1/25 あれはいつだった? 第 12 話
それは午後3時ごろだった。
受付の直子の前にも同僚の前にも訪問者の結構長い列があった。
その日は月曜?金曜?だったかもしれない。
直子の受け付けた客が訪問客ノートに必要な事項を記入していた。
直子は出口にチラっと旭の後ろ姿を見た。
お帰りになるのね 頭の中でつぶやいた。
急に猛烈な寂しさが直子を襲った。
必至にこらえたけど、直子の目は涙目だった。
訪問者がちょっと切れたとき、
直子はどうしてだろうと自問した。
次に彼が来たらお茶にでも誘ってみようかしら?
でもそういう機会は来ないままに春になった。
転職するには中途半端な時期だった。
でも直子は退社して東京に帰ることにした。
東京本店に戻る希望も出してはみたけどどこにも空きがなかった。
東京に行ったら、旭に会いに行ってみよう。
旭はあの日以来、大阪に来ていなかった。
もしかして、退職した?
冷たい風が直子の心に吹いた。
ネガティブな想像は止めようと心を奮い立たせた。
思い切って会いに行ってみようか?
でも突然行って会ってもらえなかったら?
またよからぬ想像ばかりが頭を横切る。
でもある午前中、直子は旭の会社の受付前にいて、
旭を呼び出していた。
まもなく旭が降りてきた。
直子を見る旭を見て覚えていてくれた
と安堵が沸き起こった。
でも旭は戸惑っている、私が動かないと
直子は退社して東京に戻ってきたと言った。
直子の実家は東京だったけど、
実家に戻ってはいない。
ホテルのカードを旭に握らせた。
直子は1週間ほど待って、ホテルを変えた。
5つ星に長期滞在できる身分ではなかった。
長かった1週間。
旭は電話をしてこなかった。
私に会いたくなかった?
これからどうしたらいいの?
両親の家に戻ろうか? でも父はあれこれ聞くだろうし
母はついて回ってつまらない質問をし続けるだろうし。
家に帰るのは気が重かった。
帰京したことを伝えていた友達から電話があって
直子ーお帰りなさいパーティーをやるからと言われた。
それは金曜日に決まり、言われた時間に直子は指定の中華レストランに
行った。
友達の顔を見ながら、友達の好き勝手な会話を半分流しながら聞きながら
直子はひどい孤独を感じた。
今夜ほど旭を恋しく思ったことはなかった。
ちょっとトイレに立った。
出てくると、旭がレジにいる。
嘘!
そっと近づくと・・・・あきらさん?
とささやいた。
仰天している旭の目があった。