長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ミュート』

2018-03-08 | 映画レビュー(み)

初の大作『ウォー・クラフト』が案の定(?)大失敗したダンカン・ジョーンズ監督の新作はNetflix製作のSFノワールだ。近未来のドイツはベルリンを舞台に口の利けない男(MUTE)アレクサンダー・スカルスガルドが消えた恋人の行方を追う。

 ジョーンズらしい美意識が貫かれているが、自ら務めた脚本に駆動力があるとは言えず、未来のベルリンは2049年ではなく1981年の『ブレードランナー』の影響下であり、2018年に見る未来のランドスケープとしてはあまりに古臭い。『ビッグ・リトル・ライズ』で賞レースを席巻したスカルスガルドは旬の俳優ならではの充実で無言演技に取り組んでいるが、実質のW主演である“アントマン”ことポール・ラッドはミスキャストで、足を引っ張られた。またしてもNetflixのクオリティコントロール不足と言わざるを得ない。

 かつてデヴィッド・ボウイはベルリンの街を愛し、数々の楽曲を残した。未だ見ぬ親の姿を求めるこの物語は、ジョーンズにとって亡き父ボウイの幻影を探し求めた作品だ。彼の作家性を構築する上で、もっと重要な1本になるハズだったのではないだろうか。


『ミュート』18・英
監督 ダンカン・ジョーンズ
出演 アレクサンダー・スカルスガルド、ポール・ラッド、ジャスティン・セロー
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』

2018-01-15 | 映画レビュー(み)

ハリウッド映画はアメコミだけじゃない!
シリーズ最新作はトム・クルーズの覚悟が伝わってくる本塁打だ。彼はありとあらゆる手を尽くし、人気アクションシリーズこそハリウッドのお家芸だと見得を切る。『ワルキューレ』『オール・ユー・ニード・イズ・キル』『アウトロー』と組んできた名脚本家クリストファー・マッカリーを監督に迎え、愚直なクラシカルさがよりアメリカ娯楽映画としての風格をもたらす辺りに名プロデューサーとしての辣腕ぶりも伺える。シリーズ起死回生の傑作となった前作『ゴースト・プロトコル』に劣らぬ完成度に、いよいよアメリカ版007とも成り得る長寿化も現実味を帯びてきた。

アヴァンタイトルが猛烈に素晴らしい。神経ガスを積んだ軍用機を止めようとタブレット片手にサイモン・ペッグが登場。ワシントンにはジェレミー・レナー、アジアにはヴィング・レイムズとお馴染みのメンバーが勢揃い。そこに走り込んでくるのが(そう、あの胸のすくようなダッシュで)トム!あれよあれよと軍用機の翼に飛び乗り、扉にへばりつく。そのまま飛行機は空へ…。プロモーションも映画の武器。“トムちんが生身でスタントをやっている”、その事実が観客を高揚させる。オーマイガッ!!

この生身のアクションはもはやジャッキー・チェンばりの見せ物だが、トムちんがやるとギャグでも曲芸でも終わらず、一枚看板スターの貫禄にすら見えてくる。バイクチェイスに至っては一人だけノーヘル、シャツ1枚というサディスティックなまでの演出だ。

おまけにこのスターの輝きは周りの曲者俳優達を照らし出している。シリーズ3作目の登板となるペッグはコミックリリーフの域を超え、トムちんの最高のスクリーンバディとなった。そう、トムは誰とでも相性の良い俳優だが“名コンビ”と呼べる相手を持たない珍しいキャリアでもあった。

そして最近のトムちんは女優のチョイスもいい。ハリウッド映画にヨーロピアンテイストを持ち込んだ『オブリビオン』のオルガ・キュリレンコ、史上初トムちんとタメを張った『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のエミリー・ブラント、そして本作のレベッカ・ファーガソンだ。イーサン・ハントと対等のスパイである彼女は「全てを捨てて私と逃げましょう」とまるで大スターの重圧から解放されなさいと語りかけているにようにも見え、泣かせるのだ。

