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児童養護施設長殺害事件

2019年02月26日 | 事件

容疑者はネットカフェ難民!?ー児童養護施設出身者への支援とネットカフェ難民支援の強化へー

渋谷区児童養護施設長殺害事件

昨日、目を疑うような衝撃的な報道が入ってきた。

児童養護施設長が元利用者の容疑者に殺害されたという事件である。

改めて同じ福祉専門職として施設長に敬意を表し、ご冥福を祈念する。

彼の死を社会に活かすためにも事件の状況からできることを考えていきたい。

今日になって以下のような容疑者の生活環境などが少しずつ明らかになってきた。

その後の捜査関係者への取材で、田原容疑者は「ネットカフェを転々としていた。包丁は2、3週間前に埼玉の大宮の店で買った」と供述していることがわかりました。田原容疑者は去年9月まではアパートに暮らしていたということですが、家賃を滞納して退去したとみられています。

出典:児童養護施設長死亡、元入所者の男「ネットカフェを転々と」(TBS)

アパート家賃滞納から退去し、すでに定住する住居はなく、ネットカフェを転々としており、児童養護施設出身者であるということだ。

誤解しないでもらいたいが、ネットカフェ生活者、ネットカフェ難民、児童養護施設出身者というカテゴリーが危険なわけではない

生活困窮者の個別的な状況に対応できていない社会に原因を問わなければならない事件であろう。

児童養護施設退所者への支援強化を

児童養護施設出身者は大きなハンデを背負って社会に出ていくことがすでに知られている。

東京都「児童養護施設等退所者の実態調査結果」(2017)から少し実態を知ってほしい。

児童養護施設出身者等の現在の居住環境は「民間の賃貸住宅(民間アパート等)」が 36.7%と最も高い。

今回も家賃滞納ゆえに退去してネットカフェを転々としているが、家賃負担に耐えられなくなる事例には事欠かない。

そして「 同居の家族はいない」割合が58.6%と過半数であり、家族や親族の支援を受けることが難しいことも理解できる。

出身家庭に依存しながら暮らしている10代後半~20代前半の若者が多いなか、誰にも依存せずに生きていくことは大変である。

さらに医療機関や相談機関を利用している者のうち、心療内科が24.0%、精神神経科22.1%と割合が高く、メンタル面での課題を抱えている者も多い。もともと虐待経験もあれば、精神面に与える「負の影響」は生涯にわたって続くことも予想される。

そして、後述するように、将来に対する不安が日常的にあり、頼れる親族がいない状況では心身の疲労も激しい。

現在の仕事の業種は「商業・サービス業」の割合が最も高く46.0%、次いで「医療・福祉関係」が 12.7%である。

以下は回答があった業種・仕事の一例だ。

・足場の組み立て鉄骨建て ・アクセサリー卸し・プールの監視アシスタント・高齢者の世話・カラオケ店の接客・居酒屋ホール・ガスメーターの取り替え・ガラス瓶に焼き付け加工・携帯ショップ販売・食材の下ごしらえ・漫画アシスタント・児童デイサービス・医療法人の栄養管理・カフェ店員、パチンコ店員・自動車教習所教官

その雇用形態については、「正規雇用(正社員) 」の割合は 45.2%となっている。「派遣・契約社員」(12.1%)と「パート・アルバイト」(34.7%)の非正規雇用の割合は合わせて 46.8%となっている。

約半数は非正規雇用で働いている。そのうえ業種も一般的に見れば、業界全体が低賃金・長時間労働を強いて、離職率も高い、いわゆるブラック企業と指摘されるものも散見される。

「月収(手取り)はどのくらいですか」と聞いたところ、15万円未満が 52.5%、15万円~25万円が 39.1%、25万円以上が 8.4%となっている。大半は手取り収入が15万円未満であり、家賃を支払えば生活のゆとりはほとんどないことも理解できる。

