これ!どう思います?

マスコミがあまり報道しない様な問題を、私なりに考えてみます。

ヴェーバーが残してくれたヒントを基に (その6)

2021-10-23 21:30:17 | 民主主義
【はじめに】
 今回は、目まぐるしく情勢が変化しているシリアについて書きます。シリア内戦を理解して頂く為には、クルド人についての知識が必要だと考えました。 クルド人の問題は、第一次世界大戦後のイギリスとフランスの露骨な植民地政策が原因です。

第13章 :クルド人
【クルド人の歴史】
 14世紀から1922年かけて600年間も続いたオスマン帝国と言う大国が有りました。クルド人が住む地域(クルディスタン)は、オスマン帝国の版図に含まれていました。 クルド人の一部は、現在のイラン(昔は、サファヴィー朝期→ガージャール朝期)にも住んでいました。 オスマン帝国とイランのクルド人は、それぞれの国の一民族として比較的平和に暮らしていた様です。

 第一次世界大戦(1914年~18年)ではオスマン帝国はドイツ側について戦いました。戦いに敗れて、1918年にオスマン帝国は連合国とムドロス休戦協定を結んで、領土の一部を連合国(イギリス、フランス)に割譲しました。 割譲されたい地域に、クルディスタンの一部が含まれていました。

 オスマン帝国時代のクルド人は、クルド人が全体で何かする様な動きは無く、クルド語を話す部族が平和にバラバラに生活していました。 クルディスタンが分割統治される様になって、クルド人に民族意識が芽生えた様に私は見ています。

【クルディスタン】
 クルディスタンとは、「クルド人の国」とか「クルド人が住む土地」の意味です。クルド人は、今から5,000年前には広大な面積を支配していた様です。ウイキペディアによると、32万km2も有ったそうです。(日本の面積は38万km2です。)

 クルディスタンは、現在の①アルメニアの南部、②トルコ東部、④シリア北部、⑤イラク北部、⑥イラン西部に有りました。 ①~⑤はオスマン帝国の版図に含まれ、⑥はイランの領土でした。

【クルド人の分布】
 クルド人は「国を持たない最大の民族」と呼ばれています。現在のクルド人の大よその分布を以下に示します。 (正確な数字は分かりません。)

★ トルコ :約2,480万人 (トルコの全人口≒8,230万人・・・2018年)
★ イラン :約480~660万人
★ イラク :約400~600万人 (イラクの全人口≒4,022万人・・・2020年)
★ シリア :約90~280万人
★ アルメニア :約4万人(アルメニアの全人口≒290万人・・・2017年)
★ その他 :120万人以上

【アルメニアのクルド人】
 1920年に共産国のアルメニアが建国され、クルディスタンの極一部が割譲されました。1991年に『アルメニア共和国』になっています。 クルド人が迫害されている様な記事は見当たらないので、平和に暮らしていると思われます。

(注記) アルメニアは人口290万人ほど、面積は3万km2(日本≒37.8万km2)の非常に貧しい小国です。

【トルコのクルド人】
 トルコに住むクルド人は1978年にクルディスタン労働党(PKK)を結成して、独立運動を展開しています。 シリアはPKKを支援してきました。

 トルコにおけるクルド人の問題は、❶全人口の30%ほどもいて、❷(一カ所に住んでいるのでは無く、)居住地が国全体に点在していて、➌多くが低所得者である事だと思われます。 トルコには選挙制度が有りますから、クルド人の票を無視出来ません。 トルコ政府はクルド人に「トルコの国民で有る」との考え方を持たせようと努力している様です。

【イランのクルド人】
1979年にイランで革命が起こりましたが、その後・クルド人達は自治を要求する運動を起こしましたがホメイニー政権によって抑え込まれました。(イランに住むクルド人は、大昔からイランに住んでいます。)

【イラクのクルド人】
 イラクはオスマン帝国の一部でしたが、第一次世界大戦時にイギリス軍が侵攻して、傀儡政権を樹立しました。 この時、クウェートが分離されました。