 この周りを光らせる貫禄と余裕はトムちんがかつて肩を借りたダスティン・ホフマンやポール・ニューマンのそれではないだろうか。トムにはもうしばらく唯一最後のスターとしてハリウッド映画の恒星であって欲しいように思う。


『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』15・米
監督 クリストファー・マッカリー
出演 トム・クルーズ、レベッカ・ファーガソン、サイモン・ペッグ、ジェレミー・レナー、ヴィング・レイムズ、アレック・ボールドウィン、トム・ホランダー、サイモン・マクバーニー、ショーン・ハリス
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ミッドナイト・スペシャル』

2017-03-27 | 映画レビュー(み)

 何度でも呟いて、その感触を確かめたくなる魅惑的なタイトルだ。
次世代アメリカ監督の中でも最重要の1人、ジェフ・ニコルズ監督の新作『ミッドナイト・スペシャル』は闇夜に身を晒した時の、あの抗い難い夜気の悦びを彷彿とさせる。超能力を持った我が子を守り、旅を続ける父。彼らを追う謎の教団、アメリカ政府…と粗筋を書けば胸躍る冒険SFものに聞こえるが、ここには娯楽ジャンル映画の高揚感は皆無だ。少年の起こす奇跡を妄信する大人たちはどこか狂気的であり、ニコルズの確信に満ちた語り口はそもそもSFというジャンルを描くこと自体が狂気であるようすら思える。かねてより往年のニューシネマに近いルックを持ってきたニコルズ作品だが、本作では同じスピルバーグ映画でも『E.T』ではなく『未知との遭遇』の歪さに近い。

オープニングが素晴らしい。
とあるモーテルで男達が誘拐事件のTV速報を見ている。マイケル・シャノンにジョエル・エドガートン、ごつごつした顔の険しい表情。容疑者として映るのはシャノンだ。彼らは何丁もの銃で武装している。

「行くか」

奥からゴーグルをかけた少年を抱きかかえ、彼らはモーテルを後にする。
シャノンと少年の抱きしめ方を見れば、彼らが父子の情愛で結ばれている事は一目瞭然だ。
甘美な夜闇が車を包むと、まるでそれこそが世界の真実であるかのように音楽が高鳴り、タイトルが現れる。これまでのニコルズ作品を手掛けてきた撮影監督アダム・ストーンの夜間撮影が冴える。

少年は陽の光を浴びると身体が異常を示し、体力を奪われてしまう。彼らは少年の言う座標を目指して旅を続けるが、その道中も少年は成す術なく衰弱していく。
 マイケル・シャノンという符合がニコルズのデビュー作
『テイク・シェルター』を連想させる。世界の破滅が来ると信じたシャノンは災厄に備え、地下シェルター作りに憑りつかれていく。明らかに統合失調症の妄想に見えるのだが、ニコルズは心理スリラーに終わらせず、本当に世界の終わりを到来させる。それは不思議と荘厳な光景であり、僕たちは信念とは狂気をはらみ、狂気は美しさを内包する事を知るのである。

だが『ミッドナイト・スペシャル』は狂気的な信念の旅から、親子の物語へと変奏していく。
少年は自身の力で陽の光を克服し、両親の庇護下から巣立っていく。憑き物が取れたかのような清々しく、慈愛に満ちた父シャノンと母キルステン・ダンストの表情を見よ。これは子育てを終える親たちのイニシエーションの旅でもあるのだ。

ニコルズも人の親になったのか、子を送り出したのだろうか。
 作家としての成熟が伺える、ネクストステージの1本だ。

『ミッドナイト・スペシャル』16・米
監督 ジェフ・ニコルズ
出演 マイケル・シャノン、ジョエル・エドガートン、キルステン・ダンスト、アダム・ドライバー、サム・シェパード
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする