鈴木海花の「虫目で歩けば」

自然のディテールの美しさ、面白さを見つける「虫目」で見た、
身近な虫や植物の観察や飼育の記録。

虫と人に会いに奈良、神戸、播州赤穂へ 3日目後半

2010-10-28 12:51:00 | 日記

 

 そして、いよいよです!飼育棟へ。






わーい!
こんなに歓迎されたことって、後にも先にもないような気がする。

 

アース製薬というとゴキブリ退治の第一人者というイメージがあるので、
飼育されているのはゴキブリばかり、と思うのはまったくの間違い。
この飼育棟では、なんと
90種もの「虫」が飼育されていて、
そのお世話をしているのが有吉さんと北野さん(男性)です。


どうしてこんなに多種類の虫が飼育されているのかというと、
いつかそれが害虫として研究対象になるかも知れないから。
でも絶対害虫になりそうもない虫もたくさんいました。




蚊にもちゃんと一部屋。



キイロショウジョウバエも展示されているし、



ここには害虫っぽくない、美麗系のタマムシとかハンミョウとか。


 しかしこの場所が人の心を捉えてやまないのは、
このおふたりが単に飼育というより、
ふつうは人が嫌だと思うであろうこの仕事全体を、
独自のセンスと気概でプロデュースしているからだと思います。
もともと美術の勉強をされていた有吉さんのセンスの良さが、
そこここに感じられるのです。


  棟内は明るく広く清潔で、いったいいくつの部屋があるのか、
全部案内していただくのに
3時間くらい。
蚊、ショウジョウバエ、シロアリ、ゲジゲジといった害虫カテゴリーの虫をはじめ、
これまでじっくり見ることのなかった身近な虫の部屋が並んでいます。


各部屋にはこんな風に整然と棚が並び、
それぞれの飼育にあった特注のコンテナの中で飼育されています。






 棟内の壁にはなんと有吉さんプロデュースの、




樹脂でつくられたゴキブリ各種のアーティスティックなオブジェや、




おりがみで折った害虫も。

 



 そしてついに、来るべきときが来たのでした。


有吉さんが
2畳ほどの小部屋に私たちを招きいれました。
目の前にあるのは壁面のスクリーンだけ。





そしてスクリーンが上がる・・・・・・・。




そこはホラー映画も顔負けのインパクトをもった、
「ゴキブリ放し飼いの部屋」なのでした。すごい数でした・・・・・。



 魅入られたように、言葉少なに見つめる見学者たち。

(あえて、手振れした写真でお見せします)
 

放し飼いの部屋には50万頭いるそうですが、ここは見学のみ。
研究に使うものは他の部屋の整然と並んだコンテナのなかで育てられています。

 

 実は・・・・・恐れていたことがありました。

前回の見学で、池内さんは放し飼いの部屋に入った・・・・・・というのです。
今回も入りたいですか、というので、
もうきっぱりお断りしたのですが、
その場で断れなくなるような成り行きになったら、どうしよう、と。
でもこれは杞憂に終わって、ほっ。

 

 ゴキブリのあとは、楽しみにしていたカメムシの部屋。

(松本吏樹郎さん撮影)


カメムシは一般に油分を含んだナッツ類のエサを好むのですが、
有吉さんのカメムシの飼い方のかわいいこと!




透明のプラスチックカップの真ん中にイネ、ミカン、杉などの小枝のグリーンを配し、
まわりにストライプ模様のヒマワリの種、薄黄色のダイズ、
そしてピンクの皮付きの生落花生が入れられています。
こんなに美しい色具合でカメムシを飼っている人は他にはいないでしょう!
私もこんどマネしたい。

これはミナミアオカメムシの幼虫だったかな?体の下半分がきれいな緑色。

ここで飼われている6種類のカメムシの大半は、守衛さんが夜飛来したのを、
出勤時に有吉さんにくれたものから繁殖させたんだそうです。

 

 これだけの種類の虫(ひとが嫌がる虫も含めて)を飼育するには、
それはたいへんなご苦労があるのをインタビュー
http://spi-net.jp/hatarakimono/01/index.htmlで読みました。


でも実際に訪れたこの場所と、
そして凛とした佇まいで仕事をこなしている有吉さんにお会いしていると、
ふつう人が嫌う仕事をしている、というよりも
その有能さと「虫」への気持ち、関わり方、見せ方に
確とした美意識を持っていらっしゃることに心をつかまれます。