 イラクのクルド人は、イラク建国以来・自治を求める闘争を展開しましたが、フセイン政権がクルド人を虐殺して→強制移住させるなどして鎮圧しました。

 1991年の湾岸戦争後にアメリカとイギリスが、クルド人にフセイン政権打倒を勧めたので、内戦を始めましたが両国の協力が得られず失敗しました。そして、100万人程のクルド人がトルコとイランに脱出しました。

 その後、イラク北部に自治区が認められました。イラクでも、イスラム国が勢力を拡大しましたが、2014年にクルド人はイスラム国が支配していた北東部を奪い取って、自治範囲を拡大しています。 2017年にクルド人達は、「独立の可否を問う投票」を行って、独立派が多数をしめました。

 然し、拡大したクルド人自治区には大都市・モースルと、大規模なキルクーク油田が含まれていますので、イラクがクルド人の独立を認めるとは思えません。

【シリアのクルド人】
 クルド人は、シリアの北東部に集中して住んでいます。シリア内戦が始まった頃は、独立国家の樹立を主張していましたが、アメリカ軍が撤退を表明した後は、自治権の獲得に方針転換して、今の所はアサド政権はその主張を黙認しています。

第14章 :シリア
【私とダマスカス剣】
 私が小学三年生になった時に、父が(隠し持っていた)日本刀を二振り出してきて、「今日から刀の手入れをしなさい」と言いました。 手入れをしていて、表面に薄くて細い線が有ることに気づきました。錆かと思い何回も打紛して和紙で拭いましたが消えません。後日、これを”鍛え肌(きたえはだ)”と言うのだと知りました。 家の包丁の表面には紋様は有りません。どうして日本刀には出来るのか?この時から、私は日本刀の作り方や鉄の製造方法などに興味を持つようになりました。

 少年雑誌で”ダマスカス剣”の写真を見つけました。表面全体に綺麗な文様がクッキリと表れていました。ダマスカス剣が何処で/ドンナニして作られたのか?興味を持ったので、以来・ダマスカス剣だけで無く、シリアに関する記事を見付けると読んできました。 就職して金を貯めて、シリアに行ってダマスカス剣を買うのが、私の夢になりました。

(余談) シリアに行ってもダマスカス剣は手に入らない様です。買っても日本には持ち込めません。 外国では、本物のダマスカス剣は億単位で取引されている様です。 ダマスカス剣は鉄鋼の研究開発と密接な関係が有ります。何時か・ダマスカス剣について投稿したいと考えています。

【シリアの基礎データ】
 シリアの正式名は『シリア・アラブ共和国』です。首都はダマスカスです。

 シリアでは石油が産出して、現在は重要な輸出品になっていますが、埋蔵量が少なく、もう直ぐ枯渇すると予想されています。(石油産出国では珍しく)、農産物を輸出し、大規模とは言えませんが工業製品も輸出している様です。 然し、貧しい国です。

★ 人口 :1,795万人(2014年)
★ 面積 :18.5万km2
★ 民族 :アラブ人≒90%、クルド人≒8%
★ 宗教 :イスラム教≒87%(スンナ派≒70%)、キリスト教≒12%
★ 一人当たりのGDP :6,375ドル(2010年)・・・PPP
★ 石油 :現在は石油が最大の産業ですが、埋蔵量は少なく枯渇する恐れが有ります。
★ 農業 :綿花、小麦、オリーブ栽培
★ 工業 :繊維、食品加工、セメント

【シリアの歴史】
 シリアは東西交通の要の位置にある為、古代から大国が支配してきました。16世紀からはオスマン帝国が支配しました。 第一次世界大戦でオスマン帝国が敗れたので、シリアはフランスが支配する事になりました。 その時、クルド人が住んでいた地域の一部がシリアに含まれました。

 第二次世界大戦後の1946年にシリアは独立しましたが、3回もクーデターが発生しました。1958年にエジプトと連合国家『アラブ連合共和国』を建国しましたが、61年にはクーデターを起こして『シリア・アラブ共和国』として独立しました。

