自民党から民主党に政権交代があり、中国が日本に取って代わってGDP第二位の経済大国になることが確実となり、人口減少と高齢化社会が目前に迫り…改めて現在の日本社会の課題を整理したいと思って手に取った一冊。基本的にはサブタイトルの『「成長論」から「分配論」へ』に示されているように、リベラル・社会民主主義路線に近い。高齢化社会・人口減少社会をむかえるにあたり日本はどうあるべきなのか。
![](http://www.chikumashobo.co.jp/photo/book/large/9784480065568.jpg)
成熟日本への進路 「成長論」から「分配論」へ / 波頭亮
【要約】
Ⅰ 21世紀日本の国家ビジョン
戦後約50年続いた「成長」フェーズから日本は「成熟」フェーズに入った。70年代~80年代にかけては4%以上あったGDPの平均成長率も90年代以降は1%前後となり、1人あたりのGDPは95年までは日本がトップだったのがそれ以降は米独英仏などに抜かれてしまっている。
経済成長率は
経済成長率 = ①労働力の増加率 + ②資本ストックの増加率 + ③技術進歩率
で表すことができるが、①労働力については、少子化と高齢化社会のために、今後、労働力人口は10年間で770万人が減少することになる。専業主婦の就労を促進したり定年後の再雇用・再就職を斡旋する方針を出しているものの、実質的な増加率はそれほど期待できない。
②の資本ストックの動向を見るうえで「貯蓄率」というのが1つの目安となる。給与から消費を除いたものが貯蓄に回るが、貯蓄されたお金は金融機関を通じで投資に回される。戦後、日本の経済成長を支えたのはこの「貯蓄率」にあったと言われており、75年には23.1もの貯蓄率があった。しかし90年代半ば以降、その貯蓄率は急激に下がり2007年には1.7%にまで下がっている。
③技術進歩率を測るために、「技術革新」の結果でもある労働生産性を見るとやはり70年代~80年代は年率3.4%まで伸ばしたものの、バブル崩壊後の経済停滞もあって90年代はマイナス成長、00年代は0.1%とほとんど伸びていない。
このように成熟フェーズに入った日本にとっては新しい「国家ビジョン」が必要となる。それは端的に言うと「国民全員に、医・食・住を保障すること」だ。
現在の医療費は約34兆円だが、既にその85%は社会保険料や税金によってカバーされている。また総介護給付費用6.4兆円もその9割は介護保険と税金によって賄われている。つまり5.4兆~13.5兆円程度の歳出を増加させれば、医療と介護を無償で提供することが可能となる。
日本は相対的貧困者層の比率が14.9%とOECDワースト4位だ。生活保護対象世帯は115万世帯あるものの実際に給付を受けられるのは2割程度しかない。10.4兆円の追加予算があれば給付率100%を実現できる。つまり24兆円の財源があれば、医・食・住を保障し安心して暮らせる社会を実現できる。
この24兆円という財源だが、現在の日本の国民負担率(所得のうち税や社会保障費の比率)40.6%をフランス(61.2%)に引き上げれば75兆円の増収となるし、英国(48.3%)並に引き上げても32兆円の増収となり、十分賄うことが可能である。
そのための具体策としては、①消費税、②金融資産課税、③相続税の大幅UPなどが考えられる。
①消費税については、先進国では15%~20%が一般的。現行の消費税を10%にあげるだけで22兆円が増収する
②「資産課税」というのは、消費税のもつ所得に対する逆進性を緩和するもので、多くの資産を持つ人に多くの課税をするもので「再分配」機能に優れている。これからは土地だけではなく金融資産を対象とすべきだ。固定資産と金融資産間の不公平を是正することにもなるし、仮に土地と同程度の1.4%を個人金融資産(1,400兆円)に課税すると年20兆円の増税となる。またそうすることで積極的な資産運用へのモチベーションにも繋がる。
③相続税については、日本の個人資産は2165兆円もあるものの、様々な免税措置の関係もあり、相続税による税収入は1.5兆円程度しかない。遺産相続による階層化・不平等の固定化を避けるためにも、相続税の実効税率を高めることは意義がある。カバー率と実効税率を高め、遺産総額28兆円の50%を相続税として課税すると毎年14兆円の増収となる。
Ⅱ 経済政策の転換
成熟時代の経済政策としては「成長論から分配論への転換」と「産業構造の転換」が必要となる
