AERAdot 2025/03/04
2月18日、第7次エネルギー基本計画が閣議決定された。最大のポイントは「可能な限り原発依存度を低減する」というこれまでの大方針を放棄して、原発を「最大限活用する」という正反対の方針に切り替え、廃炉した原発基数分の建て替えをこれまでのように廃炉した原発の敷地内に限らず、同じ電力会社の別の原発敷地内でもできるようにしたことだ。
そもそも原発はあってはならない電源である。その理由はいくつもある。
第一に、日本に建設されている原発は安全ではない。「日本に」と限定するのは、日本は他の原発立地国と異なり、世界で最も多くの巨大地震が生じる地域の一つにあるからだ。他の国と異なり、特に厳格な耐震性が求められることを意味する。
しかし、実際には、原発ごとに定められた基準地震動(その数値が示す強度の地震までは耐えられるという数字。それ以上の地震が起きることはないとされている)を上回る強い地震に何回も見舞われている。
2011年の東日本大震災における最大の揺れは、2933ガルであった。日本で観測された過去最大の揺れは、08年の岩手宮城内陸地震の4022ガルである。民間のハウスメーカーは、「耐震住宅」の販売に力を入れている。そこで採用されている耐震設計基準は、例えば、三井ホームで5115ガル、住友林業で3406ガルである。
それを知れば、原発が採用する基準地震動はこれらを超えると考えるのが当然だが、実際には、稼働中の原発の中で最も高い東北電力の女川原発2号機でも、たったの1000ガルである。民間耐震住宅の足元にも及ばない。
それでも、電力会社は、自社の原発の敷地の中だけは、決して強大な揺れは生じないと言い続けている。しかし、どこでどれだけの強さの地震が起きるかについて予見できないのに、どうして、自社の敷地内だけは大きな揺れが来ないと予知できるのだろうか。この一事だけでも、日本の原発が危ないことは明らかだ。
日本の原発について、もう一つの問題は、事故が起きた場合の損害賠償額が異常に低く設定されていることだ。
国が提供する原発事故に備える損害賠償責任保険のようなものがあるが、その限度額は原発1基あたりわずか1200億円。一度事故が起きれば、数十兆円単位のコストがかかることは、東京電力福島第一原発の事故で実証済みだが、それより2桁小さい。
また、昨年の能登半島地震でも露呈したが、原発の事故に備えた避難計画では、複合災害(原発事故と同時に地震や風雪水害が生じること)が考慮されていない。実際には実行不可能な計画になっているのだ。そうなる原因は、避難計画が原子力規制委員会の審査の対象外だからだ。
原発は「あってはならない電源」
そして、使用済み核燃料や廃炉後の放射性廃棄物等の最終処分の場所や方法について、まだ何も決まっておらず、いつ決まるかも全く目処が立たないという大問題もある。「トイレなきマンション」と揶揄されるが、笑い事ではない。
しかも、原発は再生可能エネルギーとは正反対で、時間とともにコストが上がる。すでに、他のどの電源に比べても高いことは世界共通の認識だ。
これから有望だと言われているSMR(小型モジュール炉)でも当初の予想は大きく外れ、経済的にペイしないことがはっきりした。米国では、すでに計画を中止した企業も出たが、それでもこれを導入したい経済産業省は、原発のコストが割高になる分を電力料金に上乗せする仕組みを作ろうと画策している。
以上のとおり、普通に考えると、原発は使えない電源であるだけでなく、あってはならない電源であることははっきりしている。
これらのことは言い尽くされた感があるが、今回はそうした原発についてのこれまでの議論を離れて、少し別の視点から見た原発推進論の「愚かさ」について指摘してみたい。
自民党の保守派は、「台湾や日本は明日のウクライナだ!」と声高に叫んでいる。ロシアが武力でウクライナを侵略し、領土を奪った。それが今や正当化されそうになっている。
仮に台湾有事が起きた場合、中国は台湾を攻撃し、沖縄も攻撃対象になる。さらには日本本土も危ない。
それが彼らの主張だ。愚かな戦争プロパガンダでしかないが、もし仮にそれが正しいのであれば、私たちは、ウクライナで起きたことを検証して教訓を得るべきだ。
その意味で参考になる記事が、2月26日の日本経済新聞朝刊に出ていた。その見出しには、「ウクライナ 発電能力分散 再エネ加速、攻撃被害最小化」とある。
その要旨は、「ウクライナが発電システムを再生可能エネルギーや蓄電池を組み合わせた分散型に転換している」ということだ。ウクライナでは、24年夏までに、発電能力ベースで火力の9割以上、水力の6割が破壊された。「再エネを重視するのは脱炭素が狙いではない。それぞれが離れて設置されるため、攻撃の的を絞られにくく、修理しやすい利点が大きい」からだという。同国最大の国営電力会社のCEOは、「大規模なミサイル攻撃から電力システムを守る唯一の持続可能な方法は発電能力を分散させることだ」と断言する。
この話は、火力や水力など大型の発電所にも当てはまるが、原発にも当然当てはまる。「明日のウクライナ」になりたくなければ、同国が得た貴重な教訓をなぜ生かさないのか。
