ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

ハートロッカー:ビグロー監督の映像センスが光る社会派アクション

2010年09月25日 | 映画♪
話題作「アバター」を押さえて第82回アカデミー作品を受賞したキャスリン・ビグロー監督の社会派アクション。洗練され、かつ緊張感溢れる映像。「ハートブルー」でもそうだったのだけれど、この監督の映像はとにかくかっこいい。タイトルは「棺桶」を意味するアメリカ軍の隠語。果してこの映画にこめられたメッセージとは。

【予告編】

映画『ハート・ロッカー』予告編


【あらすじ】

2004年、イラク・バグダッド。駐留米軍のブラボー中隊・爆弾処理班の作業中に爆発が起き、班長のトンプソン軍曹が爆死してしまう。トンプソン軍曹の代わりに派遣されてきたのは、ウィリアム・ジェームズ二等軍曹。彼はこれまでに873個もの爆弾を処理してきたエキスパートだが、その自信ゆえか型破りで無謀な行動が多かった。部下のサンボーン軍曹とエルドリッジ技術兵は彼に反発するが、ある事件をきっかけに打ち解けていく。(「goo 映画」より)

【レビュー】

第82回アカデミー賞では元夫・ジェームス・キャメロンの「アバター」と受賞レースを繰り広げ、見事、作品賞をはじめとした6部門で受賞した作品。監督のキャスリン・ビグローは個人的に大好きな「ハート・ブルー」の監督でもある。ハートブルーでもそうなのだけれど、映像表現が非常に洗練されており「かっこいい」。

ハートブルーでは、当時、最新鋭のカメラで撮影された5分にも及ぶとキアヌ・リーヴスの追跡シーンがあり、ややスローモーションで押し寄せる波の様子や空を駆け抜けるスカイダイビングシーンなど、当時のどの映画よりも洗練されていた。この作品でも、爆破の瞬間をスーパースロー再生させることで、これまでにない緊迫感と迫力を再現している。

ちょっと余談になるのだけれど、「スローモーション」の映像が僕らの興味をそそるのはそれによってその世界を支配したかのような感覚があるからだろう。

英語の「see」には「見る」という意味だけでなく「把握する、理解する」という意味がある。「見る」ということは、つまりその様子が「分かる」「把握する」ということだ。そしてこのスローモーションというのは、通常、僕らが見ること以上に(把握していること以上に)、詳細な様子を把握することができることを意味する。

そしてこの「把握」という感覚にはその対象を支配した、優位にたったかのような感覚をもたらす。例えば「把握する」という意味をもつ「grasp」という単語には「支配」「手中に収める」という意味も含まれる。スローモーションで再生される映像を見る時、僕らが通常の映像以上に画面に集中するのは、普段見ることのできない詳細を見る-把握する-支配するという感覚が刺激されるからだろう。ビグロー監督はこうした無意識の感覚を刺激するのが非常に上手い。

閑話休題。

作品自体はいたってシンプルだ。バグダッド郊外で活躍するアメリカ軍の危険物処理班が活動を中心に、アメリカから見たイラク戦争の問題を描いている。

残り少ない任期を最小限のリスクで全うしたいと考えるサンボーンとエルドリッジの前に現われた新しいリーダー・ジェームズ。彼は勇敢なおとこでり、数々の爆弾を処理してきた男だ。3人は考え方の違いから対立を繰り返しながら、生死のかかった緊張感の中、任務を続けていくのだが…

戦場という異常な空間がもたらす問題点というのは、ベトナム戦争の時から指摘されてきた。

「フォー・ザ・ボーイズ」の中でも精神を病んだ兵士が骸骨を集めるというシーンがあり、また同じくイラク戦争を舞台とした「告発のとき」でも戦場の兵士だけでなく帰還兵も心を病んでいる様が描かれる。彼らは生き延びる「敵」を殺さねばならない。倫理的人道的にどうかなどそこにはない。考える前に撃つ。殺す。生と死を分けるのはそうした瞬間的な「判断」や「所作」の結果であり、「運」だ。

だからこそそうした兵士たちが精神を病むのはわかる。「ハートロッカー」の主人公たちは決して「殺人」を前提とした戦場にいるわけではない。治安維持であり、そのための「爆弾処理」だ。彼らの代わりに爆弾処理が可能なロボットもあるし、防護服を着ることも出来る。それでも何かが彼らを狂わせていく。

生と死の狭間にいる緊張感。成功した時の言われもせぬ達成感――。

しかしそれは否定されるべきものなのか。

平穏な日常をいきている者から見ればそれはやはり「狂っている」。しかしもし彼らは戦場に行けば「英雄」なのだ。多くの者を救い、彼らによって平和がもたらされるかもしれない。

こちら側の平和とは、彼らを人身御供として成り立っているのかもしれない。


【評価】
総合:★★★★☆
役者陣もいい感じ:★★★★★
物語の深みなら「告発のとき」の勝ちかな:★★☆☆☆

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