世間では病情も,病理も弁えずに,ただ嗽は“炎症”だからと, ややもすれば銀花, 連翹, 魚腥草, 白花蛇舌草等の清熱解毒剤を 大量に濫施するのを見る;
或いは咳なら陰虚だと謂い,かってに川貝、枇杷葉、沙参、麦冬等の滋潤寒凉の 品を雑投している,咳も嗽も区別しないので,数日の病が数月にも不治のまま 長引いている。
張景嶽の論治咳嗽に云わく:“表邪を治すなら, 薬は静であってはならない, 静だと邪が留連不解となり,他病を変生する。
故に寒凉収斂を忌む,いわゆる経に肺は辛を欲するとは是也。
裏証を治すには薬は動であってはならない,動だと虚火不寧となり, 燥痒はますます酷くなる,故に辛香燥熱を忌む, いわゆる辛は気を走らす,気病には辛を多食する勿れというのが是也。”
余の咳嗽診治の規律は,宣、降、潤、収の四つの治療法則である, 咳嗽の各時期における適用により,手応えが感じられるので,茲に紹介する:
1.宣法:咳嗽の多くは外邪によって引き起される。
六淫が人を襲う時は,風が先導となり,皮毛が先ず受ける,是れを表証と謂う。
皮毛は肺に応じる,故に多くは寒熱咳嗽、咽痒咽痛、咳呛頻作、痰白く少量、 舌は白苔、脈は浮滑を現す。
此の時には宣法を用いるべきである,宣とは,宣解、宣散、宣透であり,即ち在表在肺の邪を宣発すれば,肺気は暢達となり,咳嗽は止る。
常用の自擬方:鈎藤、薄荷、桑葉、菊花、前胡、白前、桔梗、杏仁、桑白皮、炙紫菀、 甘草。
胸悶痰多には +厚朴、陳皮;咽喉腫痛には +銀花、連翹;頭身痛には +荊芥、防風;痰黄には +魚腥草、黄芩。
2.降法:邪が肺衛を襲っても,宣法を用いておれば,多くは邪は解して咳は平となる。
但し亦表証が已に除かれても,咳逆が未だ止らず,甚しきときは肺脹胸満、咳嗽多痰、気急上涌、咳呛頻作、脈弦滑で有力とならば,此の時には降法が宜しい,上逆した肺気をそれで清粛下降させる,常用は五子定喘湯(蘇子・莱菔子・葶苈子・杏仁10 白芥子3)+半夏、茯苓、前胡、旋復花等で降気化痰,止咳平喘する。
若し内に停飲があって,咳喘気逆すれば苓桂朮甘湯などで温陽化飲、平衝降逆する。
3.潤法:久咳が已まず,耗気傷津すれば,燥咳無痰となり,甚しくは血絡に傷及し痰帯血絲となり,咽喉は干痛し,便干尿赤,胸脇は刺痛し,舌紅く,脈は細数となる。
これには潤法が宜しく,肺胃の津液を滋し,肺肝の邪火を清する。
常用は沙参麦冬湯、桑杏湯、清燥救肺湯等を証情の軽重に随って投ずる。
また川貝母、枇杷葉、黛蛤散等の潤燥化痰の品を加えてもよい。
若し乏力神疲を兼ね、気短不続ならば気陰両傷である,張錫純の升陥湯加沙参、麦冬、五味子、桑皮、杷葉等を用いて益気養陰,生津潤肺する。
また肝強肺燥、木火刑金の咳嗽なら,咳嗽気逆、口咽干燥、心煩易怒、胸脇刺痛、舌紅脈弦数の症が現れる,
常用には丹梔逍遥散+桑皮、地骨皮、沙参、麦冬、枇杷葉等で清金制木,潤肺寧嗽する。
4.収法:咳嗽が日久しくなり,咳をしても力が無く,浅い呼吸で短気不足する,それも労すれば劇しくなり,頭暈心悸、腰酸膝軟を伴い,咳すると遺尿し,舌淡,脈沈細となる,此れは肺気虧損,金不生水から,腎気不固,摂納無権になったのである。
此の時には収法が宜しい,肺腎耗散の真気を収斂し,納気帰元させる。
常用には百合固金湯、麦味地黄丸加生白果、益智仁、訶子肉、烏梅等とし肺腎の陰を養い耗散の気を補斂する。
若し虚極欲脱とならば独参湯を用いて,気を急挽する。
以上の四法は,順序次第があり前后を顛倒してはならない,ただはっきりと分けることはできず,時には両法を病情に合わせて用いるが,主次の区別はある,時機を掌握して,誤治しないようにしなければならない。
名老中医祝谌予经验集 より
弁証ができたら次は治法ですが、これを飛ばして選方用薬へと進むと思わぬ失敗をする事があります。日本漢方では特に抜け落ちているところです。