鈴木海花の「虫目で歩けば」

自然のディテールの美しさ、面白さを見つける「虫目」で見た、
身近な虫や植物の観察や飼育の記録。

虫も、虫友もたっくさん!『虫愛づる一日』

2013-06-21 19:28:00 | 日記
6月15日、オオムラサキセンターで今年初めて羽化したオオムラサキ(オス)
 

 昨年9月に北杜市オオムラサキセンターで初めて開催した『虫愛づる一日』は、
上陸台風に直撃される、という最悪な天候のなか、奇跡的に野外観察の時間はいいお天気、という幸運に恵まれました。

 でも、もう台風の心配はゴメンだよね~、ということで今年は6月に設定。
梅雨ではあるけれど、6月は虫が濃いし、梅雨の晴れ間もあるだろうと、
オオムラサキセンターの若干24歳「虫ガール」―いつも元気いっぱい、仕事は優秀―な渥美友里子さんと、日程を決定したのです。

 ところがなんと開催の前から台風3号発生のニュース。
  ずっと「晴れ女」でやってきた私、いつから雨女になってしまったのか……
きけば渥美さんは生粋の「雨女」だそう。
このコンビで催しを計画すると…雨女×2=台風。


 『虫愛づる一日』は、午前中の野外観察と午後の講演会という、
アウトドア&インドアで一日中、虫を楽しみ尽くしてもらおうというのが、趣旨。
 山梨県内はもちろん、九州、大阪、愛知、静岡、埼玉、千葉、神奈川・・・
と各地から参加者がやってきます。
 その数60名。下は2歳から上は60歳代まで、年齢性別もさまざま。

 虫の好きな人たちにとっては、いかにたくさんの虫を見られるかどうか、が満足感を左右します。
 雨天の場合に備えて渥美さんと知恵をしぼり、「雨の日プログラム」を考え、準備はしたものの……
 やっぱりみんなでフィールドを歩きたいよ~。

 今年は前泊して準備しよう、と前日15日お昼前に日野春駅に到着。



 駅前の道を渡ると、すぐそこが宿泊予定の旅館『志満屋』さん。
ちかっ!
あっ、イベントのポスター!





 オオムラサキセンターへ行くと、なんとこの日、今年1頭目の羽化。



 私の他の前泊組7名といっしょに、雨が落ちてこないうちにさっそく観察会の下見にフィールドへ。


 オオムラサキセンターから歩いて数分の場所に広がる、棚田を含むフィールドは、
 おおっ、すばらしく濃い緑とさわやかな風!


 う~ん、きもちいい。
 明日もこうだといいなあ……。



 フィールドの入口のつり橋の両側に生えているエノキでさっそく、
オオムラサキの終齢幼虫ムーちゃん発見。

 去年9月に見た時にはまだ2センチもない3齢幼虫だったのが、まるまると太って、立派な終齢幼虫に。
 そして次々といろんな虫が見つかった。

ヒメナガメの5齢幼虫?


ヒメシロコブゾウムシ。


この虫、なに???




あっ、ウスタビガの繭。蛹入りの繭を見るのは初めて。


ヨツボシツツハムシの斑紋変異?


ブチヒゲカメムシ。


ん?虫の卵?と思ったら、スミレの種でした。妖精のおやつみたいにかわいい。


初めて見たフノジグモ。名前の由来は「不」の字に見える黒い斑紋。


マイマイガの幼虫があちこちに。


キョトン。


毒がありそうだけれど、触っても大丈夫な人もいるらしい。アレルギーなどがある人は触らないほうが無難。っていうか、言われなくても触らないか。



 お昼は、オオムラサキセンターの石釜で焼くピザ。

これが美味しいんだなあ。
緑色のユニフォームを着ているのが渥美さん。


 その後でまたフィールドへ、こんどは明日のお弁当を食べる場所を見つけに。
日なたでおべんとうもつらいので、あちこち見てまわり、やっとここにしようか、と決め、
センターへもどり、私は翌日の講演などの準備にかかろうと思った時・・・・・・・雨。
さあーっと降り出して、本降りに。
ああ、やっぱり、降るのか……。

 夕方までいろいろ打ち合わせをして、宿に夕食にもどるころにも、一向に雨は降りやむ気配がありません。

 
 すっかり暗くなった8時ごろ、いっしょに宿に泊まっているみんなは、合羽を着て雨の中、灯りに集まるガを観に行くという。
 容赦ない雨の音に、渥美さんと私は宿のロビーで、
いよいよこれは明日雨が降るのを覚悟しなくちゃ、と憂鬱な顔でさらに打ち合わせをする。
なんとか明日きてくれるみんなに、この地域の生きた虫を観てほしい―虫がいてこその『虫愛づる一日』だ。

