シューマン:歌曲集「詩人の恋」
美しい五月には
僕のあふれる涙から
ばらに百合に鳩に太陽
君の瞳に見入る時
心を潜めよう
ラインの聖なる流れに
恨みはしない
小さな花がわかってくれたら
あれはフルートとヴァイオリン
あの歌を聞くと
若者が娘を恋し
まばゆい夏の朝に
僕は夢の中で泣いた
夜毎君の夢を
昔話の中から
古い忌わしい歌
歌曲集「レーナウの詩による6つの歌曲」
鍛冶屋の歌
わたしのばら
出会いと別れ
アルプスの羊飼いの娘
孤独
暗い夜に
レクイエム
献呈(歌曲集「ミルテの花」より)
東方のばら(歌曲集「ミルテの花」より)
二人の擲弾兵
バリトン:ジェラール・スゼー
発売:1975年
LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) PC‐1529(835 146LY)
シューマンの歌曲集「詩人の恋」は、シューマンの歌曲の年と言われる1840年に作曲された歌曲集である。詩は、ハインリヒ・ハイネの詩集「歌の本」の中の「叙情的間奏曲」により、全20篇のうち16曲を収録している。第1曲から第6曲までは愛の喜びを、第7曲から第14曲までは失恋の悲しみを、そして最後の2曲はその苦しみを振り返った曲に特徴付けられている。これらの作品は、ピアニストであったシューマンらしく、ピアノ伴奏部分が表現力に富んだ優れた歌曲になっているのが特徴。一方、このLPレコードのB面に収められた歌曲集「レーナウの詩による6つの歌曲」は、ニコラウス・レーナウの詩をテキストに、1850年に作曲された作品であり、補遺として「レクイエム」を追加して出版された。これらは、デュッセルドルフへ移るシューマンのドレスデン時代の最後の作品の一つである。10年前の「詩人の恋」は、若者の恋への憧れが、ういういしく表現された作品となっているのに対して、10年後のこの歌曲集「レーナウの詩による6つの歌曲」では、深い抒情と心の翳りといった暗い表現が中心の作品へと様変わりしている。「献呈」「東方のばら」は、歌曲集「ミルテの花」からの作品。歌曲集「ミルテの花」は、結婚の時、シューマンが妻クララへ贈った愛の歌曲集。最後の「二人のてき弾兵」は、ロシアで捕虜になっていた2人の擲弾兵(てきだんへい:擲弾<手榴弾>の投てきを任務とする兵士)が、フランスへ帰る途中、フランス軍の敗北、皇帝も囚われの身となったことを聞いて歌うバラード調の曲。このLPレコードで歌っているジェラール・スゼー(1918年―2004年)は、フランス出身の名バリトン。当然、フランスものの作品を得意としていたが、シューマンやシューベルトなど、ドイツ・オーストリア系の作品でも優れた録音を遺している。スゼーは、ドイツ・オーストリア系出身の歌手よりも、ドイツ・オーストリア系作品に対して深い洞察力をもって歌うことが出来た、フランス出身の歌手であった。このLPレコードに収められたシューマンの歌曲でも、スゼーは、あたかもビロードを思わせるような、それはそれは美しい歌声でリスナーを魅了する。こんなにまで繊細で、あくまで柔らかく、そして整った歌声を響かせる歌手は、スゼー以後はいないと断言できるほどである。このLPレコードは、そんなスゼーの真価を知り得る、貴重な録音となっている。(LPC)