吉田 典史 | ジャーナリスト
2013年9月11日 0時47分
''' 春闘では動くが、組合員が不当な行為を受けても、救済しない'''
日本経済新聞(9月10日)によると、労働組合・連合や、NPO法人「職場の権利教育ネットワーク」(札幌市)などは、働く人の権利に関する知識を問う「ワークルール検定」を創設するのだという。
その記事によると、2013年6月に札幌で行った「プレ検定」は約320人が受験し、11月には、東京でも試験を実施するようだ。
試験では、労働基準法、労働契約法、労働組合法といった法律を中心に、採用、賃金、休日、解雇などに関する知識を問う。初級、中級、上級に分け、それぞれ年1回程度、試験を行う方針だという。
このNPOは、日本経済新聞の取材にこう答えている。
「労働相談や労使紛争が増加しているにもかかわらず、学校などで労働法規を学ぶ機会はほとんどなく、労使ともに知識が欠如している」「歴史検定やご当地検定などと同様に、まずはクイズ感覚で気軽に挑戦してほしい」。
連合は、「反響が大きければ全国に広げていきたい」と答えている。
いずれも「正論」ではあると思う。日本は、いわゆる「労働者教育」を10代の頃に受ける機会がない。これが、今の労使紛争を不毛なものにしている一因と私は思う。その意味では結構な試みなのだろう。
しかし、この報道が事実ならば理解に苦しむこともある。そもそも、労働組合・連合はこの20数年、ほんとうに労働者の権利や名誉を守ってきたのだろうか。
連合の上層部は、「YES」と答えるのかもしれない。それならば問いたい。なぜ、ここまで個別紛争が増えているのだろうか。解雇にしろ、退職強要にしろ、パワハラにしろ、セクハラにしろ、労働基準監督署や労政事務所などへの相談件数は減ることがない。労働組合として機能しているならば、ここまで相談件数は飛躍的に増えないだろう。
もしかすると、反論があるのかもしれない。
「退職強要やパワハラなどは、小さな会社で起きていること。連合には大企業の企業内労組の多くが加盟している。そのような不当な行為は少ない。ナショナルセンターにしろ、産別の執行部にしろ、組合員が不当な行為で苦しむ件数は少ないと把握している」。
このような反論があるならば、姑息な言い訳でしかない。半年ほど前、私は都内の労働相談情報センター(旧 労政事務所)に取材で行った。そこで、40代の相談員(東京都庁の職員)から聞いた。
それよりも1年ほど前、港区に本社を構える大手メーカー(社員数は1万人を超える)の30~50代の社員数人が、相談員のもとを訪ねた。そして、このように打ち明けた。「仕事を数か月にわたり、取り上げられ、困っている」「毎日することがなく、ノイローゼ状態になっている」。
そのうちの2人は非管理職であり、組合員だった。相談員が、「企業内労組は何をしているのか」と聞くと、こう答えた。「執行部に相談に行ったところ、執行委員は上司とよく話し合ってほしい」。ちなみに、この企業内労組は連合に加盟している。
相談員は苦笑いをしながら、私に話す。「連合の企業内労組は春闘では動くが、組合員が不当な行為を受けても、救済しないらしい」。
これに近い話は、都内の労働基準監督や労働局の雇用均等室に取材で行くと、耳にする。職員らは公務員ということもあり、「こういうことは記事にはしないでほしい」と念を押す。
'''
不当な行為を黙認する労組'''
そのほかにも、かぞえきれないほどに、連合の不可解な行動を耳にする。たとえば、2年ほど前、労働組合ユニオンの役員のもとに、大手化粧品会社に勤務する社員が相談に行った。「退職強要を受けている」という内容だった。その社員は非管理職であり、企業内労組の一員である。ところが、その労組の役員は経営側に抗議をしない。
ユニオンの役員は、その社員を組合員にして預かることした。会社に団体交渉を申し入れる前に、企業内労組に一報を入れた。双方ともに労働組合であり、のちのちのトラブルを避けようとしたのだろう。仁義を切った、ともいえる。