 すると、渥美さんがいいました。
「わたし、明日の朝、明るくなったらすぐに虫、探しに行きます。
それでできるだけ捕まえておいてせめてみんなに見せたい」。
 そこで、私は出かけようとしている前泊組のみんなに、「お願いがあるんですけど」と。
「あの、もし今夜虫を見つけたら、捕まえておいてほしいんです。明日のために」
みんなの顔がぱっと輝いた。
「まかせてー!」
 みんなはありったけの容器とかビニール袋をもつと、降りしきる夜の雨の中、出発していきました。

 フィールドでおべんとうを食べられない場合は、どうするか、などなど、打ち合わせをつづけていると、1時間半後、なんだか宿の玄関が騒がしい。
 出てみると、虫さがしに行ったみんなが、玄関わきの柱を観ながら、盛り上がっている。
「オオゾウムシですよ~」
えっ、ほんと?こんなところに?「見たことなーい」。


騒ぎを聞きつけて、宿のご主人が出てきたので、「すいません、騒がしくて」というと、
「いえいえ、オオゾウムシいっぱいいますよ。夏になると夜の観察ツアーもやってます。
ぷんぷん匂うほど、樹液を出す樹がいっぱいありますからね。日野春駅の構内にも、虫がいっぱい集まりますよ」と。

 雨の夜はガがいっぱい。









ウスイロトラカミキリ?


アシナガオニゾウムシ。



駅の中にはカエルもね。


 みんなが集めて来てくれた虫の数におどろいた。
雨が降っていても、こんなにいるのか!

採ってきた虫を撮影する前泊組。
これらは渥美さんにセンターへ持ち帰ってもらって、容器に移してもらうことにして、10時半に解散。


 翌朝。
 雨はしっかり降りつづいていた。
 朝食前に、みんなでまた宿のまわりで虫さがし。
 すると、すぐ脇のエノキにナナフシモドキがいっぱい。

 まだ10センチくらいの幼虫だ。

 その先の畑の一画に枯れたレースフラワーがあって、茶色くなった実に、
「あっ、アカスジカメムシだー」。


声を聞きつけて、畑の持ち主がやってきたので「すいません、このカメムシいただいていいでしょうか?」と訊いてみると、
「どうぞ、どうぞ、もう虫だらけでねえ、この辺は」。
大阪から来ているIさんも育ててみたいというので、二人で採集~。



 そして、8時半。
雨が……止んだ!
雲が流れていく。
山梨の美しい山々の姿が、次第に見えてきたーーー。



開場です!


 まずは「びばりうむ」で、オオムラサキの幼虫「ムーちゃん」を観察。









たっぷり眠って、エノキの葉をおなか一杯食べて、5センチ以上に育った終齢幼虫。
次々に蛹化しているという。




 11時。八ヶ岳ジャーナルと地元テレビの取材陣やスタッフを含め、
総勢60人を超える参加者が、午前の観察にしゅっぱーつ!


 木漏れ日の中を行く。


 雨の後のフィールドは緑に輝き、みんなから「きれい!」と声があがる。



 『むし探検広場』園長の川邊透さん、『庭のイモムシケムシ』などで人気の川上洋一さん、そして私の3人が散らばって、みんなと虫を探した。

 梅雨の時期に現れるという、フィールドのまんなかあたりの大きな水たまりには、ゲンゴロウやガムシなどの水生昆虫も。



途中でいったん集合して、見つかった虫を報告。
私はみんなが見つけてくれた大型で超美麗カメムシ―ツノアオカメムシとヒメナガメを紹介(写真撮り忘れた)


この男子小学生に注目。
去年もおかあさんと参加してくれた、ツノゼミが好きというK君。
なんと今年は、カメラが一眼レフにパワーアップ。一眼レフが様になっているところがスゴイ。
K君が見つけたのはアオスジカミキリ。

「いろんな森」というブログもはじめたそうです。





ヤツボシハムシ。


名前がわからなかったこの虫は、ヒゲナガカワトビケラとおしえていただきました。


モンキクロノカスミカメ。


フタスジモンカゲロウ。


ヒオドシチョウ。


ハラビロヘリカメムシ。


ナガカツオゾウムシとおもったら、川邉さんから「どうもアイノカツオゾウムのようです」と教えていただいた。カツオゾウムシにそんなにいろいろ種類がいるとは初めて知った。



まだ名前を調べていないガ。



羽化中の白いガ。


ヤマオニグモ?



モンキチョウ。


コブハサミムシのオス。


クロモンベニキバガ。


交尾するコフキゾウムシ。


肉食のクチブトカメムシの一種の幼虫。


ギンツバメ。


孵化したばかりのカメムシの幼虫。クサギカメムシか?


