北にゆく 雁の声音を 忍び聞き また来るものと いふ浅はかさ
*今わたしに歌を提供してくれている友達は、少々気取って歌うのが好きらしい。他のものならもう少し直截に表現するところを、ひねるところが彼らしい。
雁は冬鳥ですから、行くというより、今頃はそろそろ来ている頃でしょうか。彼らが北に帰るのは、春の頃でしょう。
「がん」とも読みますが、ここではもちろん「かり」と読んでください。
歌の意は、北の国に帰っていく鳥の声を、影から聞いていて、きっとまた来るものと思っていたら、そう甘くはないということなのですが。
今は当然だと思っていることが、いつまでも永遠に続くとは限らないということです。
雁だとて馬鹿ではない。いつも行く水が汚れて来たり、周りの環境が変わってきたりすると、違うところに行ってしまうことがある。
また、不幸にも絶滅してしまうなどということも、考えられないことではない。
あなたがたは、かのじょが奥に引っ込んで消えていったとき、多くはすぐに帰ってくるだろうと思っていたことでしょう。実はかのじょ自身もそれを思っていた。彼に自分を渡しはするが、早期のうちにまた自分が戻れるのではないかという、淡い期待も抱いていた。
だが、甘くはなかった。自分があのまま倒れてしまうなどということは、かのじょは考えてもいなかったのです。
愛を信じて、ひたすらにやってくれる人ですが、限界というものは、どんな存在にも必ずあるのです。
あなたがたはそれを、肝に染みつけなければいけません。あなたがたが無理な暴虐をやりすぎれば、消えてなくなってしまう愛もあるのです。そしてそれは、二度とは帰って来ない。
失うということの重大性を、あなたがたは深く学ばねばなりません。そして、二度と同じことを繰り返してはならない。
この世界には、決してやってはならないことがあるのです。決して言ってはならない言葉があるのです。
それは冗談ではなく、真の言葉で言う、「消えろ」という言葉です。
それは自己存在の永遠性を、真っ向から否定するのです。