これまでの土木建設業を中心とする公共事業は成長フェーズでは有効的だったが、既にその経済成長を促進する効果を失っている。これまでは道路のような産業インフラを作ることで経済全体が活性化し、また経済波及効果も大きかった。また雇用も作り出されていた。しかし既に主要な幹線道路は出来上がっており、また経済のIT化・ソフト化が進む中で経済波及効果の恩恵に預かりやすい重厚長大産業の比率が下がったために、波及効果も小さくなった。
雇用という意味では公共工事は効果がある。そしてそのために無駄とわかっている公共工事が続けられたきた。しかし現在では失業対策として公共工事をするくらいなら、直接、失業者にわたしてしまえばいいという議論もある。
成熟化した社会においてはこうした「成長論」だけでは上手くいかない。重要なったくるのが「分配論」だ。経済成長が期待できない以上、安定した社会を生み出すためには、社会全体で生み出された富(GDP)をどのように分配するかが大事なテーマとなる。
これまでは成長論にのっとったこともあって、「再分配」を行うにあたっても補助金や企業支援のような「間接給付」が中心であった。「国民全員に、医・食・住を保障する」ためには、再分配の方法も国民への「直接給付」に切替なればならない。
また産業構造の転換については、公共投資を「土木建設業」から「社会保障・福祉サービスを担う産業」への転換させることと、外貨を稼ぐために「高付加価値型の輸出産業」の育成が必要となる。
日本の社会保障費は先進国の中でもかなり低水準であり、これから低成長・高齢化社会をむかえるにあたっては不十分だ。年金については原資不足が指摘されているし、社会福祉に関しては生活保護世帯の20%しか支給されていない。医療・介護についても医師・看護士、介護職員の不足がしてきされている。
今後、社会保障・福祉サービスの拡充を図る上では、これら医師、看護士、介護職員を養成し、病院や介護施設を作ることが必要であり、また事業としてのオペレーションが求められる。これらの事業は雇用を生み、GDPにも貢献することから、産業構造の転換となる。
ただし医療・介護産業は新たなる雇用対を生むが「内需型産業」だ。一方で日本は石油や食料を輸入するための外貨を稼ぐ必要がある。自動車、家電、エレクトロニクス、工作機械といった製造業が国際競争力を低下させつつあり、新たに外貨を稼ぐための産業を育成する必要がある。
1つは、太陽光発電関連、原子力発電関連、水処理関連といった「ハイテク型環境関連」だ。太陽光に関しては日本がトップランナーを走っており、原子力発電に関しても有力な電気メーカーは3社しかなくうち2社が日本企業(日立、東芝)だ。水関連に関しても日本はトップレベルの技術を有している。
もう1つは「EV(電気自動車)」だ。ただし現時点で日本の自動車産業は外貨獲得の主力産業だ。EV化の進展は、今後の巨大な事業機会ではあるものの、同時にリスクでもある。EVに関しては死守しなければならない「守りの戦い」となる。
いずれにしろ社会保障と市場メカニズムとの両立をはかる必要がある。
Ⅲ しくみの改革
新しい国家ビジョンを遂行するためには、官僚制度改革が必要である。日本の官僚組織を強固にしている構造的要因とは、
1)行政裁量権とデータの独占による「実質的な政策決定権」
2)人事自治権と共同体ルールによる「組織的結束力」
3)ブラックボックス化した特別会計による「莫大な資金力」
4)メディアの掌握による「プロパガンダ機能」
ではどのように官僚制度改革を行えばいいのか。ポイントは2つあり、1つは「政治=官邸/内閣が官僚の人事権を掌握する」こと、2つ目が「特別会計を透明化・解消する」ことだ。特に特別会計については歳出ベースで見ると、一般会計88.5兆円に対して特別会計は354.9兆円とその金額が巨大だ。これが官僚が自由に使えるおサイフになっている。これをガラス張りにすることで、ストックで50~96兆円、フローで毎年10兆円の埋蔵金が出てくるとされている。国民財産の取扱が正確に補足されて国会でのチェックが入れば、不用・非効率な事業の停止・縮小が可能になるのだ。
【感想】
既に日本が縮小社会に入っており「成長」ではなく「安定・維持」といった形に舵を切らねばならないのでは、と考えていた時に手に取った一冊ということで、波頭さんの問題意識については総論において共感できる。ただ、僕自身、この著で書かれている内容に「そうあるべきだ」という思いがある一方、「果してそれで上手くいくのか」という迷いも多い。その迷いというのは実は今の国民が民主党のマニフェストなどに対して感じている思いと同じではないか。
