JCP市原時夫です

千葉県房総の睦沢町から、政治・経済・歴史・オペラ・うたごえを考えるgabuku@m12.alpha-net.ne.jp

深い内容の書・単純化も加藤周一最終講義

2015年12月23日 | Weblog

加藤周一「最終講義」は、興味深い内容です。

マルクスの文章のおもしろさ
 「マクキシズム」と題して最初に取り上げています。マルクスについて「マルクスは実に名文家でおもしろい大文章家だ」と言っていますが、私が資本論第一巻を読んだときに確かに感じました。本文はむずかしのですが、注がとくにおもしろい様々な文学や例を出して解説しているのです。これがおもしろい。
 加藤氏は「私がマルクス主義者にならなかった一つの理由は・・・・すべての文学は社会主義をめざす進歩的文学とそうでない反動的文学に分かれるという話は、ちょっとばかばかしくてまじめに相手にできなかったな。そうすると共産党員にはなれなかったのです。(笑い)」と述べています。
 
わかりやすいが単純の弱点も
 加藤氏の特徴の一つとして、単純化してわかりやすいこと、認識の発展というとらえ方がわかりにくいことにあると思います。
 
日本共産党の文化政策 
 日本共産党の文化政策は、「文化各分野の積極的な伝統を受けつぎ、科学、技術、文化、芸術、スポーツなどの多面的な発展をはかる。学問・研究と文化活動の自由をまもる」というもので、文化創造の内容にふれていないことです。「政治は「金は出すが口は出さない」という原則を貫くようにしなければなりません。」と芸術家会議(43の芸術団体で構成、伊藤京子会長)との懇談で、市田忠義書記局長・参議院議員が発言しています。この方針から言うと、加藤氏の発言は的外れということになります。

歴史的弱点
 歴史的に言いますと、 戦前プロレタリア文学は「日本文化の民主主義的、革命的な発展のために大きな役割を果たしただけでなく、広範な大衆に進歩的な思想、革命的な思想を普及し啓蒙する」(戦後の文化政策をめぐる党指導上の問題について)という役割を持っていました。
 1950年前後の一部分派による党指導部乗っ取りの時期には、誤った政治課題に従属させるという、全く間違った方針を押し付けました。
 日本共産党が一つになった1958年からは、 「党は、日本文化の意義ある民族的伝統をうけつぎひろめ、教育、科学、技術、芸術などの民主主義的発展と向上のために、また思想と表現の自由のためにたたかう。」が続き、日本共産党が新綱領にした日本共産党第23回大会 2004年からは、「民族的伝統を」という、内容の部分が削られ「文化各分野の積極的な伝統」と替えられています。
 加藤氏の発言は2006年ですから、この方針は知っていたと思うのですが。いつの時点のことか、今では分かりようもないのですが。

宮本顕治氏との論争
 ただ、1949年に宮本顕治氏と太宰治論をめぐって、全面否定の宮本氏と評価する加藤氏との激論が交わされており、のちに、加藤氏は日本文学史序説で、太宰治について「太宰の『人間失格』はとは、実は「共産主義者失格」ということである」と述べている。
 私は、「人間失格」は太宰が卑屈になっているようで、実は思い上がっている姿勢が嫌いですが、文学論としては、加藤氏に賛成です。
 もう少していねいに話をして頂ければと思いますが。この、歯切れの良さも加藤氏の魅力のひとつかもしれません。