<難民申請者たちが就労>
しかし、スバル車ブームの陰には、同社が喧伝していない別の事実がある。売れ行きが急増している同社の生産が、ひとつにはアジアやアフリカからの難民申請者や安い外国人労働者の存在によって支えられているという点だ。
東京から電車で2時間の距離にある群馬県太田市。同社や部品サプライヤーなどスバル車の主要生産拠点で働く彼らの多くは短期契約の作業員で、賃金の35%程度は彼らを派遣した業者が受け取る。バングラデシュ、ネパール、マリ、中国など様々な国からやってきた彼らは、フォレスターの革製シートなどの部品の多くを作っており、大半の場合、厳しい労働環境に置かれている。
ロイターは太田市でスバル製造に関わっている22カ国、およそ120人の外国人労働者と面談し、彼らの給与明細書や難民認定申請書なども調査した。そこから浮かび上がってきたのは、外国人労働者が日本の閉鎖的な出入国管理法に縛られ、スバル車のサプライチェーンのなかで人材派遣業者や企業による待遇に苦悩している姿だった。
そうした労働者の1人、ネパール出身の難民申請者であるラカン・リジャル氏(34)は、同社向け車座席を製造する会社で作業中に腰を負傷し、その後に解雇を言い渡されたと話した。他の労働者たちからは、通常シフトの2倍の時間を働くよう圧力を受けた、事前通告無しに即時解雇された、保険をかけてもらえなかった、などの訴えがあった。
ロイターがインタビューした大半の労働者は、群馬県の一般機械器具製造業の最低賃金である時給817円、あるいはそれ以上の賃金を受け取っていた。しかし、2カ所のスバル系列サプライヤーで働いていた十数人のインドネシア人労働者の場合、家賃や光熱費、本国の送り出し機関に支払う手数料を差し引くと、残る手取り額は毎月平均でおよそ9万円、時給にして約409円にとどまっていた。
こうした問題について、富士重工は「取引先の労働環境管理は基本的に各取引先の責任で行っており、当社が直接的に関与することはない」との立場をとっている。ロイターの問い合わせに対し、同社は書面回答の中で、法律や企業内のガイドラインに従うことが同社と取引するための前提条件だ、と述べた。同社はまた、派遣会社の行動を監視する権限はないとし、「ただし当社として、客取引先に、ガイドラインで定める差別撤廃・人権尊重・法令順守に沿った対応をお願いしている」と説明している。
<「灰色」の供給ルート>
同社のサプライチェーンにおける労働実態は、人口縮小で労働市場がひっ迫し、移民労働者に対する法律上の壁が依然高い日本特有の事情が生んだ副産物といえる。同社や系列サプライヤーなど人手不足に直面している企業は、工場の作業員を確保するため、難民申請者やビザ(査証)切れ不法滞在者、アジアからの技能実習生といった「裏口ルート」の移民労働者に頼らざるを得ない。「灰色」の労働市場が存在するおかげで、建設業、農業、製造業などは数多くの外国人労働者を安い賃金で雇うことが可能になっている。
同社は、政府が行っている外国人技能実習制度にそって、339人の中国人を受け入れている。この制度は、発展途上国の労働者に日本の製造現場で産業技術を習得してもらうことが目的だ。
この制度の参加者には、自国の送り出し機関に日本円にして約37万円もの手数料を払い、借金を抱えて日本にやってくる人々が少なくない。日本に来ても、研修先の企業を変更できないという制約に直面する。国連と米国務省は日本の技能実習制度について、今年の報告で、一部の研修生が「いまなお強制労働の状況にある」と厳しく指摘した。
海外からの技能実習生の採用は、労働力不足を一時的に補完する方策として、これまでも農業や繊維産業などの現場では20年以上にわたって続けられてきた。ロイターの取材で、その制度が大手輸出企業によって製造業の作業現場にも組み込まれていることが明らかになった。
富士重工と系列サプライヤーにとって、製造拠点である太田市で十分な労働力が確保できなければ、大きな問題が生じる。過去20年あまりで最も厳しい人手不足が続く中、外国人の雇用がその重要な対策となった。
スバルのサプライチェーンにおける外国人作業員の数について公式のデータはない。しかし、ロイターが各企業、派遣会社や労働者らへの聞き取りにもとづいて把握した外国人作業員の数は、太田市内にある富士重工の部品サプライヤー4社で、少なくとも約580人にのぼった。これら4社で働く合計およそ1830人の30%にあたる規模だ。
「灰色」労働市場からスバル系列メーカーに流れ込む労働者の中で、最も大きな比重を占めているのが難民申請者だ。日本において、難民資格を求めている外国人は大きく二つに分けられる。数が多いグループは、半年ごとの資格更新を条件に日本での就労が許可されている人たち。一
特別リポート:「スバル」快走の陰で軽視される外国人労働者
