり、などとは思いたくないのだから。

人間の剣、昭和動乱編では、剣をもって殺すことはほとんどない。
剣を抜くことによる「霊気」のようなものが悪をしりぞけるのみである。それでも大きなカタルシスをえることができる。

-続きは明日なのだ。-
コメント
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