1/19 あれはいつだった? 第11話
直子はアメリカに留学する前に父に言われた。
ナオ、男というものは直子が考えているようなものじゃない。
兄さんたちや弟とは違うんだよ。
気をつけてね。
直子はボーイフレンドにもいかない男友達がたくさんいた。
男の中で育って、男女共学で、男と一緒のほうがときに居心地よかった。
だから父の注意にも深刻な解釈はなかった。
そして1年の留学はあっと言う間に終わり、帰国して
まもなく父の知り合いに紹介された中サイズの会社に入り
数年が過ぎてしまった。
直子としてはもう少し英語を使う部署に行きたかったのだけど
英語という今や誰でも話すような言葉では願った仕事には
つけなかった。
直接の上司に何気なくその不満を愚痴ると
今村さん、大阪ならあるよ、受付だけど
と言われた。
受付!!
それは直子の望んだ仕事ではなかった。
でも直子は考えなおした。
受付なら残業もないだろうし、時間ができたら
なにか習おう。
大阪の生活は周囲が心配するほどのこともなく
アメリカ留学中に知り合った大阪出身の友達に会ったり
学生に戻ったような気楽な生活が続いた。
旭はそういう生活の中で出会った人だった。
One Of 訪問者S
で、気にとめるような存在ではなかった。
直子にはいくつまでに結婚して、子供は幾人ほしくてなんて
希望はなかった。
金持ちになりたい、有名人になりたいなんてことも考えたことがなかった。
それは直子が安定した生活をしてきて、上下の男に多少はもまれても
紅一点で大事にされてきた反動でもあった。
直子の記憶にいつの間にか旭が残ったのはなんででろう?