1/30 あれはいつだった? 第15話
旭は自他ともに認める優柔不断なところがあった。
それはやはり育ちだった。
自分で決める前に言われたことをやった。
やらないと姉たちの暴力があった。
待望の長男に旭の両親は旭を大事にしていたので
姉たちは親がいるときは旭に手を出さなかった。
旭が長男であることで、特に祖父に大事にされることが
姉たちをイラつかせた。
祖父は女の子しか生まれないことに旭の母親に冷ややかだった。
よく無能とののしった。
それを姉たちはかわいそうと思っていた。
姉たちにも男じゃないとか、女なんてとよく言ったもんだ。
しかも、カッっとするとゲンコツが飛ぶことすらあった。
だから姉たちは祖父が好きじゃなかった。
いや、嫌いだった。大嫌いだった。
不幸なことに旭の祖父は旭が祖父をしっかり認識する前に
亡くなってしまった。
旭はいつの間にか姉たちの復讐の標的になって行った。
両親ともに旭が望むのだから、旭のやりたいようにさせようと
姉たちには許さなかったことも、旭には許した。
それも姉たちが口に出せない憎しみに近い感情を根強く
持つ原因だった。
旭は勉強がそれほど好きじゃなかった。
姉たちは旭の成績が期待されるほどよくなかったことで
馬鹿にしたし、勉強を教える口実で旭をいじめた。
旭が勉強に目覚めたのは高校に入ってからだった。
大学入試にはあまり関係ない科目がより好きで成績もよかった。
誰にも言わない・言えない旭の夢は
アフリカとか東南アジアなんかに行って
自然の中で、自給自足で、金属加工なんかも自分でやって・・・・
でも、旭の両親は旭は一流大学に行って
父親のように有名会社に入社することを願っていた。
せめて物理でもよければって父は母に言うことがあった。
旭をやさしい気持ちにするのは久子といるときだった。
久子の両親は旭を彼のままに見てくれた。
彼らには久子の上に男の子がいたし
男子の扱いは心得ていた。
子供というものは自覚すれば、自然に努力するよ
と言うのが彼らの考えかただった。
旭が小・中と勉強が嫌いで成績がふるわなくても
大丈夫、そのうち目覚めますよ
って旭の母親に言ってくれるほどだった。
でも、旭が3人の姉にしいたげられていることは
単なる兄弟喧嘩くらいにしか考えていなかった。
それは3人の姉たちの巧妙な立ち回りのせいだった。
そして旭も姉たちに暴力を振るわれていることを
口に出せなかった。
旭の親でさえ、姉たちの旭に対しての仕打ちが祖父への
復讐から来ていることにまったく気がつかなかった。
旭は学校では平凡で、どちらかというと同級生を笑わせる
陽気な子供らしい子供だった
と、どの担任も思っていた。
旭はいつからだったか、僕は演技をしているんだ
と自分にささやくのだった。