ウクライナにある欧州最大のザポリージャ原発がロシアに攻撃されたという情報が流れて、世界中が肝を冷やしたことも思い出すべきだ。原発を攻撃されることは、核攻撃されることと同じリスクがあることもまた我々は思い知らされた。
戦争になれば軍事基地やレーダー施設は最初に狙われる。日本で言えば、米軍基地や自衛隊の基地、最近立て続けに設置された沖縄・奄美地方のレーダー施設は一番危険である。武器工場なども攻撃対象になるはずだ。その次に狙われやすいのが発電所などの重要なインフラ設備である。
国際法上原発については、被害の甚大性の観点から、一般の民間施設以上に特別な保護を与えることになっている(ジュネーブ諸条約追加議定書第56条)が、それでも、原発が軍事目的に利用されているとして攻撃される可能性は残る。相手がロシアや北朝鮮のように国際法を破ることをためらわない無法国家であるならなおさらだ。しかも、両国はともに、自国を守るためとは言いながらも、核兵器の使用を示唆している。こうしたことを日本の安全保障環境が著しく危険な状況になっていると強調する自民党右派はどう考えているのか。
彼らが言うとおりいつ戦争が起きるかわからないのだとすれば、原発に対するミサイルなどによる攻撃を100%防御する対策を講じることが、何よりも優先すべき課題になるはずだ。原発への攻撃は、他のどの対象への攻撃よりも被害が甚大で、まさに日本が崩壊するリスクさえあるからだ。
では、原発への攻撃を100%確実に防ぐ方法とは何か。
瞬時に全ての原発を廃炉にできれば良いが、それは物理的に不可能。だが、被害を大きく減少させる方法はある。それは、原発の稼働をすぐに止めて、使用済み核燃料を現在のようにほぼ無防備な使用済み核燃料プールに置き続けるのではなく、乾式貯蔵を含めた方法で地下深い貯蔵場所で保管することだ。これにより、大規模放射能汚染は防ぐことができる。
これくらいのことは、私がここに書くまでもなく、中学生でも考えつくことだ。
原発を新たにつくろうというのがいかに愚かなことかは、ウクライナを見ることによって、より明らかになったと言って良いだろう。
能天気な自民党右派と国民民主党
しかし、こんなに簡単なこともわからない人々がいる。それが自民党右派や国民民主党などにいる能天気な原発推進論者である。
先月アメリカにいたときに聞いた言葉だが、まさに「a fool’s folly」(愚か者の愚行)というのがぴったりではないか。
もう一つ違った意味でまた「a fool’s folly」だと言える話がある。それは、「生成AIの普及に伴い電力需要が急増するので、それに対応するために新たな原発をつくる」という議論だ。
確かに生成AIの普及に伴い電力需要は急増するであろう。省エネ半導体やさまざまな省エネ技術の発展もあるが、かなりの規模の需要拡大になるのは避けられない可能性が高い。
世界は今、生成AI用データセンター(DC)ブームだ。日本でも国内企業のみならず、米テック企業も含めてDC建設計画が目白押しで、そのためのファンドやREIT(不動産投資信託)の組成まで始まった。
すでに稼働中のものもあるが、今後建設される大規模なDCの稼働が集中し、大きな電力需要が生まれるのが、26~27年ごろになると予想され、電力需給は逼迫する。特に、脱炭素の要請が高まっているため、グリーン電力の確保は死活問題となる。
日本経済新聞の「社長100人アンケート」(1月9日朝刊)で政権への要望を聞いたところ、期待する政策として最も多かったのは「再生可能エネルギー拡大」だった。一方、原発新増設は要望のトップ10にも入っていない。
なぜそうなるかというと、生成AIなどによる電力需要の増大はもうすぐ目の前に迫っているのに、原発を新たにつくるとなると、完成するのは早くても15年以上先になるからだ。
原発新設は40年代の電力需要に対応するという話だが、それだけ先の話なら、コストが高い原発にかける巨額の建設費や補助金の分を洋上風力を含めた再エネの拡大に投資すれば、はるかに安全で安価な分散電源ができる。
生成AIの電力需要の爆発で今にも停電が起きるかのような騒ぎを起こし、そのために原発をつくろうというのは、はっきり言って、完全にピント外れの話なのだ。それは経済界もよく理解していることがわかる。
以上述べたとおり、原発新増設は、軍事・安全保障面から見ても、また、産業・エネルギー政策面から見ても愚行でしかない。「a fool’s double folly」というところか。
3.11を前に「愚か者の二重の愚行は止めろ!」と強く訴えたい。
すでに、プロブスカイト太陽電池は発売を開始している。
プロペラではない風力発電も開発されている。
海流・水流、地熱、温度差などを利用した発電も実用化されている。
こんな危ないものを列島に並べて何が防衛費だ!
国民の命と生活を守ることこそ「防衛」の柱であろう。
無事に退院されて、良かったです。
無理をされずにお過ごしください!
でも、この十数年間の嫌な思いから逃れられるのならと藁にも縋る思いなのです。