〔以下の論攷は、日本科学者会議『東京支部つうしん』No.551、2013年9月10日付、に掲載されたものです。〕
労働の規制緩和という妖怪が、またもや徘徊し始めたようだ。かつては、日本経済の構造を改革するためとされ、今回は日本産業の復興と成長力の増大のためだという。「世界で一番企業が活躍しやすい国」にするため、ビジネスに対する規制を緩和することが目指されている。
基本的には、小泉構造改革の再版である。経済財政諮問会議、産業競争力会議、規制会各会議などを舞台に企業経営者や学識経験者などの民間議員を旗振り役とし、正規の政策形成の場の頭越しに大枠を決めるという手法も、肝心の労働セクターがそこから閉め出されている点も共通している。
その内容は、第1に、解雇要件を緩めて金銭解決を導入すること、労働移動を支援すること、大学講師等の「改正労働契約法」の適用除外、派遣労働の規制緩和と「常用代替禁止」原則の撤廃、地域や職務、労働時間などを限定した「限定(ジョブ型)正社員」の創出など、雇用維持型から労働移動支援型への転換であり、第2に、ハローワーク事業への民間のノウハウの活用や公的職業紹介以外の人材供給業の拡大、有料職業紹介事業の参入規制や求職者からの手数料徴収規制の見直しなど、人材供給ビジネスの拡大であり、そして第3に、ホワイトカラー・エグザンプション導入や企画業務型裁量労働制やフレックスタイム制等の適用拡大など、労働時間管理の緩和である。
このような規制緩和は、第1に、不安定就労の拡大と雇用の不安定化をもたらすだろう。とりわけ「ジョブ型正社員」は期限が明示されない有期雇用にほかならず、事業所の閉鎖や業務の終了を理由とした雇い止めを容易にする。
第2に、職場の荒廃と労働組合の弱体化をもたらすだろう。労働組合の役員などを狙い撃ちにして解雇し、金銭による補償という形で追い出せるからだ。
第3に、「ロックアウト解雇」や「追い出し部屋」のような手荒なやり方は必要なくなり、「ブラック企業」の合法化によって雇用の荒廃は一層すすむだろう。
第4に、過労死や過労自殺がさらに拡大し、メンタルヘルス不全やうつ病が増大するにちがいない。労働時間規制はいまでも不十分で、「三六協定」や「サービス残業」などによる抜け穴もあり、労働者の健康問題は深刻化している。
第5に、少子化や消費不況などの社会問題が拡大するだろう。働く人々の困難は解決されるどころか、日本における労働の劣化はさらに深刻になり、賃金が低下して労働条件が悪化すれば、家庭を持つこともできず、ものを買うこともできない。
そろそろ、気づいても良いのではないだろうか。ひたすらコストを削減して目先の利益を上げようとし、労働者を使い捨てにしてきたことが技術力や競争力を弱め、企業の存立基盤を崩して産業の衰退をもたらしてきたということに。そして、少子化や消費不況、貧困化や格差の拡大など日本社会が抱えている問題の多くは、この間の規制緩和や非正規化によって生じてきたということに……。
労働の規制緩和という妖怪が、またもや徘徊し始めたようだ。かつては、日本経済の構造を改革するためとされ、今回は日本産業の復興と成長力の増大のためだという。「世界で一番企業が活躍しやすい国」にするため、ビジネスに対する規制を緩和することが目指されている。
基本的には、小泉構造改革の再版である。経済財政諮問会議、産業競争力会議、規制会各会議などを舞台に企業経営者や学識経験者などの民間議員を旗振り役とし、正規の政策形成の場の頭越しに大枠を決めるという手法も、肝心の労働セクターがそこから閉め出されている点も共通している。
その内容は、第1に、解雇要件を緩めて金銭解決を導入すること、労働移動を支援すること、大学講師等の「改正労働契約法」の適用除外、派遣労働の規制緩和と「常用代替禁止」原則の撤廃、地域や職務、労働時間などを限定した「限定(ジョブ型)正社員」の創出など、雇用維持型から労働移動支援型への転換であり、第2に、ハローワーク事業への民間のノウハウの活用や公的職業紹介以外の人材供給業の拡大、有料職業紹介事業の参入規制や求職者からの手数料徴収規制の見直しなど、人材供給ビジネスの拡大であり、そして第3に、ホワイトカラー・エグザンプション導入や企画業務型裁量労働制やフレックスタイム制等の適用拡大など、労働時間管理の緩和である。
このような規制緩和は、第1に、不安定就労の拡大と雇用の不安定化をもたらすだろう。とりわけ「ジョブ型正社員」は期限が明示されない有期雇用にほかならず、事業所の閉鎖や業務の終了を理由とした雇い止めを容易にする。
第2に、職場の荒廃と労働組合の弱体化をもたらすだろう。労働組合の役員などを狙い撃ちにして解雇し、金銭による補償という形で追い出せるからだ。
第3に、「ロックアウト解雇」や「追い出し部屋」のような手荒なやり方は必要なくなり、「ブラック企業」の合法化によって雇用の荒廃は一層すすむだろう。
第4に、過労死や過労自殺がさらに拡大し、メンタルヘルス不全やうつ病が増大するにちがいない。労働時間規制はいまでも不十分で、「三六協定」や「サービス残業」などによる抜け穴もあり、労働者の健康問題は深刻化している。
第5に、少子化や消費不況などの社会問題が拡大するだろう。働く人々の困難は解決されるどころか、日本における労働の劣化はさらに深刻になり、賃金が低下して労働条件が悪化すれば、家庭を持つこともできず、ものを買うこともできない。
そろそろ、気づいても良いのではないだろうか。ひたすらコストを削減して目先の利益を上げようとし、労働者を使い捨てにしてきたことが技術力や競争力を弱め、企業の存立基盤を崩して産業の衰退をもたらしてきたということに。そして、少子化や消費不況、貧困化や格差の拡大など日本社会が抱えている問題の多くは、この間の規制緩和や非正規化によって生じてきたということに……。