1/26 あれはいつだった? 第13話
直子は自宅についてから旭の反応を考えた。
私に会えて嬉しかったようには見えなかった。
どうせ何も始まっていないのだから
止めるべきではないかしら?
燃えるような思いを鎮火させる方法は?
もっと若いとき、片思いや失恋に悩む友達に
次に行こうって叱咤激励したもんだったことを思いだした。
次に行こう?
大阪に入ればよかった。
大阪に戻って仕事を探そうかしら?
でも何の仕事を選べばいいの?
ふと静けさが苦しくなった。
ラジオをつけてから、テレビもつけた。
電話が鳴った。
出てみると、上の兄だった。
東京に戻って何しているの?
いつもの通り単刀直入の質問だった。
なにも。
なんで会社を辞めたの?
別に。
別にってことはないだろう?
小一時間も追及された。
兄から解放されてホッとしたところにまた電話だった。
珍しい、こう連続の電話。
また兄かしら?
長兄は電話を切ってからまた追加の説教をする癖があった。
電話に出たらなんと旭だった。
今いいですか?
はい
長く電話中だったから
兄からです。退社したことを追及されて・・・
今働いていないのでしょ?
いません。
早く電話しないでごめんね、ちょっと忙しくて。
・・・・急がなくていいです、私のことなんか。
でも直子さんの声聞きたくて。
心臓がジャンプした音が旭に聞こえたのではないかと思うほど
ドキっとした。
本当なの? 言ってから言うべきじゃなかったと後悔した。
本当です。
僕には勇気がなかった。
直子さんが先に踏み出したんだ。
僕、姉たちにしいたげられてきたから・・・・
女性がなんとなく恐くて・・・・
言葉と沈黙が交互に聞こえてくる。
私は兄弟が男ばかりだったから
直子も言い訳がましく言ってみた。
僕に会ってくれますか?
Pardon?
うっかり英語が出た。
直子さんに会いたい。
直子の顔に血がのぼって、檀上でスピーチをしたときの緊張感を思い出した。
わたしも・・・会いたい
小さい声で言った。
その後は記憶にないけど
直子は次の土曜日に旭と会うことになった。
電話を切ってから直子はなにか持ってピョンピョン跳ね回った。
嬉しい、うれしい、うれしい
ふと我に返って腕の中を見たら机の上にあった分厚い家計簿を抱きしめていた。
土曜日まで直子は丹念に部屋の掃除をして、
残らないように洗濯をして
普段は絶対掃除しない冷蔵庫に黄ばみまで掃除した、
でも、旭さんが部屋に来ることもないのに
直子は自分を笑った。
金曜日の夜、天気予報をしっかり見てから
明日着るものを決めようとした。
寒くはないけど、暑くもない。
何を着ようかしら?
ドレッシーなワンピース?
カジュアルにパンツ?
何色がいいかしら?
直子は洋服ダンスを開けてすべての色のそろったシャツブラウスを見た。
顔色をよく見させるピンクやオレンジ、黄色を出してみた。
トップが何でもあうパンツなら黒、白でもいい。
さんざん考えて疲れて決まらないまま直子は寝に行った。