1/11 あれはいつだった? 第6話
直子と馬が合う?
母親が言ったことを考えていた。
直子が大阪をやめて東京に出てきて
自分を訪ねてきたときは、正直引いた。
どうしろって言うのと思った。
でも、大阪の受付のころは出張時に直子と会えるのが
ちょっと楽しみでもあった。
相手が女だからドギマギするようなことは旭にはなかった。
それは久子が言うように女ばかりの環境で育ったからだ。
子供のころは腕力において、時に暴力のときも
泣くのは旭だった。
勝ったことなんか一度もなかった。
女は弱い生き物なんて大きな間違いだ。
旭はいつも憤慨していた。
女だけど、彼らが殴りかかってきたときは容赦がなかった。
うっかり悪戯なんかしようものなら
3人にとっちめられた。
いつも母親が止めてくれた。。
だから女が嫌い?
旭は自問した。
でも、幼稚園、小学校、中学とほんのり心がわいた女子もいた。
それが恋、恋の始まりとも思わなかった旭。
ヒサちゃんは女って思ったことなかった。
棒を持ってチャンバラさえ久子とはやった。
久子には4歳か年上の兄がいたけど
ほとんど接触はなかった。
一緒に遊んだこともなかった。
久子の父親がドライブや遊園地に旭も連れて行ってくれたときも
淳(ジュン)平はいなかった。
直子と偶然中華で会ったとき、
付き合うことは旭は考えていなかった。
大阪で会うときとすごく違っていた。
なんで直子が嫌なんだろうと思った。
容姿じゃない。
直子だって、東京に出てきて旭と結婚しようとは思ってなかったはず。
今までの女と比べてみた。
旭はしゃべりやすい男だったから
女たちは彼が男だと忘れて気やすく口をきいた。
直子は受付ではてきぱきと来客をさばいて
たちまちラインから送りだされた。
雑談すらする間はなかった。
彼女が偶然一人のとき
世間話をすることもあったけど
個人的なことは言うチャンスはなかった。
大阪の出張は楽しみにもなっていたのに
彼女が東京に出てきたらどうだ、なんで気持ちが変わったんだろう?
おれ、女が嫌いなのかな?
そして街中で直子と出会った日を思った。
暑い日だった。
前に大きな帽子、ゆったりしたチュニックに
細い短めのパンツ、高いヒールのサンダルで
ハンドバックをブラブラさせながら歩いていた女。
水着のショーウインドウ覗いている横顔を見て
直子だと気がついた。
直子は鏡のようなガラスの中に旭を見つけて
旭さんじゃないのっと近づいてきた。
そうだ、あれだ。
直子は迷うとか、ウジウジするようなタイプの女ではなかった。
どっちかというと、そうだ、姉たちみたい女。
それが嫌悪感?
散歩ですか? あの時旭はそう聞いた。
うん、何か新しいもの買おうかと思って。
新しいものって?
なんでもいいの。 ハンドバックをみたい。
一緒に行ってもいい?
自分でも驚くような言葉が出ていた。
そして二人は冷房の効いたデパートの中に入って行った。
結局、直子はハンドバックを買わなかった。
デパートの中のブーティック、いくつかの売り場を2回、3回と見直して
買わなかった。
完璧に気に入ったのがなくてと言い訳した。
それでいいじゃない。
と持っているバックを見た。
これ古いし。
いつ買ったの?
去年。
ああ、女!!
旭は心の中で嘆いた。
また姉の一人を思い出した。
表に出て歩きだしたとき、
直子が旭のジャケットの袖につかまった。