キイロトラカミキリ。


カメノコハムシ。


羽化したてと思われるきれいなカメノコハムシ。



ミバエの仲間?



カメノコテントウだーーー。
見たい見たいと思いながら、なかなか見つからず、初見。





さわやかな空気のなか、思い思いにフィールドで1時間余り、虫さがし。


 お昼ごろに雨、という予報があったため、朝の時点でランチ交流会はセンターのウッドテラスで、
と決めていたので、センターへ移動。
 60名となると椅子もテーブルも足りないので、テラスにシートを敷いてランチタイム。


ランチは、窯焼きピザと里山弁当だよ~

 センターのスタッフの方に用意していただいたエノキの鉢には、
なんと、オオムラサキに加え、いまみんなで見つけてきたウスタビガ、クスサン、ヤママユの終齢幼虫たちが勢ぞろい。
 またテラス横のスペースの長テーブルには、きのう前泊組のみなさんが集めて来てくれた生き虫たちが入った容器が40個くらい並んで、お弁当を食べ終わった人たちの目を楽しませていた。


ツートンカラーのウスタビガの終齢幼虫。


顔はこんな。7センチくらいある。


ヤママユの幼虫。


水気たっぷりで、グミキャンディのよう。



 1時半からは、映像室に集合して、講演会。

演台の後ろに立つと、かろうじて顔がのぞく私。





 私は『美しく、かわいく虫の写真を撮るには』をテーマに、
Q:「いつも何を撮りたいのか、よくわからない写真になってしまいます」
Q:「飼育の記録を写真に撮ったのですが、ごちゃごちゃしてわかりにくい上に、虫の魅力が引きだせていない写真になってしまいます」
Q:「小さい虫を撮ると、ピントが合わず、ボケてしまいます」
といった質問に答える形でお話をした。

小さな虫を撮るのに最近使っているニコンの実体顕微鏡ファーブルフォトを使って、3ミリのグンバイムシを撮る実演も。

 川邊透さんは、『虫愛づる姫君のための図鑑選案内』という題で、その豊富な図鑑コレクションのなかから100冊の図鑑の特徴をまとめたプリントを用意してくださって、「図鑑の3大用途」「図鑑の3大要素」「昆虫図鑑の3類型」をテーマに、実にユニークな図鑑案内のお話をしてくださった。

 『庭のイモムシケムシ』『道端のイモムシケムシ』の著書のあるサイエンスライター川上洋一さんは、『虫だってモフモフ・プヨプヨ』と題して、ぬいぐるみのように柔らかい毛や、ゼリーと間違いそうな質感の、成虫とはひと味違う、イモムシ・ケムシたちの魅力を紹介してくれました。

講演後は、新著『虫目のススメ』の販売。


この日から、イラストレーター宇佐美朋子さんデザインのオオムラサキてぬぐいも販売開始です。

オオムラサキのオスとメス、そしてエノキの葉のムーちゃんとオオムラサキ一家勢揃いの色鮮やかな絵柄。
夏、野外を歩く時に、首元に巻くのにぴったりですね。
(オオムラサキセンターでの販売だけでなく、宇佐美さんの展覧会などでも販売するそうです)



 講演が終わると、こんどはテラスで「虫友タイム」。
きょう出会った虫友、再会した虫友たちと、虫の話で盛り上がって、親交を深めました。
 特に同じ種類の虫が好きな人との出会いは貴重。憧れのヨナグニサンを、ひとりではなかなか観に行けないので、いっしょに与那国島へ観に行く計画をたてはじめたガ好きの女子ふたりも。


石垣島からやってきて人気を集めたクロカタゾウムシです。
交尾しているから、繁殖するといいね。


 で、気がつくと…雨、一滴も降らなかったじゃん!!!
エノキの鉢を台車に載せて片付けはじめたスタッフのひとりが、
「結果オーライ~」と歌うように言いながら、ニコニコとそばを通り過ぎました。

 
 参加してくださったみなさま、
そして、オオムラサキセンターの跡部園長、
渥美さんはじめスタッフのみなさま、ほんとうにありがとうございました!!!

 最後は日野春駅の階段の踊り場で、エゾスズメがお見送り。

駅の踊り場で、なにやら真剣に見入るふたりの男たちは、




このエゾスズメを撮っていたのです。


  
 これから羽田へ向かうという九州から来てくれたIさんや、川邊透さん、イラストレーターの宇佐美さん、大阪から夜行バスで駆けつけてくれたMさん、美大生Tさんたちといっしょに最後の最後まで虫をさがしながら帰途につきました。

 それにしても、オオムラサキセンターのある地域の虫の豊富さは、すごい!
これも、センターはじめ近隣のみなさんの、地域の自然を守る努力の成果なのではないでしょうか。
 また絶対行きたい!日野春です。