 シリアの敵国はイスラエルです。1967年に第三次中東戦争、73年には第四次中東戦争に参戦してイスラエルと戦いました。

 1970年にクーデターで・ハーフィズ・アル=アサドが政権を握って、独裁政治を始めました。彼は2000年に亡くなり、息子のバッシャール・アル=アサドが独裁政権を引き継ぎました。 2010年に始まった『アラブの春』で、シリアでも自由を求める反政府武装闘争が始まりました。複数の武装勢力が組織され、トルコが支援した『自由シリア軍(FSA)』もその一つです。

 2013年頃からイスラム原理主義を掲げるイスラム国(IS)が活動を始めました。サウジアラビアの富豪達が巨額の資金を提供していた様です。 外国から戦闘員を集めて、占領地を広げていきました。

 イスラム国退治を進めている間に、「自由化/民主化」を叫んで始まったシリア内戦の目的は吹っ飛んでしまいました。 内戦の終結は未だに見えて来ませんが、内戦が終わってもシリアが民主化するとは思えません。

★ シリア共和国の建国 :1946年
★ イスラエルの建国 :1948年
★ アラブ連合共和国 :1958年・・・エジプト✙シリア✙北イエメン
★ シリア・アラブ共和国の建国 :1961年・・・クーデターにより建国
★ 第四次中東戦争 :1973年
★ ハーフィズ・アル=アサド政権 :1970年~2000年
★ バッシャール・アル=アサド政権 :2000年~
★ アラブの春 :2010年~12年
★ シリア内戦 :2011年~
★ イスラム国(ISIL) :2014年→→19年には壊滅状態

【シリアの軍隊】
 シリアの敵国はイスラエルです。 男子の徴兵を敷いていて、国力以上の軍隊を保有しています。 2014年の人口は1,795万人でしたが、兵力は・現役≒32万人✙予備役≒50万人✙民兵。 国家予算の10%程も軍事費に当てている様です。

 シリアの友好国はロシアで、兵器の多くはロシアから調達しています。ロシアはシリアに二カ所軍事基地を所有しています。

 シリアには沢山(10グループ以上)の武装した親政府民兵組織が有り、正規軍と一緒に戦ってきました。日本を含めた欧米諸国がテロ組織と認定しているヒズボラも政府側で参戦しています。

【現在のシリアの内戦】
 独裁政権に対して自由(民主化)を求めて始まったシリアの内戦は、イスラム国と反政府勢力は壊滅状態になりましたが、大国の介入で複雑怪奇になってしまいました。 現在は、以下に示す『A』と『B』と『C』の3グループが三つ巴で戦っています。

 国連は憲法案を作ってシリアに提示しようとしていますが、実質的には殆ど戦闘能力を失った反政府勢力(グループE)以外のグループは『自由(民主化)』には反対だと思われます。従って、内戦が終結してもシリアが民主主義国家にはならないと私は断言します。

(イスラム国との戦闘) トルコとの国境を占拠していたイスラム国はグループBが、シリアの西部のイスラム国はグループAが、東部を支配していたイスラム国はグループCが、それぞれ個別に戦って壊滅状態まで持っていったのです。

グループA :シリア軍✙10グループ以上の親政府民兵組織✙ロシア軍(傭兵を含む)✙イラン✙ヒズボラ
グループB :トルコ軍✙親トルコの反政府勢力
グループC :アメリカ軍✙クルド軍
グループD :イスラム国・・・サウジアラビアの富豪達が支援、現在は弱体化しています。
グループE :自由化を求める反政府勢力・・・現在は弱体化しています。
グループF :イスラエル軍・・・内戦前からシリアとは敵対関係でした。

【シリアのクルド人】
 クルド人はシリア政府に対して自治権を主張して、黙認された状態に有ります。 アメリカの支援を受けて、イスラム国と戦いました。(イスラム国退治の為に居住地外に進出していましたが、現在はほぼ元の居住地に撤退しています。) イスラム国が壊滅状態になり、現在はトルコと・その支援を受けた反政府勢力と戦っています。