世界には、えっ!?女性がこんな仕事を!とびっくりするような仕事をしている
人はたくさんいるでしょう。
私が心惹かれる有吉さんのスゴサは、ゴキブリを何十万頭も飼育している、
ということではありません。
いやそれもスゴイけれども、さらにそこにご自分の価値観や美意識を
反映させている (それを受け入れている会社の懐の深さということも
あると思いますが)―という二重のスゴサなのでした。


 この日私は、赤穂から約6時間、一気に東京へ帰る予定。
後ろ髪をひかれながらも、
有吉さんはじめ、お仕事中の時間を割いて歓迎してくださった
アース製薬の方々に感謝の気持ちいっぱいでお別れし、
最寄り駅へ送ってもらいました。

 

 車からひとり降りると、そこは坂越という駅。




なんと単線!

切符を買って改札を入ったものの、単線駅初体験の私は、
えっ?!とあわててまた窓口にもどり、
JALの客室アテンダントにもなれそうな、
きりっとしたスーツ姿の女性駅員さん(若い)に
「あのー、駅はど、どこですか?」と失礼な質問を。


 小さな屋根だけの駅舎と草はらに囲まれた線路。



虫と人に会いに来た旅。
その最後に突然の贈り物のように、
こんな可愛い駅から帰路がはじまるなんて。


よく晴れた秋の日の夕暮れ、
金木犀の香りが風にのって漂う単線の駅で電車を待っている(どっちから来るのに乗ればいいんだろう?)、
これは映画で言えば旅情あふれる「泣き」のシチュエーション。
この
3日間の旅につきあってくださったみなさんや夫への感謝がこみ上げてきて・・・・
虫目がウル目になったのでした。


 有吉さん、池内さん、今度はゆっくり虫の話でお茶しましょう。

また会いにいきます!


虫と人に会いに奈良、神戸、播州赤穂へ 3日目前半

2010-10-28 12:49:11 | 日記
 

 3日目、播州赤穂の海辺に建つ鏡面のアース製薬研究所へ


 さて次は、播州赤穂です。
三宮から車で
2時間ほどかかる海辺の町、
赤穂の坂越(さこし)までなんの目的で出かけたのか?

 

ご注意:今回、世界中でもっとも嫌われモノと思われる虫が、
ちらっ、とですが登場します。
アレだけは、ちらっ、とでもゴメンよ!という方は、
今回はパスしたほうがいいかもしれません。

 

 拙著を読んで手紙をくださった方のなかに、
美術家の池内美絵さんがいました。
池内さんは、ふつうの人が「ぎょっ」とするような素材から
美しい作品を生み出す美術家ですが、
ヤスデの飼育家としても知られています。

欧米にはペットにしている人も多いヤスデ。
私が「虫」というときには、ぎりぎり範疇に入るかどうか、
という感じなのですが、生き物の好き具合が似ているということで、
池内さんと何度かやりとりをするうち、こんな話が。


 同じく拙著を読んでくださっている池内さんの知り合いに、
播州赤穂にあるアース製薬研究所で、
60万匹のゴキブリを飼育する女性―
有吉立さんという方がいる、と・・・・・・。
しかも、とても「きれい」に飼育している、と。


 ごきぶり―大キライ・・・・・でも、なんだかやけに心ひかれる話でした。
「ゴキブリ」と「きれい」という言葉がいっしょに出てくるところが。

それに有吉さんが個人的に好きなのは、カメムシなんだと
聞いて、もうやみくもに赤穂に行こう、と。
 

 この日、見学をセッティングしてくれた池内さんに加え、
博物館発行の『大阪のテントウムシ』
(すごくいい本です!テントウムシ好きは必携。通販で買えます)
をプレゼントしてくださった大阪市立自然史博物館の松本さん、
そして今では夏休みの自由研究の定番のひとつとなった
「チリモンモンスター」の生みの親であるきしわだ自然資料館の平田さん、
アーティストの宮本さんという豪華メンバーで赤穂へ向かいました。

 

 海と山。
赤穂は風光明媚な土地でした。
道を行くと突然海辺に出て、
そこには空と背後の山を映しこんだ鏡面のビルが建っていました。
ここがアース製薬の研究所。

もともと炭酸マグネシウムを生産する会社であったことから、
今もここに研究所があるのだそうです。

 アース製薬といえば、誰もがかの「ごきぶりホイホイ」や「ゴキジェットプロ」など、
イヤな虫を退治する製品で日常お世話になっている会社ですが、
ここには飼育棟というのがあり、
有吉さんは
12年前からそこに所属しています。



