ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

パトリス・ルコントの「歓楽通り」―無償の愛の行方

2004年12月13日 | 映画♪
女性の「艶っぽさ」を描かせるとパトリス・ルコントは何とうまいことか――「髪結いの亭主」「仕立て屋の恋」などパトリス・ルコント作品の王道を行く作品。娼館の女性たちがいとおしい。

舞台は第2次大戦前後のパリ、まだ娼館が立ち並んでいた頃、その1つ「オリエンタル・パレス」の娼婦たちに囲まれながらプチ・ルイ(パトリック・ティムシット)は育った。多くの女性に可愛がられてきたためか、プチ・ルイは子供の頃から「最愛の女性の世話をすること」を夢見ていた。そんな時、娼婦マリオン(レティシア・カスタ)に出会い、彼は一生をマリオンのために生きようと心に誓う。それも、性欲を抜きにした彼女の幸せのために。彼はマリオンの肩を抱きながらこう言う、「…僕も待っている、君を笑顔にできる男を」と。

そこに現れたのは、商売に失敗しヤクザに追われるディミトリ(ヴァンサン・エルバズ)だった。マリオンはディミトリを運命の男と信じ、プチ・ルイはマリオンのために2人とともに逃亡生活をはじめる…



無償の愛。しかしこの映画で描かれているのは、一方的な愛ではなく2人の男が役割分担をし、それぞれ愛情を注ぎ、また注がれる物語だ。もしプチ・ルイが性欲を持っていたなら、マリオンもプチ・ルイだけを愛していたかもしれない。しかし彼は自分が性欲といった面でマリオンを幸福にしてあげれないことを知っている。だからこそそれをディミトリにゆだねることで「幸せな日々」を実現しようとする。

それにしても性欲を抜いたプチ・ルイの愛、そんなことが可能なのであろうか?

少年時代、自分が娼婦たちに可愛がられたように、一種のフェティシズムとしてマリオンを愛しただけではないか。子供たちがプラモデルやおもちゃを大切にするのと同じように。しかしプラモデルであれば、一方通行の「無償の愛」を注げばそれで幸せかもしれないが、マリオンは生きた人間だ。人が人を愛するということは、「無償の愛」ではありえない。「性欲」もあれば「独占欲/被独占欲」もある。互いが互いを想うことで傷つきあい、憎しみをぶつけることで愛情を育むことだってあるのだ。人を愛するということは、残念なことに自己完結ではありえない。

川辺でのマリオンとディミトリの接吻を彼はどのような気持ちで見ていたのだろうか。崩れ落ちていくディミトリにむかって駆け出すマリオンは既に人としての愛し合うことを求めていた。もしもっと早く「髪にふれていたら」…大きな代償とともに彼は少年から大人になっていったのかも知れない。

プチ・ルイが求めたことが結局はただの夢でしかなかったように、3人はチープで残酷な現実の前に引き裂かれていく。そして我々がそうであるように、プチ・ルイもまたこの残酷な現実の中で生きていかねばならないのだ。1人の大人として。


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【評価】
総合:★★★★☆
純愛度:★★★★☆
女性の艶っぽさ:★★★★★


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2 コメント

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はじめまして。 (aki)
2004-08-15 00:44:10
TBありがとうございます。



やはり、愛する相手が人である限りプティ・ルイのような無償の愛は成立しえないのでしょうね。

ディミトリとの結婚式で、マリオンがプティ・ルイを抱きしめながら囁くシーンでなんともいえない気持ちになりました。
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Unknown (etranger)
2004-08-22 13:40:35
初めまして。etrangerと申します。帰省から帰ってトラックバックが増えていることに気づきました。

ルコント作品を他にも何か見ましたら、レヴューを期待しています。
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