1/12 あれはいつだった? 第7話
個人的に直子は受付で見たのとずごく違っていた。
無知というか世間知らずというか、
子供といる錯覚をすることさえあった。
直子は兄弟5人の真ん中で
上二人、下二人の男の中の女一人っ子だった。
彼女自身、男を男性とみられないと言ったことがあった。
彼女と頻繁に行き来初めてから、
直子は驚くことばかりやらかした。
例えば、トイレで紙がなくなったとき
ぁキラ、紙持ってきてとドイレのドアを開けて叫んだ。
持っていくと、戸が開いたまま座っていた。
風呂から出て、裸のままで、まるで旭がそこにいないみたいに
歩きまわったり。
旭はそういうの好きじゃなかった。
指摘して、直してほしいと頼んだ。
なんで? と口を尖らせた。
女の子はそういうことしないんだよ
とイライラしながら言った。
ある日、営みのあと、旭はシャワーをあびて出てきた。
直子はあの瞬間のままの姿で熟睡していた。
旭は彼女にシーツをかけると、バスローブのままで
テーブルを前に座り水を飲んだ。
直子がシーツの下でモゾモゾ動いた。
足を動かそうとしているのがわかった。
なんか夢でも見ている?
苦しそうに顔が歪んでいる。
なにか言おうとしている、声が出ない。
揺り動かした。
ナオ、ナオ、ゆすぶりながら呼んだ。
目を開くと、旭を見て、声にならない声でパパと言った。
夢か?
抱きしめながら聞いた。
うんとうなづくのがわかった。
おえつが聞こえた。
猫のリスを思い出した。
猫は普通リスみたい食べ方をしない。
でも旭の猫、リスは口いっぱいほうばって
ほっぺを膨らませた。
母猫のおっぱいを飲まない日が増えていって
離乳食とでも言うような子猫用のエサを食べだしたころだった。
知り合いの家に生まれて、
猫もらってくれると言われて見に行ったときのことだ。
その子猫は口いっぱいに食べ物を入れて
その顔は冬前にエサをかき集めているリスみたいになっていた。
かわいいと、旭はその子を持ち上げて
この子がいい、リスちゃんとチューをした。
旭はもう中学生だった。
旭にとってリスは年下の弟だった。
3人の姉にしごかれて、初めて旭に下ができたのだ。
守ってやらなければと常々思った。
その感情が直子といるとよく起こった。
直子に聞いてみた。
さっき、どうしてパパって言ったの?
パパってなに?
知らないよ、ナオが言ったんだ。
眉をよせて考えていたけど、
聞き違いじゃない?が返事だった。
ふーん、そう聞こえたけど。
直子の家では子供は5人もいたけど、
女の子は直子だけだったから
父親は直子を溺愛した。
でも溺愛したと思っていない父親、
溺愛されたと思っていない直子。
旭は偶然に街中で出会った母親に直子を紹介した。
でも、直子の家族には会ったことがない。
直子は東京生まれで東京育ち。
就職して初めて大阪に行った。
大阪は居心地よかった。
少なくても旅行で行った京都よりサンパだと
直子は思っていた。
大阪人って言いたいことを口に出すと思った。
直子はアメリカに留学したから、
沈黙はちっとも金ではなかった。