志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
あまりに傲慢であまりに愚かと言うべきだろう。ロシアのプーチン大統領は、24日、対ウクライナ軍事作戦を決定してしまった。ウクライナ政府軍と親ロシア派が衝突を繰り返しているウクライナ東部のみならず、同国首都キエフ近郊もロシア軍によって攻撃されるなど、事態は全面戦争に発展しつつある。ロシアの圧倒的な戦力ならば、軍事的に勝利することも容易、プーチン大統領はそう考えているのだろう。だが、露骨な「力による現状変更」は、国際社会のプーチン大統領への不信感を決定的にした。それでなくても地球温暖化防止のため、脱炭素社会を目指す欧州は、ロシアの天然ガスや石油への依存を見直し、それはプーチン政権の終わりの始まりとなるのだろう。
◯ロシアのガスへの依存、欧州が見直しへ
ウクライナ情勢が緊迫する中、ここ最近、欧州で活発に論議されていたのが、エネルギー受給における「脱ロシア依存」だ。ロシアは豊富な地下資源を誇り、とりわけ天然ガスの埋蔵量・生産量ともに世界最大で、石油も原油生産量で米国やサウジアラビアに次ぐ第3位(2019年)。そして、欧州各国は、EU(欧州連合)全体として、発電や暖房等のための天然ガス需要の約4割をロシアに依存してきたのである。その気になれば、ロシアは欧州各国をエネルギー危機に陥らせることもできる―それが、プーチン大統領の強気さの要因の一つであることは間違いない。実際、ドイツがウクライナ情勢を鑑み、ロシアからの天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の計画を停止したことについて、プーチン大統領の側近でロシア前首相のメドベージェフ氏は、「よろしい。EUは法外な価格で天然ガスを買うことになるだろう」と自身のツイッターに投稿しているのだ。
こうした、天然ガスを外交・安全保障上の「武器」として使ってくるロシアにエネルギーを依存してきたことへの反省の弁がEU内であがってきている。例えば、EU委員会で温暖化対策を担当するフランス・ティメルマンス副委員長は、今年1月、欧州各国の環境大臣らの会合で「プーチンの懐を肥やしたくないのなら、(太陽光や風力などの)再生可能エネルギーへの投資を迅速に行うべきだ」「人々に安定してエネルギーを供給したいのであれば、再生可能エネルギーがその答え」と語ったという(通信社「ブルームバーグ」等が報道)。
今月16日には、ウルズラ・フォン・デア・ライエンEU委員長も「EUへの液化天然ガスLNG輸出を多くの国々と協議し、今年1月の時点で120隻の船舶が膨大なLNGを欧州に運んできてくれた」「欧州全域のガスパイプラインと電力相互接続ネットワークを強化した」と、対策を行なっていることを報告した上で、「この危機からすでに得られる教訓の一つは、ロシアのガスへの依存を取り除き、再生可能エネルギー源に多額の投資を行い、エネルギー源を多様化する必要があるということだ。それは地球に優しく、私達のエネルギー安全保障のためにも良い」と強調している。さらに今月23日もノルウェーのストーレ首相との会談後「ロシアや化石燃料にエネルギーを依存するのをやめ、再生可能エネルギーへの移行をすすめなくてはいけない」と語っている。
◯脱石炭だけでなく脱ガス、欧州の再エネ移行が加速
石炭火力発電に比べれば、天然ガス火力発電から排出されるCO2は半分程度であるため、EU各国は脱石炭をすすめる一方、天然ガス火力への依存を深めてきた。しかし、それは破局的な温暖化の進行を防ぐものではないとして、グレタ・トゥーンベリさんはじめ多くの環境活動家や気候学者らが見直しを求めてきたことなのだ。今回のウクライナへの侵攻で、欧州各国のプーチン政権下のロシアに対する不信感は決定的となり、また天然ガスや原油の供給不足や価格上昇と相まって、再生可能エネルギーの推進や省エネ化がより進むことになるだろう―そう観るのは、筆者だけではなく、米国のテレビネットワークのCNNや、著名誌『タイム』、英紙『ガーディアン』なども同様の論調で報じている。本稿のタイトルを、"真の勝者は「グレタさん」"としたのは、上述ような流れが加速するだろうからである。
◯ロシア経済に打撃
こうした、ロシアの天然ガスから再生可能エネルギーへのシフトが欧州で進むことで、プーチン政権の「武器」となっていた天然ガスは諸刃の剣として、ロシア経済を揺るがすことになる。ロシアの輸出全体の中で、以前よりは若干減少しているとは言え、EUは最も割合が大きく4割強を占める。もし、これが失われるのなら、ロシア経済にとっては大きな打撃だ。なぜならば、ロシアの政府歳入の約5割を石油・ガス関連収入が占め、文字通り国家の財政基盤であるからだ。仮に、欧州各国だけでなく、米国の呼びかけで日本や韓国、インド、トルコ等がロシアの天然ガス輸入を止めた場合は、さらにプーチン政権は苦しくなる。中国がロシアからの天然ガス輸入量を増やすかもしれないが、中国もまた脱炭素社会の実現に向け、猛烈な勢いで再生可能エネルギーを増やしている。ごく短期的ならともかく、中長期的に欧州その他の国々の穴を中国が埋められるかは、何の保証もない。また、中国に大きく依存することで、同国に経済的に支配されるリスクもある。つまり、プーチン大統領は、軍事力でウクライナを圧倒することはできるだろうが、国家戦略としては、ウクライナへ軍事侵攻した時点で、既に負け始めているとも言えるのだ。
◯日本も再エネ移行を急げ
ウクライナ危機は、日本にとっても他人事ではない。ロシア軍の侵攻開始によって、石油や天然ガスの価格は高騰し、日本経済にも悪影響が及ぶだろう。だからこそ、EUと同じく、エネルギー安全保障と脱炭素を兼ねて、再生可能エネルギー中心の社会の実現へギアを上げていくべきである。それは「力による現状変更」に対して、ただ「遺憾」の意の表明するではなく、毅然とした対応をしっかりと取るという意味においても重要なことなのだ。
最後に、これまで中東の紛争地を取材してきた者としては、流される血が一滴でも少ないうちに、一刻も早く戦争が終結することを心から祈りたい。
パレスチナやイラクなどの紛争地での現地取材、脱原発・自然エネルギー取材の他、入管による在日外国人への人権侵害、米軍基地問題や貧困・格差etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに寄稿、テレビ局に映像を提供。著書に『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共編著に『原発依存国家』(扶桑社新書)、『イラク戦争を検証するための20の論点』(合同ブックレット)など。イラク戦争の検証を求めるネットワークの事務局長。
各国の思惑が見え隠れしている。プーチンは20年に及ぶ「独裁」を継承するために、支持をつなぎとめるためにも、「民主主義」は邪魔になる。バイデンは迫る中間選挙で支持減を挽回するために。そして中国も日本も虎視眈々とこの機を逃すまいとしているようだ。これをもって軍事力強化や「敵地攻撃」、改憲などを煽るだろう。こんな時こそ冷静でなくてはならない。もう、昔のような大国による支配、軍事(力)による支配から抜け出さなければならない。「核抑止力」の弊害も明らかになった。世界から、地球上から戦争の武器をなくすことが急務だ。それが21世紀を生きる人々の新しい任務だ。
武力で言うことを聞かせる、なんて古いですね。
愚かなやり方です。
同じ人間同士として、話し合うべきです。
これに乗じて、日本が「敵基地攻撃能力」を持つことや
改憲を進めたら、怖いことになります。
一刻も早く愚かなことはやめてほしいです。