まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

Q.倫理学を学んで役に立つことって何ですか?

2008-10-21 10:23:04 | 哲学・倫理学ファック
この質問もたぶん半分は、質問というより反語なんだろうなあ。
「倫理学を学んで役に立つことはあるのか(いや何もない!)」
一昔前の教授たちなら、
「役に立つかなんてチャチなことをゴチャゴチャ考える前に黙って勉強しろっ!」
って答えたんだろうけれど、
今どきの教員は説明責任を果たして、
どんな役に立つのかちゃんと答えてあげられなければいけない、と私は思っているので、
こういう意地悪な質問にもお付き合いしたいと思います。

まず、倫理学に限らずどんな学問でもその学問を学んで役に立つことは、

A-1.考える力が身に付く

ということだろうと思います。
人間が社会に出て自分の力で生きていこうとするとき、
単純な肉体労働ってもはやほとんど存在しませんから、
どうしたって頭を使わなくてはなりません。
農業を営もうが、工場で働こうが、ファミレスで接客をしようが、
けっきょくのところ肝心な部分は頭脳労働です(どうやったら生産性が上がるのか)。
家庭の中で家族や親戚と付き合っていくのにも、
やっぱりいろいろなことを考えて、1つ1つ問題解決していかなくてはなりません。
そういうときに、大学で学んだ知識がそのまま役立つことはめったにないかもしれませんが、
様々な問題を考え抜いていく力を鍛えておくことはとても大事なことでしょう。
特に、

A-2.それぞれの学問固有の考え方、ものの見方が身に付く

と実生活のいろいろな場面で有利になることは間違いありません。
それぞれの学問には、特有の概念(=ことば)があります。
その概念は、その学問なりの世界の見方、ものの見方を体現しています。
そうした概念をうまく使うと、それまで見えていなかったことわからなかったことが、
急にはっきりと見えてきたり、新しい発見ができたりするのです。

ここからやっと本題に入りますが、倫理学を学ぶと、

A-3.倫理学特有の考え方、ものの見方が身に付く

わけであり、それは人生を生きていく上でとても役に立つものだと私は確信しています。
倫理学固有の概念としては、善と悪、正と不正、動機と結果、権利と幸福、
価値判断と事実判断、等々いろいろあります。
正義、人権、平和、平等、福祉、功利なども元はといえば倫理学の概念ですが、
これらは今では他の学問でもお目にかかることができるようになっています。

これらを学ぶとどういういいことがあるかというと、
例えば、目的と手段という概念を例にとって説明してみましょう。
目的と手段なんてふだんよく耳にすることばだと思いますが、
これも元はといえば倫理学の概念です。
目的と手段に関して倫理学は様々なことを教えてくれます。
手段とは本来、目的を達成するための行為や道具のことですね。
そんなことは当たり前のような気がしますが、
人間は日常生活の中で、本来の目的を見失い、
手段にすぎなかったものを目的と勘違いしてしまうことがある、
というのは倫理学が教えてくれる教訓です。
お金というのはそもそも何か必要なものを入手するための手段にすぎないのですが、
いつの間にかお金をもうけることそのものが目的になってしまうとか。
国家試験に合格するというのは、看護師になるためのたんなる手段にすぎず、
本来の目的は、リッパな看護師になって病気の人に行き届いた支援を提供し、
そういう仕事を職業とすることで自らの人生を豊かにしていくことだったはずなのに、
看護学校で勉強しているうちに、
国家試験に合格することが目的であるかのような錯覚に陥ってしまうこともありますね。
(教員志望者にとって教員採用試験合格が目的化してしまうという現象も同様です)

こういう人を見かけると私はよく言うのですが、
試験に合格するなんていう低いハードルを目的にしてしまうと、
その低い目標すら達成できなくなってしまう危険があるので要注意です。
ただ試験に合格するために覚えた知識や技術は皮相(上っ面だけ)です。
そうではなく現場に出たときに現場でフルに活用するために、
知識や技術を頭や身体や心に深く刻み込んでいく必要があります。
そのためには、
○○さんのようなきめ細かい看護のできる看護師になること、
□□先生のように誰からも信頼される教師になること、
といったもともと自分が持っていた目的を思い出す必要があるでしょう。
その本来の目的を見失わずにそれに向かって日々努力を続けていれば、
国家試験や教採に合格するなんていうたんなる手段は、
ひとつの通過点としてあっさりパスすることができるのではないでしょうか。

ほら、どうです?
倫理学的な考え方は人生に役立つような気がしてきたでしょう?
ほかにも倫理学には、「目的は手段を正当化しない」という鉄則があって、
いくら善い目的を達成するためであっても、不正な手段を用いることが許されたりはしない、
ということを教えてくれます。
政治家や企業のトップがちゃんと倫理学を学んでいたら、
あんなバカなことやこんなバカなことをしでかさずにすんだかもしれませんね。
どうです、倫理学はけっこう役に立つ学問なんです。
もっと学んでみようという気になってきたんじゃないですか?