元性産業当事者に聞く
「しんぶん赤旗」
(上)2022年2月1日
“買春は経済的暴力と同じ”
「金を払ったんだから、何をしてもいいだろ」―。元性産業当事者のAさん(30代)が買春男性から言われた言葉です。Aさんは当時の体験を振り返り、性産業の凄惨(せいさん)な実態を語りました。
「業者の車で客の自宅近くまで送られて、あとは自己責任。密室で叫んで抵抗すれば何をされるか分からない。相手の機嫌を損ねないように要求に応じて、やり過ごした。首を絞められて殺されかけたこともある」。このように、Aさんは業者が女性を男性客の自宅やホテルに派遣する「デリヘル」の経験について話しました。
「裏オプション」と称した性交の強要や、所属店舗の従業員や客の男性からストーカー被害にもあいました。「いまも思い出して体が動かない。恐怖が消えることはない」
収入に直結 あらがえず
Aさんが所属した「性風俗業」の店舗は、求人で「誰にでもできる仕事」などとうたっていました。しかし店側は客への「アンケート」などで女性の「質」や「献身度」、「コストパフォーマンス」を評価。評価が悪ければ「仕事が減らされる場合もある。収入に直結するから、店の言いなりになるしかなかった」と言います。
理不尽な客に嫌悪感を覚えましたが、「嫌悪感を態度に出せばクレームが来て仕事をもらえなくなるから、笑顔で耐えるしかなかった。店のやり方に不満があっても個人情報を握られていてあらがえない」。
Aさんは、「性産業で女性はつねに男性の性的興奮を喚起できるか否かで評価されている」と指摘します。「生存するために、その環境に慣れさせられていく。いかに店や客の男性に気に入られるか、ということだけを考えるようになっていた」と言います。
人の尊厳を蹂躙する行為
Aさんは「性風俗業」が扱う「性交類似行為」は、「人の尊厳を蹂躙(じゅうりん)する行為」だと言います。
「性産業が女性から搾り取っているのは、相手が自分の尊厳を蹂躙してもいい権利。性を買うことは、経済的な力で暴力をふるっているのと同じ」
(下)2022年2月2日
見えない男性の責任
Aさんは「みんな追い詰められて日銭を稼ぐことに必死で、それでも生きている。女性がお金を必要としている限り足元を見られる」と言い、「希望を持ちにくく、報われにくい社会で、『こうなったのは仕方がない』と“あきらめ”を刷り込まれている」と性産業当事者の実情を指摘します。
抵抗する力奪う仕組み
また、「性産業の世界で視野狭窄(きょうさく)に陥り、理不尽な状況に抵抗する力を奪われている。経済的に余裕のない人ほど判断力が弱まっていて短絡的な思考に陥りやすく、障害のある人など被害に遭いやすい」と言います。
性産業を辞めたとしても、別の仕事先での「セクハラ」被害や低賃金での困窮など、戻らざるを得ないという人が多いのが現状だと言います。
それにもかかわらず「あの人は好きでやっている」などという論調が社会に跋扈(ばっこ)しているとAさんは厳しく批判します。「女性の自己決定や自己責任に帰結させることで、搾取する業者や買う男性の問題が不可視化されている」と指摘。「性産業は、経済力で支配的地位にいる男性が女性を買うことで初めて成立するマーケット(市場)なのに、経済力を奪われている女性の側だけが責任を問われるのは、本当におかしい」
「風営法」が認める「性風俗業」は届け出数で3万2066件(2020年12月)に上り、前年比で増加。「デリヘル」など「無店舗型」は全体の68%を占めています。
買春を許容する社会でいいのか、政治の責任が問われているとAさんは力を込めます。
「今の社会制度では、生きづらさや困難を抱える女性が選択肢を奪われて性産業に吸収されてしまう。社会的な“強制”になっている」と指摘し、生活保護制度の拡充や賃金格差の是正など女性が一人でも生きていけるだけの賃金、収入が必要だと言います。
女性の人権 政治が守れ
また、政治が、若年女性とともに中高年女性の貧困と生活再建に真剣に取り組むべきだと訴えます。「性産業への在歴が長期化すればするほど、自力で脱出することは困難になる。売春防止法の『保護更生』のような、尊厳をさらにそぐ政策ではなく、本当に女性の人権を守る立場での支援が必要です」(つづく)
昨夜から断続的に降り続いている。今朝の雪かきもかなりの量になるが比較的軽いので助かる。