おじいさんの器
アメリカ民話
年老いて、妻に先立たれたおじいさんは、長男とその嫁と四歳の坊やと一緒に暮らしていた。
おじいさんの耳は大分遠くなり、腕も細り、食べる時にはスプーンを持つ手が震え、スープやソースをこぼすことがあった。
そんな時、息子と嫁はひどく怒り、おじいさんを叱るのだ。
「テーブルクロスが汚れるじゃないか」
「あたしの仕事を増やさないでちょうだい」
ある晩、おじいさんがいつものように食卓に着こうとしたら、そこには自分の椅子がなく、息子に「これからは特別席で食べてもらうんだ」と言われた。
そして、台所の隅の、木箱の上に座らされ、嫁は今までの磁器のものではなく、粗末な土器のボウルにおじいさんのスープを注いだ。
「どうせこぼすから」と量を少なくして。
毎晩そんな「特別席」でひとり食べて、あるときおじいさんは手が滑り、ボウルを落としてしまった。ガシャンと割れて、息子と嫁はまた激しい剣幕で怒り、それからもっと粗末な、木の桶みたいな器で、おじいさんに食事を出すことにした。
ある朝、裏の家畜小屋から、鋸の音が聞こえ、息子と嫁が見に行くと、坊やが丸太を切ろうとしていた。
「どうしたの」
「桶を作るんだ。豚の餌を入れるみたいなのを」
「だれのために」
「父さんと母さんが歳をとったら、ぼくはこれで食べさせてあげるからね」
ふたりはハッと目覚め、おじいさんに伏して謝り、その日を境に家族の一員として大事にするようになった。
皆同じ食卓で、同じ器で。
アメリカ民話
年老いて、妻に先立たれたおじいさんは、長男とその嫁と四歳の坊やと一緒に暮らしていた。
おじいさんの耳は大分遠くなり、腕も細り、食べる時にはスプーンを持つ手が震え、スープやソースをこぼすことがあった。
そんな時、息子と嫁はひどく怒り、おじいさんを叱るのだ。
「テーブルクロスが汚れるじゃないか」
「あたしの仕事を増やさないでちょうだい」
ある晩、おじいさんがいつものように食卓に着こうとしたら、そこには自分の椅子がなく、息子に「これからは特別席で食べてもらうんだ」と言われた。
そして、台所の隅の、木箱の上に座らされ、嫁は今までの磁器のものではなく、粗末な土器のボウルにおじいさんのスープを注いだ。
「どうせこぼすから」と量を少なくして。
毎晩そんな「特別席」でひとり食べて、あるときおじいさんは手が滑り、ボウルを落としてしまった。ガシャンと割れて、息子と嫁はまた激しい剣幕で怒り、それからもっと粗末な、木の桶みたいな器で、おじいさんに食事を出すことにした。
ある朝、裏の家畜小屋から、鋸の音が聞こえ、息子と嫁が見に行くと、坊やが丸太を切ろうとしていた。
「どうしたの」
「桶を作るんだ。豚の餌を入れるみたいなのを」
「だれのために」
「父さんと母さんが歳をとったら、ぼくはこれで食べさせてあげるからね」
ふたりはハッと目覚め、おじいさんに伏して謝り、その日を境に家族の一員として大事にするようになった。
皆同じ食卓で、同じ器で。