「そうあるべきだ」と「それで上手くいくのか」という迷い。あるいは「そうあるべきだ」と感じつつもこれまでと「変化」することへの不安や心理的抵抗…
この著では「国民全員に、医・食・住を保障すること」がこれからの国家の義務だとする。そしてそを実現するために、経済成長のための「間接給付」ではなく、国民への「直接給付」が必要とする。波頭さんも書いているが、それによって「働く意欲」が余計に失われるのではないか、特に最近の不正年金受給のニュースなどを見ているとそういった疑念は残ってしまう。
また雇用対策として「医療・介護産業」への期待が述べられているが、これはその通りではあるのだけれど、これらは労働集約型産業であり、経済波及効果も薄く、そういった意味で日本経済が現状の水準を維持するための効果が期待できるのか、といったところもある。
「分配」も大事だけれど、やはり「成長」と「自助努力」を基本としないと「現状維持」すらままならないのではないかという思いがどうしても残ってしまうのだ。
確かに過去には「護送船団方式」「日本株式会社」から小泉・竹中改革による「市場経済」「自助努力」へ転換はあったとはいえ、それはともに「成長」ありきであった。国民の中にも激化する競争社会への不満はあったかもしれないが、「市場で勝ち抜く」ためというコンセンサスへの変更はなかった。
しかし現在、直面している課題――高齢化社会の進展や人口減少、それにともなう国内市場の縮小、国内の空洞化とグローバル企業との競争などなどについては、「成長」なのか「分配」なのか、「自助努力」なのか「社会福祉」なのか、正反対のアプローチが存在する。それはおそらく全く異なる社会意識やコンセンサスを国民に求めるだろう。
これまでの路線に疑問を感じつつも、リベラルな社会像・北欧型の社会民主主義的な路線に対しては、うまく社会の制度や国民の心理がスイッチできるのかわからない。そしてうまくスイッチできずに「ゆり戻し」になれば当然、経済や社会の混乱を生むことになる…
この著書自体は非常によくまとまっていて、さすがマッキンゼーという感じ。ただ僕の中ではまだ結論は出ていない。
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成熟日本への進路 「成長論」から「分配論」へ (ちくま新書)
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成熟日本への進路 「成長論」から「分配論」へ / 波頭亮
【要約】
Ⅰ 21世紀日本の国家ビジョン
戦後約50年続いた「成長」フェーズから日本は「成熟」フェーズに入った。70年代~80年代にかけては4%以上あったGDPの平均成長率も90年代以降は1%前後となり、1人あたりのGDPは95年までは日本がトップだったのがそれ以降は米独英仏などに抜かれてしまっている。
経済成長率は
経済成長率 = ①労働力の増加率 + ②資本ストックの増加率 + ③技術進歩率
で表すことができるが、①労働力については、少子化と高齢化社会のために、今後、労働力人口は10年間で770万人が減少することになる。専業主婦の就労を促進したり定年後の再雇用・再就職を斡旋する方針を出しているものの、実質的な増加率はそれほど期待できない。
②の資本ストックの動向を見るうえで「貯蓄率」というのが1つの目安となる。給与から消費を除いたものが貯蓄に回るが、貯蓄されたお金は金融機関を通じで投資に回される。戦後、日本の経済成長を支えたのはこの「貯蓄率」にあったと言われており、75年には23.1もの貯蓄率があった。しかし90年代半ば以降、その貯蓄率は急激に下がり2007年には1.7%にまで下がっている。
③技術進歩率を測るために、「技術革新」の結果でもある労働生産性を見るとやはり70年代~80年代は年率3.4%まで伸ばしたものの、バブル崩壊後の経済停滞もあって90年代はマイナス成長、00年代は0.1%とほとんど伸びていない。
このように成熟フェーズに入った日本にとっては新しい「国家ビジョン」が必要となる。それは端的に言うと「国民全員に、医・食・住を保障すること」だ。
現在の医療費は約34兆円だが、既にその85%は社会保険料や税金によってカバーされている。また総介護給付費用6.4兆円もその9割は介護保険と税金によって賄われている。つまり5.4兆~13.5兆円程度の歳出を増加させれば、医療と介護を無償で提供することが可能となる。