 クルド人が「国家を建設する」と言う野望を捨てて、自治権の獲得要求だけにしたら、アサド政権は公式に認める可能性があり、平和に暮らせると予想します。

【シリアのロシア軍】
 ロシアはシリア内に、タルトゥース湾基地とフメイミム空軍基地を所有しており、ロシア正規軍だけでなく民間軍事会社の傭兵も軍事活動を行っています。 シリアを実戦訓練と兵器の試験場所と考えている様に見えます。 アサド政権が崩壊しない限りは、ロシアの撤退は無いと思われます。

【シリアのアメリカ軍】
 20013年にダマスカスの近郊で何者かが化学兵器を使用した為に、オバマ大統領がシリアに軍事介入しようとしました。アサド政権が使用した証拠が得られなかったので、同盟国を説得出来ず、介入しませんでした。

 2017年にトランプ大統領が、アサド政権のシャイラート空軍基地をミサイル攻撃しました。 その後アメリカは、シリアとイラクとの国境通過地点のタンフを占領して基地を設けました。 クルド軍(SDF)を支援して、イスラム国との戦闘を支援してきました。 現在は、クルド軍(SDF)の活躍でイスラム国は微力になっています。

 2018年にトランプ大統領は、「シリアから完全に撤退する」と表明しました。クルド軍を支援していたアメリカ軍は撤退した様ですが、タンフ基地には400名程の兵士が残っている様です。

 シリアの北東部に親米のクルド人の国を作る目論見も有った様に見えますが、この考え方は完全に放棄している様です。多分、近年中にはシリアから撤退すると私は予想します。

【シリアのトルコ軍】
 トルコは、2016年にイスラム国が支配していたシリアの北部に侵攻して→占領し→現在も支配しています。 トルコの支配地域の治安は回復し、トルコから沢山の難民が帰国しました。 現在は・主としてクルド人と戦っていますが、ロシア軍とも時々紛争が起きます。

 トルコが侵攻した理由は、❶シリアからの難民の流入防止(イスラム国を倒して治安を回復する)、❷クルド人に独立国家を樹立させない、の二点だったと思われます。 国内に多数のクルド人が住んでいるトルコとしては、シリアにクルド人の国が出来ると、国内のクルド人が独立運動を活発化する恐れが有ると危惧しているのです。

将来の予想】
① アメリカは、イスラム国が勢力を盛り返す兆しが無い限り、シリアから全面的に撤退すると予想します。 アサド政権が化学兵器を使ったり、クルド人を虐殺したら、再度侵攻する可能性が有ります。 そう言う事態にはならないと私は思います。

② アメリカ軍が撤退したら、アサド軍はロシアの支援を得て、トルコが占領している地域の奪還を図ると予想します。 トルコは撤退せざるを得なくなるでしょう。 結局、『アラブの春』が始まる前の状態に戻って、アサド独裁政治が続くことになると思われます。

③ 現在、中国はシリアに表立って介入していませんが、近年中に『金に物を言わせて』介入すると予想します。 シリアを『一路一帯構想』の中に含めるでしょう! 中国がシリアに強力な軍事基地を作る可能性が有ります。

④ シリアは中国、ロシア、イランに支援されたアサド家の世襲独裁国家になると予想します。中国とロシアは既得権(軍事基地)を保持するために、シリアで反政府運動が起こることを許容しないと思われます。シリア国民は自由を得る事は出来ず、貧しい状態は続くでしょうが、戦闘は収まって平穏に暮らせる様にはなるでしょう!

⑤ 中国とロシアがシリアに軍隊を駐留させたら、イスラエルはシリアに手出しが出来なくなります。 中東地域での紛争は減少すると予想します。

⑥ 中国がアフガニスタンの地下資源を収奪する様になり、シリアに本格的な軍事基地を建設すると考えて、日本を含めた欧米諸国は対策を今から検討する必要が有ります。第二次世界大戦後・日本はアメリカの要求に渋々従って、紛争が起こると『金』を出したり、後方支援部隊を派遣してお茶を濁してきました。 中東ではアメリカは子供の様な幼稚な失敗を繰り返して来ました。 始まりつつ有る米中冷戦は、米ソ冷戦よりも各段に難しい問題を孕んでいます。 今後の日本は長期的な計画を立てて、賢く立ち回る必要が有ります。


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