あやまちの ばおばぶのごと 世に栄え 目を細めつつ あふぎし月よ
*ばおばぶというのは、星の王子さまに出てきた大きな木のことですね。バオバブ自身には罪はないが、たしかに小さな王子さまがひとりですんでいるような小さな星にとっては、壊滅的な破壊をもたらすとてもやっかいなものでしょう。
その星を壊すばおばぶのように、世の中に過ちが栄えている。それを目を細めながら仰いでいた、月にたとえられる美しい人よ。
かのじょが生きていた頃、この世界の間違いはたしかに星を壊すような勢いで栄えていた。悪の優位性を信じ、馬鹿どもはやっきになってひとりの美女を滅ぼそうとしていた。何千もの勢力を持って、人一人を滅ぼそうとしていた。なぜか。その美女が真実の人だったからです。この世界に残った、ただ一粒の本当に美しい人だったからです。嘘と偽物ばかりの世界で悪を信じていた馬鹿どもは、たったひとりの真実の美しい人の前に狂い、あらゆる暴虐をなしたのです。
その美しい人は、この世界に愛の世界を打ち建てようとしていた。絶望的な仕事です。周りの人間はみな自分を見失い、凡庸の闇に安住して好きなことをやっていた。愛のために行動しようなどというものはだれもいなかった。
世界中のすべてが自分の敵だとも思えるような世界で、ただひとりでそれに挑もうとしていたのです。
自分が真実の人であるならば、それはやらねばならない賭けでした。その賭けをしようとしている人が、ばおばぶのように巨大な人間の過ちのかたまりを見ている。その気持ちはどんなものだったでしょう。
見える世界にはだれひとりとして味方はいない。だがかのじょは知っている。神がいらっしゃることを。それならば、自分の身を捨てていくしかない。
神を信じて、やるしかない。
すべてがそれでなんとかなったのです。過ちの海の中に、ただひとり、神を信じて行動した真実の人がいたから、この世界はなんとかなったのです。
凡庸の闇に溶け、悪に酔っていた大勢の馬鹿たちは、一気に沈んだ。そして今も、本当の美人ひとりに、何をすることもできない。すべてがそれに支配されているかのように、美人の前で動けずにいる。
美しさというものは計り知れない。ひともとの薔薇のようにはかなく見える美しい人が、真心のみで、最も美しいことをしたというだけで、ばおばぶのように巨大なものが、一気に倒れたのです。