日本は相対的貧困者層の比率が14.9%とOECDワースト4位だ。生活保護対象世帯は115万世帯あるものの実際に給付を受けられるのは2割程度しかない。10.4兆円の追加予算があれば給付率100%を実現できる。つまり24兆円の財源があれば、医・食・住を保障し安心して暮らせる社会を実現できる。
この24兆円という財源だが、現在の日本の国民負担率(所得のうち税や社会保障費の比率)40.6%をフランス(61.2%)に引き上げれば75兆円の増収となるし、英国(48.3%)並に引き上げても32兆円の増収となり、十分賄うことが可能である。
そのための具体策としては、①消費税、②金融資産課税、③相続税の大幅UPなどが考えられる。
①消費税については、先進国では15%~20%が一般的。現行の消費税を10%にあげるだけで22兆円が増収する
②「資産課税」というのは、消費税のもつ所得に対する逆進性を緩和するもので、多くの資産を持つ人に多くの課税をするもので「再分配」機能に優れている。これからは土地だけではなく金融資産を対象とすべきだ。固定資産と金融資産間の不公平を是正することにもなるし、仮に土地と同程度の1.4%を個人金融資産(1,400兆円)に課税すると年20兆円の増税となる。またそうすることで積極的な資産運用へのモチベーションにも繋がる。
③相続税については、日本の個人資産は2165兆円もあるものの、様々な免税措置の関係もあり、相続税による税収入は1.5兆円程度しかない。遺産相続による階層化・不平等の固定化を避けるためにも、相続税の実効税率を高めることは意義がある。カバー率と実効税率を高め、遺産総額28兆円の50%を相続税として課税すると毎年14兆円の増収となる。
Ⅱ 経済政策の転換
成熟時代の経済政策としては「成長論から分配論への転換」と「産業構造の転換」が必要となる
これまでの土木建設業を中心とする公共事業は成長フェーズでは有効的だったが、既にその経済成長を促進する効果を失っている。これまでは道路のような産業インフラを作ることで経済全体が活性化し、また経済波及効果も大きかった。また雇用も作り出されていた。しかし既に主要な幹線道路は出来上がっており、また経済のIT化・ソフト化が進む中で経済波及効果の恩恵に預かりやすい重厚長大産業の比率が下がったために、波及効果も小さくなった。
雇用という意味では公共工事は効果がある。そしてそのために無駄とわかっている公共工事が続けられたきた。しかし現在では失業対策として公共工事をするくらいなら、直接、失業者にわたしてしまえばいいという議論もある。
成熟化した社会においてはこうした「成長論」だけでは上手くいかない。重要なったくるのが「分配論」だ。経済成長が期待できない以上、安定した社会を生み出すためには、社会全体で生み出された富(GDP)をどのように分配するかが大事なテーマとなる。
これまでは成長論にのっとったこともあって、「再分配」を行うにあたっても補助金や企業支援のような「間接給付」が中心であった。「国民全員に、医・食・住を保障する」ためには、再分配の方法も国民への「直接給付」に切替なればならない。
また産業構造の転換については、公共投資を「土木建設業」から「社会保障・福祉サービスを担う産業」への転換させることと、外貨を稼ぐために「高付加価値型の輸出産業」の育成が必要となる。
日本の社会保障費は先進国の中でもかなり低水準であり、これから低成長・高齢化社会をむかえるにあたっては不十分だ。年金については原資不足が指摘されているし、社会福祉に関しては生活保護世帯の20%しか支給されていない。医療・介護についても医師・看護士、介護職員の不足がしてきされている。
今後、社会保障・福祉サービスの拡充を図る上では、これら医師、看護士、介護職員を養成し、病院や介護施設を作ることが必要であり、また事業としてのオペレーションが求められる。これらの事業は雇用を生み、GDPにも貢献することから、産業構造の転換となる。
ただし医療・介護産業は新たなる雇用対を生むが「内需型産業」だ。一方で日本は石油や食料を輸入するための外貨を稼ぐ必要がある。自動車、家電、エレクトロニクス、工作機械といった製造業が国際競争力を低下させつつあり、新たに外貨を稼ぐための産業を育成する必要がある。
1つは、太陽光発電関連、原子力発電関連、水処理関連といった「ハイテク型環境関連」だ。太陽光に関しては日本がトップランナーを走っており、原子力発電に関しても有力な電気メーカーは3社しかなくうち2社が日本企業(日立、東芝)だ。水関連に関しても日本はトップレベルの技術を有している。
