今まで以上に踏み込んだその内容とは
5月30日、名古屋地裁。「結婚の平等」を求める性的マイノリティの人々が国を相手取り起こした裁判。西村修裁判長が判決の言い渡しを始めると、廷内で驚きと安堵、緊張の空気が同時に走った。
どこからか、すすり泣きが聞こえた。西村裁判長が続いて憲法14条1項について語ると、今度はどよめきが広がった。
「憲法24条2項に違反すると同時に、憲法14条1項にも違反する」
画期的な判決の言い渡しが終わると、法廷に拍手が響いた。
「結婚の自由をすべての人に」と呼ばれるこの裁判では、30人以上の性的マイノリティ当事者が全国6つの地裁・高裁で国を提訴している。
これまでで4件の判決のうち、名古屋地裁での判決は北海道、東京に次いで3件目となる違憲判決となった。さらに、いまの結婚制度が個人の尊厳に立脚した家族法制定を求める憲法24条2項と、法の下の平等を定める憲法14条1項に同時に違反すると判断されたのは、今回が初めてだ。
なぜ、このような判決が出たのか。原告や弁護団、支援者らはどう受け止めたのか。
憲法24条2項違反とした理由
名古屋判決はなぜ、同性カップルの結婚が認められないことを憲法24条2項違反としたのか。判決の中で次のように指摘した。
・結婚は、国がカップルの関係を公証(公に証明)して保護し、社会的な承認を得るための有力な手段。それにも関わらず、同性カップルは、そういった重要な人格的利益を享受することから一切排除されている
・結婚の意義は、単に子どもを産み育てることだけではなく、親密な関係に基づき永続性をもった生活共同体を構成すること。その実態において、同性カップルと異性カップルは何も変わらない
・法律婚制度から同性愛者を排除することは異性カップルと同性カップルの間に大きな格差を生じさせている。それに対する何の手当もないというのは合理性があるとは言い難く、もはや無視できない状況だ
・パートナーシップ制度が増加の一途を辿っているが、弊害が生じたという証拠はない。それを考えれば同性カップルが結婚制度を使えるようにしても国民が被る具体的な不利益は想定し難い
・同性カップルの結婚に反対する者もいる。しかし伝統的な家族間を重視する国民と共存する道を探ることはできるはずだ
・人格的利益を受けられない当事者の数は累計すると膨大な数になる
名古屋地裁はこういった点を考慮した上で、以下のように結論づけた。
「法律婚の制度からは重大な人格的利益を得られるが、同性カップルは一切排除されている」
「その状況が放置されていることは『婚姻や家族に関する法律は個人の尊厳に基づいて作らなければいけない』と要請する憲法24条2項に違反している」
原告弁護団の水谷陽子弁護士は、判決の多くの部分で原告側の訴えが認められた、と判決後の記者会見で説明した。
「私たちは裁判で『同性カップルを婚姻制度から排除することは、“社会や国から認められていない存在である”いわば“二級市民である”というスティグマを与えている』と訴えてきました。裁判所が婚姻制度の利用が精神的心理的な効果をもたらすことを指摘したのは、その主張をきちんと受け止めたからこそです」
「他にも、同性カップルの生活実態は異性カップルと何も変わらず、法的保護を受けるに値すると訴えてきました。裁判所がそれをはっきり認めてくれたのは重要な点です」
憲法14条1項違反とした理由
水谷弁護士はさらに、こう語った。「(判決で裁判長は)国が主張していることを真っ向からぶった切ることを書いてくれた」
国は裁判の中で「異性愛者も同性愛者も、異性とは結婚できる。だから同性カップルの結婚を認めないことは性的指向に基づく差別にはあたらない」と主張してきた。
しかし名古屋での判決は、この主張を「性的指向が向き合う者同士の婚姻をもって初めて、本質を伴った婚姻といえる」とはっきり否定。
水谷弁護士は「判決は、婚姻とは性的指向が向き合う者同士で真摯な関係を営むということなんだ、という当たり前のことをきちんと指摘してくれました」と話す。