今回のような児童養護施設出身者のホームレス化、ネットカフェ難民化は容易に起こりうるとみた方が自然であろう。

前述したとおり、非正規雇用の多さも深刻な問題である。そもそも賃金だけで暮らすことは無理難題だと言ってもいい。

9割近い児童養護施設等退所者が必死にフルタイムで働いたとしてもワーキングプアに陥っている姿が見えてくる。

彼らの最終学歴は「中学校」が 18.7% 、「大学」が 3.2%である。「高等学校」は 61.2%、「専門学校」は 13.3%となっている(※在学中除く)。

大学全入時代だと言われているが、相変わらず低所得世帯の子どもや彼らのような存在には広く大学進学の門戸は開かれていない

大学学費の高騰、在学中の生活費の工面、アルバイトと学業の両立など進学を阻む壁が立ちはだかるし、大学卒業まで持ちこたえられない中退者も多く存在している。

そして「現在困っていること」について、割合が最も高いのは「生活全般の不安や将来の不安について」で 51.5%、次いで「現在の仕事に関すること」が 37.4%となっている。

約半数は現在も何らかの生活不安を抱えながら暮らしているし、仕事や収入に関しても悩みを抱えていることが理解できる。

困った際の相談先は「施設の職員」の割合が最も高く 32.7%、 次いで「その他の友人」が 28.7%、「学校の友人・先輩」が 24.4%となっている。

今回は容疑者が出身の児童養護施設での事件である。

継続して児童養護施設退所者への相談支援をどの施設でも献身的に行っているが、施設職員の人員配置や労働環境も十分ではなく、支援現場には限界があることも確かだ。

おおむね児童養護施設などを退所した若者たちは支援が十分ではなく、生活困窮に至りやすい。

欧州などのように、住宅手当を支給したり、学費無償化にするなど公的支援も弱い。

この社会構造を変えなければ苦しむ者たちはこれからも後を絶たない

ネットカフェ難民を防犯対象から支援対象へ

先日、最近ホームレスを見かけることが少ない理由ー見えにくい住居不安定者の実態ーを配信して、生活困窮者がネットカフェに定住している状況をお伝えした。

生活に不安を抱え、ネットカフェを転々としている生活困窮者は東京都内だけで1日あたり約4,000人いるといわれている。

しかし、その実態はブラックボックスであり、政府や各自治体とも十分な調査がされていない

これまでネットカフェ利用者に対しては、防犯の観点から身元確認ができる書類の提示や利用者登録、個人情報の管理などを進めてきている。

しかし、本来おこなうべきことは彼らを防犯対象ではなく、支援対象者として定め、必要に応じて対応していくことではないだろうか。

僕が所属しているNPO法人ほっとプラスでも、いわゆるネットカフェ難民への相談支援活動を続けている。

もしネットカフェでこの情報を見ていて困っている方は気軽に連絡してほしい。できることがあるはずだ。

特定非営利活動法人ほっとプラス

〒337-0017 埼玉県さいたま市見沼区風渡野359-3タウンコート七里1階

tel:048-687-0920 fax:048-792-0159

相談フォーム http://www.hotplus.or.jp/consult

さらにネットカフェ事業者は、ぜひNPOや公的機関と連携して、ネットカフェで暮らすことを余儀なくされている利用者への相談支援活動に歩みを進めてほしい。

近年では性風俗店での相談支援活動など、従来は連携できなかった産業での取り組みが注目されている。

本事件を契機に児童養護施設出身者への支援強化、ネットカフェ難民の調査・支援に向けた一歩が進むことを期待しているし、引き続き率先して取り組んでいきたい。


藤田孝典 NPOほっとプラス代表理事 聖学院大学人間福祉学部客員准教授

1982年生まれ。埼玉県越谷市在住。社会福祉士。首都圏で生活困窮者支援を行うソーシャルワーカー。生活保護や生活困窮者支援の在り方に関する活動と提言を行う。NPO法人ほっとプラス代表理事。聖学院大学客員准教授(公的扶助論など)。反貧困ネットワーク埼玉代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。元・厚生労働省社会保障審議会特別部会委員(生活困窮者自立支援法)。著書に『貧困クライシス』(毎日新聞出版 2017)『貧困世代』(講談社 2016)『下流老人』(朝日新聞出版 2015)『ひとりも殺させない』(堀之内出版 2013)共著に『知りたい!ソーシャルワーカーの仕事』(岩波書店 2015)など多数。

 隣との境界に植えられた栗の木。栗の木の右側がわたしの借りている土地。太い枝が越境してしまい、隣からクレームが来たので、木登りして手鋸で切ったもの。切り落とした枝の後始末がまた大変。