もう1つは「EV(電気自動車)」だ。ただし現時点で日本の自動車産業は外貨獲得の主力産業だ。EV化の進展は、今後の巨大な事業機会ではあるものの、同時にリスクでもある。EVに関しては死守しなければならない「守りの戦い」となる。
いずれにしろ社会保障と市場メカニズムとの両立をはかる必要がある。
Ⅲ しくみの改革
新しい国家ビジョンを遂行するためには、官僚制度改革が必要である。日本の官僚組織を強固にしている構造的要因とは、
1)行政裁量権とデータの独占による「実質的な政策決定権」
2)人事自治権と共同体ルールによる「組織的結束力」
3)ブラックボックス化した特別会計による「莫大な資金力」
4)メディアの掌握による「プロパガンダ機能」
ではどのように官僚制度改革を行えばいいのか。ポイントは2つあり、1つは「政治=官邸/内閣が官僚の人事権を掌握する」こと、2つ目が「特別会計を透明化・解消する」ことだ。特に特別会計については歳出ベースで見ると、一般会計88.5兆円に対して特別会計は354.9兆円とその金額が巨大だ。これが官僚が自由に使えるおサイフになっている。これをガラス張りにすることで、ストックで50~96兆円、フローで毎年10兆円の埋蔵金が出てくるとされている。国民財産の取扱が正確に補足されて国会でのチェックが入れば、不用・非効率な事業の停止・縮小が可能になるのだ。
【感想】
既に日本が縮小社会に入っており「成長」ではなく「安定・維持」といった形に舵を切らねばならないのでは、と考えていた時に手に取った一冊ということで、波頭さんの問題意識については総論において共感できる。ただ、僕自身、この著で書かれている内容に「そうあるべきだ」という思いがある一方、「果してそれで上手くいくのか」という迷いも多い。その迷いというのは実は今の国民が民主党のマニフェストなどに対して感じている思いと同じではないか。
「そうあるべきだ」と「それで上手くいくのか」という迷い。あるいは「そうあるべきだ」と感じつつもこれまでと「変化」することへの不安や心理的抵抗…
この著では「国民全員に、医・食・住を保障すること」がこれからの国家の義務だとする。そしてそを実現するために、経済成長のための「間接給付」ではなく、国民への「直接給付」が必要とする。波頭さんも書いているが、それによって「働く意欲」が余計に失われるのではないか、特に最近の不正年金受給のニュースなどを見ているとそういった疑念は残ってしまう。
また雇用対策として「医療・介護産業」への期待が述べられているが、これはその通りではあるのだけれど、これらは労働集約型産業であり、経済波及効果も薄く、そういった意味で日本経済が現状の水準を維持するための効果が期待できるのか、といったところもある。
「分配」も大事だけれど、やはり「成長」と「自助努力」を基本としないと「現状維持」すらままならないのではないかという思いがどうしても残ってしまうのだ。
確かに過去には「護送船団方式」「日本株式会社」から小泉・竹中改革による「市場経済」「自助努力」へ転換はあったとはいえ、それはともに「成長」ありきであった。国民の中にも激化する競争社会への不満はあったかもしれないが、「市場で勝ち抜く」ためというコンセンサスへの変更はなかった。
しかし現在、直面している課題――高齢化社会の進展や人口減少、それにともなう国内市場の縮小、国内の空洞化とグローバル企業との競争などなどについては、「成長」なのか「分配」なのか、「自助努力」なのか「社会福祉」なのか、正反対のアプローチが存在する。それはおそらく全く異なる社会意識やコンセンサスを国民に求めるだろう。
これまでの路線に疑問を感じつつも、リベラルな社会像・北欧型の社会民主主義的な路線に対しては、うまく社会の制度や国民の心理がスイッチできるのかわからない。そしてうまくスイッチできずに「ゆり戻し」になれば当然、経済や社会の混乱を生むことになる…
この著書自体は非常によくまとまっていて、さすがマッキンゼーという感じ。ただ僕の中ではまだ結論は出ていない。
菅直人の「第3の道」は地方でこそ花開く?! - ビールを飲みながら考えてみた…
地方変革のキーワードは「福祉」と「地域マネー」 - ビールを飲みながら考えてみた…
平均給与はどうやって決まるのか - ビールを飲みながら考えてみた…
インドの衝撃/NHKスペシャル取材班・編 - ビールを飲みながら考えてみた…
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