「その上で、同性カップルの結婚が認められないのは、性的指向という自ら選択、修正する余地がない事柄での別違取り扱いにほかならない。憲法24条2項と同様に正当化する理由はないとして、憲法14条1項違反を認めました」
憲法24条1項違反は認められず
一方で、今回の判決は婚姻の自由を定めた憲法24条1項の侵害までは認めなかった。
その理由を「憲法が作られた当時、結婚は男女の関係を承認するためのものと捉えられていた。その後社会情勢が変化していることを考慮しても、憲法24条1項が『異性カップルに認めている法律婚を、同性カップルにも認めよ』と要請しているとまでは言えない」と説明している。
それは、判決が「憲法24条1項は、同性カップルの結婚を禁止してはいない」とした点だ。
「今もまだ、憲法24条1項が同性同士の婚姻を禁止しているのではないかという説を唱える人がいますが、判決は禁止しているわけではないということをはっきり明言し、誤解を否定しました」
損害賠償は「もう少し踏み込めた」
原告は、国が違憲状態を正すための法改正をしてこなかったことで、望む相手との結婚を妨げられ精神的損害を被ったとして損害賠償を求めていた。
しかし、この請求も「結婚の平等の必要性が認識されたのは比較的最近のことだから」という理由で認められなかった。
この点について、愛知大学法学部の大野友也教授は「もう少し踏み込んで認めても良かったのでは」と話す。
世界では、2001年にオランダで初めて婚姻の平等が認められ、これまでに34の国や地域に広がった。
大野氏は「一般の人たちが認識できなかったのはともかく、国会議員という国民を代表する人たちが、一般国民と同じ認識であってはいけないと思う」と話す。
大野氏がその根拠として挙げたのが、「動くゲイとレズビアンの会」が、施設利用を拒否した東京都を提訴した「府中青年の家」裁判の高裁判決(1997年)だ。
「この裁判では、高裁が、東京都教育委員会が一般の人と同じ感覚ではダメだ、 教育に携わる人たちであればなおさら、世界の動向や人権問題に意識を向け、きめ細かな対応していかなければいけないと指摘しました」
「それを考えれば、府中青年の家の訴訟からも20年以上経っているにも関わらず国会議員が今なお同性婚の必要性を充分認識していなかった、というのはさすがに怠慢ではなかろうかと考えています」
30日の判決や記者会見には、訴訟を支援してきた性的マイノリティの当事者やアライなど、多くの支援者も集まった。
原告の鷹見彰一さん(仮名)は、法廷で裁判長の「違憲」という言葉を聞いて涙ぐんだ。その後の記者会見で「自分だけではなく、みんなで一緒に闘ってきた裁判だ」と感謝の言葉を述べた。
他地域での訴訟と違い、名古屋の原告は鷹見さんと大野利政さん(仮名)のカップル1組だけだ。鷹見さんは「裁判では私はトランスジェンダーやレズビアンとしての話ができなかったが、他の当事者が意見陳述のための取材や、企業への働きかけなどで協力してくれました」と振り返った。
また、鷹見さんによると、裁判の非公開協議で裁判長から「原告は自分たちのためだけではなくて、あらゆる人を代表して闘っているので、敬意を払う必要がある」という趣旨の発言があった。鷹見さんは「判決にその言葉を反映されていて嬉しかった」とも述べた。
一方で、提訴から4年の間に「原告を辞めたい」と思うほどの重荷を感じることもあったものの、続けてこられたのはそういった仲間や弁護団に加え、SNSで見てくれる当事者やその家族、アライの人たちがいてくれたおかげだという。
記者会見に出席できなかったパートナーの大野さんも「世界的にも、大きく出遅れている日本ですが、世論が大きく変わっている今、この判決が後押しとなり、ほんの少しですが、スタートラインが見えて来たように感じます」と鷹見さんを通してコメントした。
愛知訴訟は今までで一番原告に寄り添った判決になったが、鷹見さんは結婚の平等実現までの道のりはまだ遠いと感じている。「国会議員に訴えかけるなど、国が動くためにできることをもっと頑張っていきたい」とも述べた。
園のようす。
鉄線、黄菖蒲が咲き始め