しかし、スバル車ブームの陰には、同社が喧伝していない別の事実がある。売れ行きが急増している同社の生産が、ひとつにはアジアやアフリカからの難民申請者や安い外国人労働者の存在によって支えられているという点だ。
東京から電車で2時間の距離にある群馬県太田市。同社や部品サプライヤーなどスバル車の主要生産拠点で働く彼らの多くは短期契約の作業員で、賃金の35%程度は彼らを派遣した業者が受け取る。バングラデシュ、ネパール、マリ、中国など様々な国からやってきた彼らは、フォレスターの革製シートなどの部品の多くを作っており、大半の場合、厳しい労働環境に置かれている。
ロイターは太田市でスバル製造に関わっている22カ国、およそ120人の外国人労働者と面談し、彼らの給与明細書や難民認定申請書なども調査した。そこから浮かび上がってきたのは、外国人労働者が日本の閉鎖的な出入国管理法に縛られ、スバル車のサプライチェーンのなかで人材派遣業者や企業による待遇に苦悩している姿だった。
そうした労働者の1人、ネパール出身の難民申請者であるラカン・リジャル氏(34)は、同社向け車座席を製造する会社で作業中に腰を負傷し、その後に解雇を言い渡されたと話した。他の労働者たちからは、通常シフトの2倍の時間を働くよう圧力を受けた、事前通告無しに即時解雇された、保険をかけてもらえなかった、などの訴えがあった。
ロイターがインタビューした大半の労働者は、群馬県の一般機械器具製造業の最低賃金である時給817円、あるいはそれ以上の賃金を受け取っていた。しかし、2カ所のスバル系列サプライヤーで働いていた十数人のインドネシア人労働者の場合、家賃や光熱費、本国の送り出し機関に支払う手数料を差し引くと、残る手取り額は毎月平均でおよそ9万円、時給にして約409円にとどまっていた。
こうした問題について、富士重工は「取引先の労働環境管理は基本的に各取引先の責任で行っており、当社が直接的に関与することはない」との立場をとっている。ロイターの問い合わせに対し、同社は書面回答の中で、法律や企業内のガイドラインに従うことが同社と取引するための前提条件だ、と述べた。同社はまた、派遣会社の行動を監視する権限はないとし、「ただし当社として、客取引先に、ガイドラインで定める差別撤廃・人権尊重・法令順守に沿った対応をお願いしている」と説明している。
<「灰色」の供給ルート>
同社のサプライチェーンにおける労働実態は、人口縮小で労働市場がひっ迫し、移民労働者に対する法律上の壁が依然高い日本特有の事情が生んだ副産物といえる。同社や系列サプライヤーなど人手不足に直面している企業は、工場の作業員を確保するため、難民申請者やビザ(査証)切れ不法滞在者、アジアからの技能実習生といった「裏口ルート」の移民労働者に頼らざるを得ない。「灰色」の労働市場が存在するおかげで、建設業、農業、製造業などは数多くの外国人労働者を安い賃金で雇うことが可能になっている。
同社は、政府が行っている外国人技能実習制度にそって、339人の中国人を受け入れている。この制度は、発展途上国の労働者に日本の製造現場で産業技術を習得してもらうことが目的だ。
この制度の参加者には、自国の送り出し機関に日本円にして約37万円もの手数料を払い、借金を抱えて日本にやってくる人々が少なくない。日本に来ても、研修先の企業を変更できないという制約に直面する。国連と米国務省は日本の技能実習制度について、今年の報告で、一部の研修生が「いまなお強制労働の状況にある」と厳しく指摘した。
海外からの技能実習生の採用は、労働力不足を一時的に補完する方策として、これまでも農業や繊維産業などの現場では20年以上にわたって続けられてきた。ロイターの取材で、その制度が大手輸出企業によって製造業の作業現場にも組み込まれていることが明らかになった。
富士重工と系列サプライヤーにとって、製造拠点である太田市で十分な労働力が確保できなければ、大きな問題が生じる。過去20年あまりで最も厳しい人手不足が続く中、外国人の雇用がその重要な対策となった。
スバルのサプライチェーンにおける外国人作業員の数について公式のデータはない。しかし、ロイターが各企業、派遣会社や労働者らへの聞き取りにもとづいて把握した外国人作業員の数は、太田市内にある富士重工の部品サプライヤー4社で、少なくとも約580人にのぼった。これら4社で働く合計およそ1830人の30%にあたる規模だ。
「灰色」労働市場からスバル系列メーカーに流れ込む労働者の中で、最も大きな比重を占めているのが難民申請者だ。日本において、難民資格を求めている外国人は大きく二つに分けられる。数が多いグループは、半年ごとの資格更新を条件に日本での就労が許可されている人たち。一
特別リポート:「スバル」快走の陰で軽視される外国人労働者