すると、企業内労組の役員は、「(団体交渉をするならば)よろしくお願いします」とユニオンの役員に答えたという。経営側に抗議をする意思はなかったらしい。
そのユニオンは、連合に加盟している。役員は「こういうことは記事に書かないでほしい」と、私の取材に話す。しかし、連合加盟の企業内労組の、このような不可解な行動は公にしたほうがいいと思う。組合員から組合費を毎月、徴収する。ところが、いざというときにその組合員を守ろうとしない。これでは、詐欺みたいなものだろう。
連合は、全労連や全労協に比べてはるかに大きな組織である。組合員数が多く、資金も豊富なはずだ。民主党とも必要以上に深い関係がある。そこまでの力がありながら、連合加盟の企業内労組はなぜ、不当な行為を黙認するのだろう。黙認は、通常は「GOサイン」を意味する。
もしかすると、不当な行為に何らかの形で加担をしているのではないだろうか、と思えるときすらある。たとえば、執行部に相談にきた社員や、組合の集会で組合員の誰がどのようなことを発言していたか、といったことなどを人事部に報告はすることはまさかありえないだろう。
さらには、産別の機関紙で、ある会社のことを批判したら、その会社の企業内労組の役員が「ここまでのことを書くと、我々の立場がなくなる」などと言って、批判をさせないようにすることもあるわけがない。
日本最大の労働組合が関わる、「ワークルール検定」なるものをぜひ、受験してみたい。
吉田 典史
ジャーナリスト
1967年、岐阜県大垣市生まれ。人事・労務の観点から企業を取材し、記事や本を書く。一方で事件・事故などの取材を続ける。著者に『封印された震災死その「真相」』(世界文化社)、『震災死 生き証人たちの真実の告白』『あの日、「負け組社員」になった…』(ダイヤモンド社)、『いますぐ「さすが」と言いなさい!』(ビジネス社)、『仕事なんかするより上司に気を使えよ』(労働調査会)など。
2013年9月11日 0時47分
''' 春闘では動くが、組合員が不当な行為を受けても、救済しない'''
日本経済新聞(9月10日)によると、労働組合・連合や、NPO法人「職場の権利教育ネットワーク」(札幌市)などは、働く人の権利に関する知識を問う「ワークルール検定」を創設するのだという。
その記事によると、2013年6月に札幌で行った「プレ検定」は約320人が受験し、11月には、東京でも試験を実施するようだ。
試験では、労働基準法、労働契約法、労働組合法といった法律を中心に、採用、賃金、休日、解雇などに関する知識を問う。初級、中級、上級に分け、それぞれ年1回程度、試験を行う方針だという。
このNPOは、日本経済新聞の取材にこう答えている。
「労働相談や労使紛争が増加しているにもかかわらず、学校などで労働法規を学ぶ機会はほとんどなく、労使ともに知識が欠如している」「歴史検定やご当地検定などと同様に、まずはクイズ感覚で気軽に挑戦してほしい」。
連合は、「反響が大きければ全国に広げていきたい」と答えている。
いずれも「正論」ではあると思う。日本は、いわゆる「労働者教育」を10代の頃に受ける機会がない。これが、今の労使紛争を不毛なものにしている一因と私は思う。その意味では結構な試みなのだろう。
しかし、この報道が事実ならば理解に苦しむこともある。そもそも、労働組合・連合はこの20数年、ほんとうに労働者の権利や名誉を守ってきたのだろうか。
連合の上層部は、「YES」と答えるのかもしれない。それならば問いたい。なぜ、ここまで個別紛争が増えているのだろうか。解雇にしろ、退職強要にしろ、パワハラにしろ、セクハラにしろ、労働基準監督署や労政事務所などへの相談件数は減ることがない。労働組合として機能しているならば、ここまで相談件数は飛躍的に増えないだろう。
もしかすると、反論があるのかもしれない。
