<共謀罪法>成立 権力こそ監視対象
2017年6月16日 毎日ジャーナリズム
「密告頼み」再来懸念 横浜事件被害者の妻
「共謀罪」の成立要件を改めたテロ等準備罪を創設する改正組織犯罪処罰法が15日早朝、成立し、7月中に施行されることになった。「テロや犯罪防止に必要」「内心の自由を侵害する」--。識者の評価も割れたままだが、成立を急いだ政府・与党のやり方には疑問が広がっている。
「想像していたより早く結論が出てしまったが、失望してはいられない。権力を監視し続ける必要がある」。戦時下最大の言論弾圧とされる「横浜事件」で逮捕され、戦後は再審請求に取り組んだ木村亨さん(1998年に82歳で死去)の妻まきさん(68)は、「共謀罪」法(改正組織犯罪処罰法)の成立に語気を強めた。
戦時中の42~45年、編集者や学者ら約60人が「共産主義を宣伝した」などとする治安維持法違反容疑で神奈川県警に次々と逮捕された。雑誌編集者だった木村さんも、温泉旅館での知人の出版記念会に出席したことで「共産党再建を謀議した」として43年に逮捕された。終戦直後、形だけの裁判で有罪が確定した。
木村さんは後に自著で、特高警察から竹刀やこん棒で殴られたと証言。まきさんは「同じ獄中にいても、病院で手当てを受けられる人と受けられない人で差別された。互いに『あいつはうその自白をしたんじゃないか』などと疑心暗鬼になり、人間関係が壊れていったようだ」と話す。
戦時中の治安維持法と現在の「共謀罪」を比較することには、時代背景が違うとの批判もある。だが、まきさんは「内心のことが処罰対象になると、(捜査機関が)密告頼みになる点は同じ。密告は社会の萎縮を招く」と危惧する。
木村さんは戦後、編集者仲間らと元特高警官を刑事告発し、3人の有罪を確定させた。「権力は監視されるものではなく、私たちが監視するもの」。まきさんは夫の思いを、今こそ多くの人に伝えたいと考える。成立しても「共謀罪」の行方を厳しい目で見ていくつもりだ。【伊藤直孝】
もう一つ忘れてはならないのがマスメディアの監視だ。