(池内美絵さん撮影)





 まずは広々とした海が見渡せる明るい社員食堂で、お昼をごちそうになりました。


そして会社のご好意で、ゴキブリホイホイができあがる工程を見学。



高温でやわらかくなった特製の糊、
ゴキブリの足の油分を吸って接着面にひっつき安くするための足拭きマットなどなど、
長年の開発の賜物ともいえる工夫が詰まった製品ができあがるまでには、数々の工程があります。

説明をききながら、白いキャップをかぶって真剣に見入る私たち・・・・・・。


(池内美絵さん撮影)




こういうところを見学すると、製品としてちゃんとしたモノができるって、
ずいぶん数々の工程が必要なんだな、と実感します。
各国向けの輸出品も展示されています。




社内にはこんなディスプレイも。



ゾウムシも害虫扱いされてた・・・・・

つづきます。
 


虫と人に会いに奈良、神戸、播州赤穂へ 2日目

2010-10-28 12:47:24 | 日記

 

 「こども部屋」じゃなくて「研究室」

 

 2日目の午後、奈良を出て神戸三宮へ。

天才植物少年ゆうひくんと私のそもそものなれ初めは・・・。

ふたりとも『プランツ+ネットワーク』
http://www.plantsplus.jp/network/article/list/writer/yuuhikun/という
植物関連サイトのスタッフライターであることから、コメントをやりとりしていたら、

植物と虫、とテーマは違うけれど、
お互いに非常に似通った興味の持ち方や振る舞いをすることがわかってきて、
樹の絵をよく描くゆうひくんの絵に、ついに虫が登場してくるに至り、






これはどうしても一度会わなくちゃ、ということになったのでした。

 

駅まで出迎えてくれたゆうひくんと、途中の天満宮でお祈りしました。



「ゆうひくんが将来なりたいと願っている樹木医になれますように」。

 

 今7歳のゆうひくんは、もっと小さいころから、なぜか植物、特に樹が大好き。

ふつうとは違った樹への興味を示して、両親や知り合いを驚かしてきたそうです。

 3階建てのゆうひくんのすてきなおうちの2階には、ゆうひくんの子ども部屋、
じゃなかった研究室があります。
壁には一面に植物の本がディスプレイされ、あちこちに鉢植え。

 
3階の広いベランダには、
プラントハンターさんからゆずってもらったという数十種類の植物。



 おみやげのナタマメと樫の樹の蜂蜜をとっても喜んでくれたゆうひくんは、
突如ダイニングのテーブルの上に広げた紙の上で
なにやら土づくりのようなことをはじめました。

ひとつかみの土に、葉っぱを切って混ぜ込んだり
、見ている私にはよくわからないものもいれたりして、
よーくかき混ぜています。


 そして「よし、できた」というと、
そばにあった薄っぺらいビニール袋にそれをいれようとして、
ダイニングの床にこぼしました・・・・・
袋に穴が空いていたので、
とめようと思ったけど間に合いませんでした。


 そこへ近所の魚屋へ買い物にいったお母さんが帰ってきて、
土が散らばった床を見ましたが、「いつものこと」という風に動ぜず。
天才の母はこうでなくちゃ。


 ゆうひくんがナタマメの中がどうなっているのかすぐ見たい、
というので、包丁でエイャっと硬いサヤを切って、
ピンク色の大きなマメを出し、
そのひとつをふたりで鉢に植えました。


研究室に飾られたオミヤゲのナタマメ。


 ゆうひくんはよく、ぶつぶつとつぶやいています。
自分の頭のなかにある植物のことらしいのですが、
初対面なのでよくききとれず。
今熱帯の樹に興味深々というゆうひくんとパンノキについて調べたり、
ヤシの木の種類について教えてもらったりしているうちに、
あっという間に時間がたち、
こんどいっしょにジャングルへ行こう(計画進行中、来年の
3月に。この話はまた)ということに。
際限なく広がる可能性と未来の夢―こどものパワーってすごい!
ということを久しぶりに目の当たりにした、めくるめく夜でした。


あすは、播州赤穂です。