「退職強要やパワハラなどは、小さな会社で起きていること。連合には大企業の企業内労組の多くが加盟している。そのような不当な行為は少ない。ナショナルセンターにしろ、産別の執行部にしろ、組合員が不当な行為で苦しむ件数は少ないと把握している」。
このような反論があるならば、姑息な言い訳でしかない。半年ほど前、私は都内の労働相談情報センター(旧 労政事務所)に取材で行った。そこで、40代の相談員(東京都庁の職員)から聞いた。
それよりも1年ほど前、港区に本社を構える大手メーカー(社員数は1万人を超える)の30~50代の社員数人が、相談員のもとを訪ねた。そして、このように打ち明けた。「仕事を数か月にわたり、取り上げられ、困っている」「毎日することがなく、ノイローゼ状態になっている」。
そのうちの2人は非管理職であり、組合員だった。相談員が、「企業内労組は何をしているのか」と聞くと、こう答えた。「執行部に相談に行ったところ、執行委員は上司とよく話し合ってほしい」。ちなみに、この企業内労組は連合に加盟している。
相談員は苦笑いをしながら、私に話す。「連合の企業内労組は春闘では動くが、組合員が不当な行為を受けても、救済しないらしい」。
これに近い話は、都内の労働基準監督や労働局の雇用均等室に取材で行くと、耳にする。職員らは公務員ということもあり、「こういうことは記事にはしないでほしい」と念を押す。
'''
不当な行為を黙認する労組'''
そのほかにも、かぞえきれないほどに、連合の不可解な行動を耳にする。たとえば、2年ほど前、労働組合ユニオンの役員のもとに、大手化粧品会社に勤務する社員が相談に行った。「退職強要を受けている」という内容だった。その社員は非管理職であり、企業内労組の一員である。ところが、その労組の役員は経営側に抗議をしない。
ユニオンの役員は、その社員を組合員にして預かることした。会社に団体交渉を申し入れる前に、企業内労組に一報を入れた。双方ともに労働組合であり、のちのちのトラブルを避けようとしたのだろう。仁義を切った、ともいえる。
すると、企業内労組の役員は、「(団体交渉をするならば)よろしくお願いします」とユニオンの役員に答えたという。経営側に抗議をする意思はなかったらしい。
そのユニオンは、連合に加盟している。役員は「こういうことは記事に書かないでほしい」と、私の取材に話す。しかし、連合加盟の企業内労組の、このような不可解な行動は公にしたほうがいいと思う。組合員から組合費を毎月、徴収する。ところが、いざというときにその組合員を守ろうとしない。これでは、詐欺みたいなものだろう。
連合は、全労連や全労協に比べてはるかに大きな組織である。組合員数が多く、資金も豊富なはずだ。民主党とも必要以上に深い関係がある。そこまでの力がありながら、連合加盟の企業内労組はなぜ、不当な行為を黙認するのだろう。黙認は、通常は「GOサイン」を意味する。
もしかすると、不当な行為に何らかの形で加担をしているのではないだろうか、と思えるときすらある。たとえば、執行部に相談にきた社員や、組合の集会で組合員の誰がどのようなことを発言していたか、といったことなどを人事部に報告はすることはまさかありえないだろう。
さらには、産別の機関紙で、ある会社のことを批判したら、その会社の企業内労組の役員が「ここまでのことを書くと、我々の立場がなくなる」などと言って、批判をさせないようにすることもあるわけがない。
日本最大の労働組合が関わる、「ワークルール検定」なるものをぜひ、受験してみたい。
吉田 典史
ジャーナリスト
1967年、岐阜県大垣市生まれ。人事・労務の観点から企業を取材し、記事や本を書く。一方で事件・事故などの取材を続ける。著者に『封印された震災死その「真相」』(世界文化社)、『震災死 生き証人たちの真実の告白』『あの日、「負け組社員」になった…』(ダイヤモンド社)、『いますぐ「さすが」と言いなさい!』(ビジネス社)、『仕事なんかするより上司に気を使えよ』(労働調査会)など。